雑誌詳細

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2024年8月号

2024年6月21日発売号   1,800 円(税込)

特集1

法務実務が「動いた」判例

座談会

景品表示法の最新動向をふまえた実務対応と課題
――No.1表示・ステマ規制・AI時代の広告

特集2

「グリーンウォッシュ」リスクと対策

特集1
法務実務が「動いた」判例
日々,全世界の裁判所で数多くの判例が生まれています。それらのすべてを追いかけることは時間もかかり,難しいことと思われる一方,国内外で実務上「これだけは見逃せない」ものもいくつも出されています。
そこで,今月号では,百戦錬磨の執筆陣が「実務に大きな影響を及ぼし,また,今日にも影響を及ぼし続けている判例」,または,「将来において大きな影響を及ぼしうる判例」を選りすぐりました。あらためて,判例が実務に及ぼす影響について再確認してみましょう。
企業法務総合 会社法

内部統制システム構築義務と取締役の責任
――大和銀行株主代表訴訟事件
三笘 裕

大和銀行株主代表訴訟事件(大阪地判平12. 9.20判時1721号3頁)は,大和銀行の海外支店の行員による不正取引に関連して,取締役12名に最大7億7,500万ドルの損害賠償を命じた判決である。本判決は,内部統制システム構築義務を明示的に認めた点で先進的な判決であった一方で,その賠償額の巨額さからマスコミでも大きく取り上げられ,株主代表訴訟制度のあり方についての議論に大きな影響を与えた。

企業法務総合 M&A

新・主要目的ルールの判断枠組みの展開
――ニッポン放送事件
松本真輔

ニッポン放送事件高裁決定が提示した新・主要目的ルールは,当初懸念されたよりもさまざまな要素を考慮しうる柔軟な判断枠組みとして機能し,実務家の創意工夫と裁判官の法創造を引き出すのに重要な役割を果たしたようにみえる。今後も,ガバナンス環境や買収実務の変化をふまえて柔軟に関係者の利害調整の役割を担うことを期待したい。

企業法務総合 M&A

取締役会限りで導入・発動する対抗措置の有効性と限界
――日本技術開発事件
菊地 伸

本決定は,①ニッポン放送事件,②ブルドックソース事件と並び,今世紀初頭の敵対的買収勃興期を飾った決定である。有事に取締役会限りで導入・発動する対抗措置の有効性と限界を示したが,そこでの宿題に20年近い時を経て裁判所が答えを示し,なお示唆するところがある。

企業法務総合 会社法

不祥事発覚後の公表の要否と役員責任
――ダスキン株主代表訴訟事件
太子堂厚子

ダスキン株主代表訴訟事件判決においては,違法な未認可添加物が混入した肉まんの販売の事実を事後的に知った取締役と監査役に対し,当該不正を「自ら積極的には公表しない」という方針を決定・容認したことを理由に,高額の損害賠償責任が認められた。
不祥事発覚後の公表の要否の判断が,役員に重大な個人責任を発生させうることを世に示すことで実務にインパクトを与えた裁判例であり,今もなおその教訓は大きい。

企業法務総合 民法・PL法等

欠陥建物の設計・施工・工事監理による不法行為責任
――別府マンション事件
早川 学

本稿では同一の建築紛争における2件の最高裁判決を取り上げる。この2件の最高裁判決は,欠陥建築に係る民法の不法行為の特則(しかも,「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」として,安全性の欠如を要素とする点において製造物責任に類似する責任)を創設したかのようなインパクトのある判決であり,現在の建築紛争において,あたかも法律であるかのように責任存否の判断基準として機能している。

企業法務総合 消費者関連法

無催告失効条項の消費者契約法10条該当性
――生命保険契約存在確認請求事件
髙山崇彦

本判例(最判平24. 3.16民集66巻5号2216頁)は,実務の適法性を追認したものであるため「法務実務は動い」ていない。しかし,本判例は,消費者契約法10条後段要件該当性の判断における考慮要素を明示していることから,生命保険契約のみならず,Bto Cの約款ビジネスに与えた影響は大きい。加えて,筆者は,上告審から保険会社の代理人の1人として本件に関与する機会を得たことから,本判例を取り上げることとした。

