業務提携契約の類型と留意点
重冨貴光
業務提携の主な目的は,他者の人的・物的リソースを活用して自らのリソース不足を補い,自らの事業を構築・維持・拡大することにある。業務提携には「販売」「開発」「生産」の各提携がある。いずれの提携においても,①業務提携によって活用すべき他者の業務・役割および人的・物的リソースの特定,②他者との業務提携を行うに値するか否かの評価作業,③業務提携先以外の他者との提携可能性の見極め,④業務提携契約終了時における事業遂行の安定性確保には留意すべきである。
販売提携(販売店契約・代理店契約・フランチャイズ契約)
岡田さなゑ
自社製品について第三者と販売提携を検討するにあたっては,当該第三者に付与すべき権利や義務の内容を吟味し,それに合致した契約形態を選択しつつ,独占権等の大きな権利を付与する場合には義務も相応に重くするなど,バランスのとれた契約とすることが重要である。
技術提携・共同開発提携
古庄俊哉
複数の企業が提携して共同で製品の開発等を行う技術提携・共同開発提携においては,共同開発テーマに関して各当事者が担う役割,費用負担,進捗状況の報告,得られた成果の帰属・利用,開発中止時の措置等の契約条件を適切に定めておくことが重要である。
生産提携(OEM・ODM)
石津真二
ある企業が別の企業に製造を委託する生産提携(OEM・ODM)においては,委託業務の内容,再委託の可否,最低発注保証,検査(検収),契約不適合責任,製造物責任,知的財産権の帰属・紛争対処,秘密保持義務等の各契約条件を適切に定めておくことが重要である。
国際業務提携契約を締結する場合の留意点
岸本 愛
岡田稿ないし石津稿の解説で指摘した業務提携契約のパターン別留意点は,海外企業との業務提携契約でも基本的には該当する。ただ,海外企業との業務提携契約の場合,相手が海外企業であるがゆえに,別途考慮が必要となる問題がある。本稿ではそれら留意点について解説する。
事業部との連携と工夫の勘所
松本健男
業務提携の交渉をスムーズに進め,遺漏のない契約書を作成するためには,事業部との連携が不可欠である。法務部に所属する読者に向けて,事業部との連携のためにどのような工夫をすればよいか,各段階においてどのようなサポートをすることが適切かについて解説する。
スポーツスポンサーシップの類型と今後の課題
――スポーツに関する価値算定の意義・手法を中心に
稲垣弘則・小幡真之
近年,スポーツ産業におけるスポンサーシップのあり方が見直され,企業にとって投資価値のある戦略的パートナーシップへと変容しつつある。本稿では,近年の動向をふまえてスポンサーシップの類型を改めて整理するとともに,今後の課題としてスポーツに関する価値算定の意義・手法等について概説する。
知的財産法・景表法上の要点
北島東吾
スポンサーシップに関係する多種多様な関連法令のうち,実務上,目にすることの多い著作権法,商標法および景表法を中心に,スポンサーシップを行ううえでの留意点について解説する。
不測の事態に備える契約条項の検討
加藤志郎
スポーツやそのライツホルダーに関連する不測の事態により,スポンサーシップの目的達成が困難となった場合,スポンサー企業として適切な対応をとり得るよう,企業法務的な観点からスポンサーシップ契約において規定しておくべき条項等について解説する。
スポーツ団体のガバナンスチェックとガバナンス体制の見直しのポイント
――人材不足の解消
稲垣弘則・小幡真之
本稿では,スポンサー企業によるスポーツ団体のガバナンスチェックのあり方を概説するとともに,スポンサーシップを通じたスポーツ団体におけるガバナンス体制の見直しのポイントとして人材不足の解消について検討する。
スタートアップのダイナミズムに飛び込む
淵邊善彦
イノベーションを起こし急成長するスタートアップ企業の法務は,経営者と伴走しながら,スピード感や柔軟性のあるアドバイスが求められ,大きなやりがいを感じられる仕事である。その世界のダイナミズムに触れられる書籍を紹介する。
第一歩は気軽に! ビジネス力の基本書
美馬耕平