企業法務総合 税務

伝家の宝刀による斬り捨て回避の指針
――ヤフー事件
島田邦雄・井村 旭

税務の判例は実務を変える。組織再編成に係る行為計算否認規定(法人税法132条の2)は,税務当局の「伝家の宝刀」と呼ばれるが,最判平成28年2月29日(ヤフー事件最判)は,同条の適用が争われた初めての事案である。同最判は,最高裁が,その判断方法を法解釈によって明らかにすることで,司法機関としての役割を果たしたという意味で画期的であり,現在の実務を作ったといえるが,企業には今なお「不確実性」が残されている。

企業法務総合 M&A

2段階のキャッシュ・アウト取引における株式の「公正な価格」
――ジュピターテレコム事件
若林弘樹・菊地 諒

ジュピターテレコム事件最高裁決定は,全部取得条項付種類株式を用いた2段階のキャッシュ・アウト取引における株式の取得価格に関して,最高裁として初めて一般的な判断枠組みを示したものとして,その後の同種の価格決定裁判の実務に大きな影響を与えた。本決定後の裁判例の蓄積により,本決定の判断枠組みが求める手続の公正性の水準やこれを満たさない事案の帰結についても一定の方向性が示されているが,引き続きその動向を注視する必要がある。

企業法務総合 国際

「環境対策は人権問題」企業に責任分担を求める新時代の判決
――Milieudefensie et al. v. Royal Dutch Shell plc.事件
中島 茂

オランダ,ハーグ地裁が環境団体の提訴を受けて2021年5月26日,シェル社に対して下した判決は,国連「ビジネスと人権に関する指導原則」が民法の注意義務に導入されるとしたうえで,気候変動対策の不備はオランダ居住者・ワッデン地域住民に対する人権侵害であり,不法行為を構成するとの判断のもと,同社に対しCO2の排出を2030年までに2019年対比で45%削減するように命ずるものであった。判決の基礎には気候変動対策は全世界で取り組むべき緊急課題であり,国,企業,国際社会がそれぞれ責任を分担し実行しなければ達成できないという強い危機感がある。企業にも相応の覚悟を持った取組みが求められる時代が始まった。

企業法務総合 コンプライアンス

企業コンプライアンス・プログラムに対する示唆
――MHPS事件(日本版司法取引適用第1号案件)
結城大輔

本件は「日本版司法取引」の適用第1号案件であり,会社が検察の捜査に協力し,不起訴となる一方,関与していた役員らが起訴され,有罪になった事案として,"制度が本来予定していたかたちと異なる"などと話題になった。刑事事件判決ではあるが,企業コンプライアンス・プログラムに関する会社法上の内部統制システム構築義務と取締役の善管注意義務に関連して,実務の姿勢を切り替える潮目になった判決であるとの観点で取り上げる。

企業法務総合 コンプライアンス

サステナビリティ時代のガバナンス対応
――「宮本から君へ」事件
武井一浩

本裁判例(最判令5.11.17判タ1518号67頁)は会社法・金商法に関するものではないので,本特集のなかでも異質な裁判例の紹介ではないかと思われるが,昨今のガバナンスの重要性が高まる時代における一定のメッセージ性について取り上げたい。なお本判例の主題である憲法・行政法等にかかわる論点には言及しない。

地平線
小説も書く弁護士
企業法務総合

牛島 信

私は弁護士をしている傍ら文章を書く。小説とエッセイである。余技である。
最初の小説『株主総会』(幻冬舎,1997)は,株主総会の準備を手伝っていた経験にもとづいてのものだった。あとがきに,「総務の人間への委任状の取り付け」を「単なる法律上の一論点にとどめず小説にまで組み立てたのは,私が『団塊の世代』の一員であり,かつ,私の仕事としてその世代の人々の『リストラ』のことに携わったからだと思う」と書いた。
そうだったなあと27年たって思い返す。

Trend eye
中小M&Aの新たなレギュレーション
M&A仲介協会自主規制ルールの展開
M&A

横井 伸

2023年12月14日,M&A仲介業の自主規制団体である一般社団法人M&A仲介協会は歴史的な自主規制ルールを決議し,即日公表した。

座談会
景品表示法の最新動向をふまえた実務対応と課題
――No.1表示・ステマ規制・AI時代の広告
景品表示法をめぐる実務が活発化しています。
2023年10月にいわゆるステマ規制が施行され,本年に入ってからは「No.1表示」の執行事例が相次ぎました。法改正による規制強化や当局の法執行の運用が厳格化するなか,事業者の対応が急務となり,また,昨今は生成AIによる偽情報・誤情報の影響も懸念されます。
本座談会では,広告規制をめぐる近時の実務論点と今後の法制度を検討します。

【登壇者】
染谷隆明(司会)(池田・染谷法律事務所 代表弁護士)
板倉陽一郎(ひかり総合法律事務所 パートナー弁護士)
大屋雄裕(慶應義塾大学法学部 教授)
若松 牧(株式会社ZEALS 経営管理部,弁護士)
渡辺京子(花王株式会社 コーポレート戦略部門)
特集2
「グリーンウォッシュ」リスクと対策
「グリーンウォッシュ」に対する規制強化や訴訟リスクの高まりが顕著です。COP27における演説でグテーレス国連事務総長は「We must have zerotolerance for net-zero greenwashing(私たちは,ネットゼログリーンウォッシングを決して許してはならない)」と断じましたが,それ以降企業によるグリーンウォッシュに対して世間の目は確実に厳しくなり,いまや企業経営上の重要なコンプライアンス問題にまで発展しています。
そこで,国内外においてその動向が注視されており,「知らない」では済まされないグリーンウォッシュの最前線に迫ります。
国際 サステナビリティ・人権

グリーンウォッシュをめぐる先進国の規制動向
大沼 真・宮下優一・渡邉啓久

企業によるカーボンニュートラル等の環境に配慮した取組みが加速しているなかで,それを対外的に表示する際には,ステークホルダーを誤認させないよう細心の注意を払わなければならない。「『グリーンウォッシュ』リスクと対策」と題する本特集のはじめに,主要先進国の規制動向を概観する。

消費者関連法 サステナビリティ・人権

グリーンウォッシュに関する広告・表示上の法的ポイント
渡邉啓久

国内法のもとにおける商品・役務の広告・表示上のグリーンウォッシュ規制は,不当景品類及び不当表示防止法に基づく優良誤認表示に関する規制が中心となる。本稿では,グリーンウォッシュと優良誤認表示の問題を関連するガイドラインにも言及しつつ,企業の広告・表示がグリーンウォッシュと評価されないために心がけるべき実務的なポイントを整理する。

金商法・資金決済法 サステナビリティ・人権

グリーンウォッシュに関する企業情報開示上の法的ポイント
宮下優一

企業が行う投資家向けの情報開示については,グリーンウォッシュに関する新しい法規制が日本で存在するわけではなく,既存の虚偽記載等の責任枠組みが適用される。しかし,実務の現場では,グリーンウォッシュに限らず当該責任の法的リスクが十分に意識されていない場合があり,当該意識を高めることが重要である。本稿では,企業が行う投資家向け情報開示に関し,グリーンウォッシュの観点から留意すべき法的ポイントを概説する。

会社法 サステナビリティ・人権

グリーンウォッシュと訴訟・取締役の責任
大沼 真

海外では,グリーンウォッシュにかかわる規制の強化と時を同じくして,グリーンウォッシュをめぐる訴訟が増加しつつある。かかる訴訟では,企業のサステナビリティに関する情報開示や広告表示の内容が,虚偽・過大であり違法であることを主張するものが多いが,今後訴訟がさらに増加し,企業の違法行為や損害賠償責任が認められるようになれば,それに伴い取締役の責任が問題となる場合も生じうるであろう。そこで,本稿では,グリーンウォッシュにかかわる主要な訴訟事例を紹介したうえで,グリーンウォッシュと取締役の責任について考察する。