ビジネスの成功を実現させるために必要な多くの要素のうち,本稿では「強い組織」「ビジネスマインド」「コミュニケーション」を念頭においた。本を読むのは好きだが勉強が苦手で,専門書となると文字が入ってこない。法務部員たるもの専門書を楽しむべし!といわれてしまうかもしれないが,私から紹介するのは,読みやすい本である。
すべての道は法務に通ず
松下洋也
法務部員の役割は,専門職的な側面もあるが,外部弁護士とは明確に異なる。この違いが理解できると,法律の深い理解に加え,幅広い知識の習得の必要性も理解できる。法律書から経済書まで,あらゆるジャンルの書籍がスキル向上に寄与するのである。
経営の礎に法学あり
宮崎裕子
筆者は弁護士から企業内法務に転身し,その後代表取締役社長を務めた。キャリアの傍らには,心強い助言者として常に本があった。自室の書棚を眺めると自身のチャレンジの軌跡が浮かび上がる。これらの本から,法律家としての価値観醸成に寄与した1冊,経営に必要な基礎を学んだ1冊,未来の企業経営の羅針盤となる1冊を紹介する。
薬石となった本とのめぐり合い
伊藤 司
社会人になり本屋に立ち寄った際,今後自分がどういう書籍コーナーに立つのか思いをめぐらしたことがあるが,本稿で紹介するような本を手に取るとは思いもしなかった。いろいろな本に出会ってきたが,その時々に仕事や心の支えとなった本を紹介する。
企業法務が変える,ビジネスとその先の社会
北島敬之
2011年に国連において「ビジネスと人権に関する指導原則」(指導原則)が発表され,SDGsやサステナビリティの観点での企業の役割に焦点があてられるなかで,ビジネスと人権のかかわりをどう考え,企業としての責任をどう果たしていくかが経営の課題となっている。経営の観点から,人権について,自社の課題とどのように向き合っていくかの立場やアクションを表明し,実行していくことが求められている。
理系出身法務担当者が出会った「テクノロジーと法」
尾下博幸
筆者は研究所出身であり,日頃は法律書・経営書というよりも新規技術の入門書等を手に取ることが多いが,本稿では,研究開発等の契約業務の際に参考にしている書籍を2冊,また,今すぐ役立つかはわからないが,(個人的に)興味深いと思われる書籍を1冊紹介する。
志高く,リスクマネジメントできる組織を目指して
石井隼平
事業に貢献する法務機能を発揮し続けるには,時代の変化に合わせて,自己研鑽し続け,かつ他分野からも学ぶことも重要である。本稿では,筆者が自身の業務レベルを上げるにあたり,参考にしている本を共有する。
未来の法務に寄せるメッセージ
山本芳郎
未来の法務の価値を考える。
AIの急速な進化に,法務という仕事はどうなるのだろうか。そんな心配をする方々におすすめの2冊と映画1本を紹介する。
期待を背に,リーガルはさらなる高みへ
坂本英之
ESG経営・投資への意識の高まり,リーガルテックの拡大などにより,企業の法務部門への期待も高度化している。この中で①法務担当者の行動指針,②ESG経営・投資に貢献するためのガイダンス,および③長期的キャリア形成の道しるべとなる3冊の書籍を紹介する。
裘 索・洪 一帆
中国の新民事訴訟法が2024 年1月1日より施行された。渉外民事訴訟手続において中国人民法院管轄権の拡大や送達方法の改善などがなされ,今後国際民商事紛争解決の効率向上が期待される。
「裁量労働制」制度改正(令和6年4月施行)の実務解説
――厚生労働省の立案担当者解説(上)
益原大亮
裁量労働制の制度改正が令和6年4月に施行される。省令等の改正であるが,改正項目は多岐にわたり,法律改正と遜色ないほどに実務上の影響がある。本稿では,厚生労働省における本改正の立案担当者が,弁護士目線での実務上のポイントも含め,特に実務上の影響の大きい点に焦点をあてて解説する。
「従属上場会社における少数株主保護の在り方等に関する研究会」の論点整理
清野訟一
東京証券取引所が設置した「従属上場会社における少数株主保護の在り方等に関する研究会」では,実質的な支配力を持つ株主を有する上場会社において,少数株主の過半数が賛成した場合のみ独立役員としての届出を認めることが検討されるなど,実務に大きな影響を与える可能性のある議論が進行中である。