実務解説
解説 企業価値担保権制度の創設
――事業性融資の推進等に関する法律案
金商法・資金決済法

倉持喜史

企業価値担保権制度の創設を中心に据えた事業性融資の推進等に関する法律案が第213回国会に提出された。企業価値担保権は,無形資産など,従来の法制度のもとでは担保権の設定が困難であった事業資産についても担保価値を認めた資金調達(事業性融資)を可能にするものとして注目される。本稿では,同法案の概要を紹介するとともに,新制度の活用を考えるにあたって実務上ポイントとなる事項を解説する。

企業法務総合

広告主目線で考える
広告出演契約のチェックポイント
小林利明

広告出演契約の内容はおおむね定型化されているが,実質的な交渉ポイントに相場感覚をもって的確に対処するにはある程度の経験を要する。本稿では,広告主企業の法務・契約担当者の目線から,広告出演契約の主要検討ポイントについて解説する。

労働法 国際

海外へ人を「送る」際の労務上の留意点(上)
松下佳南子

パンデミックに伴う渡航制限も解除され,日本企業による従業員の海外派遣1も回復の兆しにある。本稿では,企業が従業員を海外に派遣する場合に労務上留意すべき点として,上下編に分けて米国,EU,英国,オーストラリア,中国の基本的な労働法制を,労働時間や休暇等の労働条件,およびハラスメント法制を中心に解説する。

テクノロジー・AI コンプライアンス

「AI事業者ガイドライン」の読み方とビジネス上の論点
丸田颯人

2024年4月19日に総務省および経済産業省から公開された「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」のポイントと読み方を,法的観点も織り交ぜつつ簡潔に説明する。

Lawの論点
近時の公開買付け事例の分析
――ニデックのTAKISAWA買収における論点
金商法・資金決済法 M&A

飯田秀総

本稿では,ニデックによるTAKISAWAへの公開買付けの事例を分析する。なぜならば,公開買付けの強圧性の問題へ対処するための工夫が施されており,金融審議会「公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ」報告(2023年12月25日)における追加応募期間に関する提言との関係で興味深い事例だからである。

連載
【新連載】
事業展開×知財×法務
第1回 自社単独で新規事業を展開する際の盲点
知財

笹本 摂・佐藤武史・今 智司

企業活動の肝は法務,そして知財である。ドラッカーは「企業の目的」は「顧客の創造」であり,「顧客」が「価値ありとするものが決定的に重要」と指摘するが,価値の源泉は知財である。有機的に連携する企業のさまざまな部門には法務と知財がかかわるため,知財の理解は価値創造やコンプライアンスの点から不可欠である。本連載では,事業展開において法務担当者が主に特許について,実務上で目配りすべき要点を解説する。

消費者関連法

最新判例アンテナ
第73回 消費者裁判手続特例法2条4号所定の共通義務確認の訴えにおいて,同法3条4項の支配性の要件を欠くとした原審の判断に違法があるとされた事例
(最判令6. 3.12裁判所ウェブサイト等)
三笘 裕・光明大地

Yらは,ウェブサイトまたは動画を通じて,誰でも確実に稼ぐことができる簡単な方法がある等として,仮想通貨取引の解説等をするDVD等の商品・役務(販売価格:49,800円~498,000円)の購入を勧誘し,のべ約6,700人の消費者(以下「対象消費者」という)に対しこれを販売した。消費者裁判手続特例法(以下「法」という)2条10号所定の特定適格消費者団体であるXは,Yらが虚偽または実際とは著しくかけ離れた誇大な効果を強調した説明をして商品・役務を販売したこと等が不法行為に該当すると主張し,法2条4号所定の共通義務確認の訴えを提起した。

テクノロジー・AI

AIガバナンス相談室
最終回 AIガバナンス――完結編
岡田 淳・羽深宏樹・飯野悠介・ 佐久間弘明

本連載を通じて,前半ではAI利用事業者,後半ではAI開発・提供事業者の目線から,具体例も交えつつ,複合的な観点(社内ルール・組織体制・技術・契約など)でAIガバナンスを議論してきた。繰り返し述べてきたように,AIガバナンスは単に法律で決められたことを守るという視点を超えて,ビジネスのためにどのようなリスクをとるのかを主体的に選択し実践する経営マターである。他方で,約半年にわたる連載期間中に,政府の側でもソフト・ローを中心とするさまざまな取組みが進展し,指針となる各種文書も次々と公表された。最終回となる今回は,本連載のまとめとして,事業者が参照すべき主なソフト・ローを簡単に紹介しつつ,最新の政策潮流にも触れることとする。

企業法務総合

LEGAL HEADLINES
森・濱田松本法律事務所編

2024年4月・5月の法務ニュースを掲載。

■「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(第29回)が開催(ガバナンス)
■最高裁,株券発行会社における株券発行前の株式譲渡の当事者間での効力を認める旨の判決(会社法)
■金融庁・証券監視委,株式報酬に関する「インサイダー取引規制に関するQ&A【応用編】」を追加(金商法)
■政府・知財戦略本部,「AI時代の知的財産権検討会 中間とりまとめ(案)」を公表(知財)
■公取委,「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方」を改定(独禁)
■経産省,輸出管理制度の見直しに関する中間報告を公表(通商)
■政府,「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律案」を閣議決定(独禁)
■最高裁,職種等の限定合意がある場合における異なる職種等への配置転換命令が違法であるとする破棄差戻判決(労務)
■経産省,「企業情報開示のあり方に関する懇談会」を立上げ(開示)
■東証,プライム市場における英文開示の拡充に向けた上場制度の整備に係る有価証券上場規程等の一部改正(会社法)
■重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律が成立(経済安保)
■情報流通プラットフォーム対処法の成立(IT)
■投資運用関係業務受託業に係る制度の導入等を含む改正金商法,投信法の成立(金商法)
■エネルギー基本計画の見直しが開始(エネルギー)
■東京地裁,AI発明の特許を否定(知財)

企業法務総合

悔しさを糧に――学べば開ける☆
第5話 自分が驚かないことに,人は驚く?
木山泰嗣

弁護士としての実働から通算して20年を超えた税法学者が,税務の仕事に限らず,学生・受験生のころに経験したエピソードを挙げ,自分の思うようにいかない現状(=悔しさ)を糧に,どのように学び,どんな活路を開いてきたのかを語ります。

労働法

労務コンプライアンス最前線
――働き方改革2.0に向けて
第2回 労働条件の明示・裁量労働制
岩野高明

本裁判例(最判令5.11.17判タ1518号67頁)は会社法・金商法に関するものではないので,本特集のなかでも異質な裁判例の紹介ではないかと思われるが,昨今のガバナンスの重要性が高まる時代における一定のメッセージ性について取り上げたい。なお本判例の主題である憲法・行政法等にかかわる論点には言及しない。

国際 テクノロジー・AI

不正調査実務とフォレンジック
最終回 海外子会社におけるコンプライアンス
飯塚 元・西口阿里沙

海外子会社に対するリスク管理が複雑化していることをふまえ,海外子会社において不正が発生した際の調査における注意点や,海外子会社におけるデジタルフォレンジック調査を実施する際の注意点等について解説する。

企業法務総合

「株式法務」最新Q&A
――株主総会,コーポレート・ガバナンスの現場対応
第3回 障害者差別解消法と株主総会
飯塚 元・西口阿里沙

Q 2024年に障害者差別解消法が改正されて,事業者による障がい者に対する合理的配慮の提供が義務化されたが,株主総会開催に向けて,どのような対応を行う必要があるか。