これだけは押さえておきたい
ハラスメント被害申告への適切な対応法
虎門中央法律事務所 労務管理アソシエーション
昨今,ハラスメント事案は企業のガバナンスにかかわる大きな問題となる一方で,対応については問題が発生する都度頭を悩ませている担当者も多い。以下,ハラスメントの被害申告への一連の対応における留意点について,実務上の悩みに触れながら解説する。
クラウドビジネスにおける独占禁止法上の問題点
――ライセンス料の差別的設定を中心に
長橋宏明・佃 浩介
クラウドの利用がビジネスの形態として定着しつつある近年,関連して生じ得る独占禁止法違反の問題に社会的注目が集まっている。本稿ではそのなかでも,クラウド環境で利用されるアプリケーション等のライセンス料設定に係る同法上の問題点について解説する。
川口言子
企業法務関係者から英語習得法を聞かれることがある。入社までパスポートも持っていなかった私が,今は曲がりなりに英語で仕事もするからだろう。ただ,そのたびに,私は戸惑い,目が泳ぐ。
菊池浩明
本稿では,「犯罪予防や安全確保のためのカメラ画像利用に関する有識者検討会 報告書」(以下「報告書」という)について解説し,より信頼できるカメラ画像の利活用に向けた提言を行う。
岡田 淳・羽深宏樹・佐久間弘明
2023年は,AIの実装が新たなフェーズに入った年だったといえる。1 月には,OpenAI社が提供するChatGPTが,史上最速の2カ月間で1億ユーザーを獲得した。3月に最新モデルのGPT-4がリリースされると,その人間らしい振る舞いと幅広いタスクへ対応する能力に世界は驚愕した。ほかにも,グーグルのBard,メタのLlama 2,アンスロピックのClaude 2などの文章生成AIや,Midjourney,Stable Diffusion,DALL·E 3といった画像生成AIなど,従来では想像もできなかったような高性能のAIが次々と注目を集めた。
LEGAL HEADLINES
森・濱田松本法律事務所編
キャリアアップのための法務リスキリング!
最終回 自分の「看板」を作る!
~転職によるリスキリングの一事例~
遠藤千尋
一目でわかる「看板」を持てれば,事業主であろうと組織人であろうと多くのチャンスがめぐってきます。本稿では,過去の転職経験をもとにリスキリングを通じてどのような「看板」を作ってきたか,一経験をご紹介します。転職回数から私の試行錯誤ぶりがうかがいしれるように思いますので,読み物として皆さまのご参考になれば幸いです。
アメリカ民事訴訟実務の基礎と留意点
第7回 トライアル(公判)手続
奈良房永・笠継正勲
裁判を題材にした映画では,弁護士が陪審員に向かって弁論を行っていたり証人に対して厳しい反対尋問をしていたりする光景が多い。これはトライアルの様子を表しているが,このようなドラマチックな部分は裁判手続のごく一部に過ぎず,実際のトライアルにはさまざまな手続が存在し,遵守する必要がある。短期間の集中審理となるトライアルに踏み切る場合,相当な準備期間と膨大なリソースが必要であることを理解しておくべきである。
ファッションローへの誘い
最終回 店舗外観・内装の保護
西村雅子
消費者の購買の多くが通信販売によるものとなり,バーチャル試着も可能となっているとはいえ,第2回で取り上げたように,素材感や着用感の確認にはリアル店舗の必要性が高い。いまだ購買の大部分が実店舗というデータも出ている(「購買の9割は実店舗。オンラインにも貢献するオフライン購買データの活用法」impress.co.jp。2022年8月1日付)。書籍を購入する際にECサイトで検索して購入する場合にはピンポイントで欲しい本しか見ないが,書店に行った場合には棚に並んでいる他の本も目に入ることにより新たな興味がわき予定していなかった本を購入することがある。ファッションについても同じであり,予定していなかった購買が発生しやすいオフラインの重要性が指摘されている。今回はオフラインの購入の場である店舗の外観や内装,商品陳列の態様の保護について取り上げたい。
最新判例アンテナ
第67回 職務発明に係る特許を受ける権利を使用者等に原始取得させる旨の黙示の合意の存在および原始取得規定の遡及適用が否定された事例(知財高判令5.6.22裁判所ウェブサイト等)
三笘 裕・畑中弓佳
Y社の代表者Aは,2012年5月にX社の従業員となり,2018年10月15日にX社を退職した。その後,Y社は,Aを発明者として,各発明(以下「本件各発明」という)について特許出願を行い,特許権(以下「本件各特許権」という)を取得した。
考える法務――基本と初心とささやかな試み
第5回 しない約束
大島忠尚
「原告及び被告は,本和解の事実及び内容を,みだりに第三者に口外しないことを約束する。」「原告及び被告は,今後,互いに誹謗中傷したり,不利益な言動をしないことを約束する。」
訴訟上の和解では,和解調書に上記のような条項を入れることがあります。違反すれば債務不履行による損害賠償請求がなされる可能性があり,場合によっては和解金・解決金の返還を請求されることもあります。
考えてみると「しない約束(不作為の合意)」には他にもいろいろなものがあります。そこで,本稿ではこの「しない約束」を題材に考えてみたいと思います。
Introduction 宇宙ビジネス
第5回 打上げビジネスと法規制
――さまざまな打上げ手法と手続規制の概要
毛阪大佑・岩下明弘・北村尚弘
人類が盛んに宇宙活動を行う時代になれば,ロケット等の打上げは,産業の基盤となる重要インフラの一種と位置づけられるだろう。本連載第4回では,打上げビジネスに関する契約関係・責任関係に焦点をあてて解説を行ったが,本稿では,さまざまな打上げ手法について事例を用いながら紹介するとともに,それぞれの打上げ手法において問題となる法規制や法的手続の概要を紹介する。
責任追及を見据えた従業員不正の対処法
第2回 キックバック
木山二郎・今泉憲人・大屋広貴
本稿においては,キックバック事案を取り上げたい。キックバック事案は,典型的な従業員不正であるものの,証拠収集に困難が伴う等,事実関係の調査や責任追及等に一定のハードルがあり,その留意点について解説する。
サプライチェーンの危機管理対応
第2回 サプライチェーンにおける危機管理(環境リスク)
福原あゆみ
本連載では,サプライチェーンで生じた不正事案等の影響が自社に波及する場合を念頭に置き,危機管理対応の要点について解説を行う。第2回となる今回は,環境リスクに焦点を当て,気候変動をはじめとするリスクへの対応について検討する。
いまでも覚えています あの人の「法務格言」
第5回 「交渉相手を最大限リスペクトせよ」
松村光章
「交渉相手を最大限リスペクトせよ」。これはIBMで敬愛する上司の言葉です。企業間取引は交渉当事者の信頼関係を土台としている。法務時代からわかっていながら,渉外担当となって,ことさらこれを意識するようになりました。
海外契約条項の「知らない世界」
第4回 ESG関連条項に触れてみよう
コリン・トレハーン・田中亜樹
近時,企業活動においてESG(環境・社会・ガバナンス)要素を考慮することへの要請が高まっている。ESG関連条項が海外企業との契約書に設けられる例も見受けられるが,日本の実務ではなじみがないものも多い。本稿ではそのようなESG関連条項を取り上げる。
「周辺学」で差がつくM&A
第4回 バリュエーション(企業価値評価)―法務編―
山本晃久・渡邉貴久・近藤慎也
本号では,法務担当者が直面するM&Aにおけるバリュエーションに関する事項の典型的な例として,非上場株式の譲渡における現金を想定した譲渡価額の調整メカニズムと,上場株式の「公正な価格」の意義について,前号・前々号で学んだバリュエーション理論との関係も意識しながら解説する。
その広告大丈夫?
法務部が知っておくべき景表法の最新論点
第4回 期間限定表示・チケット販売広告
渡辺大祐
今月は2つの論点について取り扱う。まず,事業者が商品やサービスについて「期間限定のキャンペーン」を実施し,その旨の広告をすることはよくあるが,その際の留意点について解説する。次に,近時チケットの販売業務に関して初めて措置命令が行われたことをふまえ,同業界固有の事情も念頭に置きつつ,チケット販売に関する広告について解説していく。