企業法務総合

いまでも覚えています あの人の「法務格言」
第11回 「全部有休を消化してからでなければ例外は認められない」
白石弘美

弁護士になる前,新卒で日系企業に入社し,それなりに1人で仕事ができるようになったある年の冬のことです。スキー旅行中にスリップを原因とする自動車の多重事故に巻き込まれ,むち打ちになってしまいました。整形外科での典型的なむち打ち治療である牽引という首を引っ張る理学療法が始まり,毎日通院するようにとの指示が出されました。時は90年代,フレックス制も時間休制度もまだそれほど一般的ではなく,勤務先の会社には半休制度しかありませんでした。

企業法務総合

ライアン・ゴールドスティンの"勝てる"交渉術
第5回 あなたは店員のおススメを断れるか
――交渉は前向きな姿勢と提案で加速する
ライアン・ゴールドスティン

「ライアン先生,お電話です」と,秘書が取り次いだ電話は,まったく知らない人からで,業務にさえまったく関係のない商品の紹介であった。「すみません。間に合っています」と電話を切ると,秘書が「社名も自分の名前も名乗られたし,ライアン先生と親しげな口調でしたので,知り合いかと思いました。すみません」と申し訳なさそうに謝った。
私が代表を務めるクイン・エマニュエルの東京オフィスは連絡先や所在地を公開しているから,私の名前を知っていてもおかしくないし,知人やクライアントを装うこともできるだろう。それにしても,だまし討ちのようなやり方は不愉快であった。気分転換にコーヒーを買いに出かけると,なじみの店員から「ライアンさん,新しいフレーバーを試してみませんか? すぐにできますよ!」とにこやかに声をかけられた。実はそのフレーバーはあまり好きではなかったのだが,不愉快なことの後だったせいか,笑顔に癒されたのか,「そうだね!」と答えている自分がいた。今回は,交渉の方法と進め方について考える。

企業法務総合 テクノロジー・AI

PICK UP 法律実務書
『プライバシーテックのすべて』
小和田 香

「プライバシーテック」?
聞いたことはあっても,正確に説明できる人は少ない用語なのではないだろうか。
本書は,多義的な「プライバシーテック」を実務視点で解説。目的達成の手段にすぎないテックを,プライバシーガバナンス整備やデータ利活用において,どう使って問題解決するかをガイドしてくれる本である。

国際 争訟・紛争解決

ストーリーでわかる 国際仲裁の基本
第3回 国際仲裁における審理手続
伊藤 遼・魚住 遼

【前回までのあらすじ】
日本の化学品メーカーである甲社は,米国の化学品メーカーである乙社から,乙社の日本子会社であった丙社の発行済株式すべてを譲り受けた。しかし,株式譲渡実行後,丙社の工場敷地内に特定有害物質が含まれていることが判明したため,2024年4月,甲社は,日本商事仲裁協会(JCAA)に対して,乙社を相手方とし,表明保証違反を理由とする補償請求を申し立てた。
JCAAは,当事者の意見をふまえ,仲裁人の人数を3名とすることを決定し,当事者それぞれに仲裁人を選任するよう要請し,甲社は日本国籍を有して仲裁に関する経験が豊富なA弁護士を甲社選任の仲裁人として選任し,乙社は,米国国籍を有するB弁護士を乙社選任の仲裁人として選任した。

M&A

「周辺学」で差がつくM&A
第9回 スタートアップ─法務編─
山本晃久・松本祐輝・磯田将太

近年,日本においてもIPOだけではなくM&Aによるエグジットも選択肢に入れるスタートアップが増えつつある。もっとも,スタートアップは事業面のみならず法令遵守態勢を含む社内体制等さまざまな領域で「未成熟」であることは否めず,買収者にとって,社歴の長い企業を買収する通常のM&A案件とは留意すべき点が異なりうることを認識しておく必要がある。 買収対象となるスタートアップの規模は相対的に小規模であることが多いことからか,デューデリジェンスや契約交渉が簡略化されている例も散見される。しかしながら,実際には,買収時に認識していなかった重大な問題が買収後に発覚する等,トラブルが少なからず生じている。スタートアップのM&Aに携わる法務関係者としては,その点を十分留意しておきたい。

特別収録
ビジネス実務法務検定試験® 1級/2級演習問題
企業法務総合