「データ契約」取扱いに際する法務担当者の心構え
――求められる役割と生成AIとの関連性
中崎 尚
今日,事業分野を問わず,ビジネスにおいてデータの取扱いは必須である。他方,契約におけるデータの取扱いは,まだまだ社内で十分に理解されていないことも多い。その結果,法務担当者は,社内では事業担当者とゼロからのコミュニケーションを,社外では相手方担当者とのタフなネゴシエーションを迫られる場面もめずらしくない。本稿では,かかるリスクの最小化に向けた法務担当者の心構えを,生成AIとの関連を交えて紹介する。
「AI・データ契約ガイドライン(データ編)」の要点と営業秘密・限定提供データによる保護
影島広泰
「AI・データの利用に関する契約ガイドライン(データ編)」は,データの利用,加工,譲渡その他取扱いに関する契約を「データ契約」と呼び,これに関する法的な論点を整理したうえで,契約条項の例を提示している。また,データ契約を①データ提供型,②データ創出型,③データ共用型(プラットフォーム型)の3つの類型に分けて,分析・解説を行っている。データ契約の作成・レビューの際に参照すべき重要なガイドラインといえる。
「データ提供型」「データ創出型」契約締結時の勘所
松下 外
データ関連契約に関しては,「データ提供型」「データ創出型」の区分が議論されることもあるが,法的には大きな違いはない。むしろ,対象データの特定,取得,使用および提供等の観点からの契約条件の整理・検討がより重要である。その際には,いわゆるライセンス契約と異なり,データの使用禁止条件の設定がデータ関連契約の要点であることを十分に意識することが有益である。
データ共用(プラットフォーム)型契約の実務
尾城亮輔
データ共用(プラットフォーム)型契約とは,複数の事業者間で共通のプラットフォームを設置し,データの共有をするというものである。単独の取引というよりも多様なプレイヤーがかかわる事業そのものであり,さまざまな考慮が必要になるが,データの集積を促すために,プラットフォームに対する信頼をどのように確保するかという点が重要なポイントになる。
海外企業とデータ契約を締結する際の留意事項
野呂悠登・上村香織・那須 翔
本稿は,海外企業とのデータ契約締結の①検討手順と②具体的な留意事項を解説するものである。①の検討手順については,適用法を特定したうえで,対応方針を決定することになる。その際には,リスクベースのアプローチで検討することが考えられる。②の具体的な留意事項については,データ契約特有のものとして,データ保護・プライバシー関連法規,知的財産関連法規,競争法規および輸出入規制関連法規がある。これらの法規について,EU,米国,中国の規制を紹介する。
渋谷高弘
ESG(環境,社会,ガバナンス)を考慮した投資や経営方針を前向きに進めるべきという認識が日本でも広まってきた。しかし,アメリカの一部の州では,近年これに対抗する「反ESG」の動きが強まってきている。
奈良房永・ステーシー・イー
ESG(環境,社会,ガバナンス)を考慮した投資や経営方針を前向きに進めるべきという認識が日本でも広まってきた。しかし,アメリカの一部の州では,近年これに対抗する「反ESG」の動きが強まってきている。
田村次朗
2023年3月,公正取引委員会は,大手電力会社が独占禁止法の不当な取引制限に該当する行為を行ったとして,排除措置命令,課徴金納付命令を出した。特に,課徴金納付命令に係る金額が合計で1,000億円を超えており,世間的にも注目を集めている。本稿では,電力カルテル事件を中心に,カルテルに係る法的問題,法執行について論じる。
国境を越えたネットワーク関連発明の特許権侵害に対する一考察
――ドワンゴ事件と属地主義の原則に基づく検討
長沢幸男・笹本 摂・佐藤武史・今 智司
「ネットワーク関連発明」が国境を越えて実現される場合,属地主義の原則の堅持を前提とし,日本法における特許権侵害が認められるための理論として均等論の類推適用や発明の効果発生地の重視,「情報」を「物」として類推適用できる余地があることを提案した。
判例からひも解く国際裁判管轄のフロンティア
山崎雄大
国際取引に関する紛争の解決手段として裁判手続を選択する場合,契約締結時に設けるべき管轄条項の内容,最初に訴訟を提起する裁判所の選択については,いかなる点に留意すべきなのか。本稿では,国際裁判管轄に関する近年の動向をふまえつつ,日本の裁判所の国際裁判管轄の有無や管轄条項の有効性・効力の範囲について整理し,実務上の留意点を指摘する。
コスト・コントロールに効く仲裁条項の工夫
――サード・パーティー・ファンディングの秘めたる可能性
クリストファー・スチュードベーカー・松本はるか
仲裁条項は実に多くのクロスボーダー取引の契約書に含まれている。しかし,実際に取引に問題が発生し,協議による解決が困難な状況に至ると,しばしば手続費用が足枷となって仲裁の申立てを躊躇させてしまう,という現実に直面する。国際商事仲裁手続が世界で勝負する企業にとって現実的な紛争解決手段となるよう,コスト・コントロールに効く仲裁条項のポイントと,サード・パーティー・ファンディングを利用することで,日本企業が手続費用のハードルを越えて仲裁での勝負に挑むためのポイントを紹介する。
サステナビリティ協定に対する競争法のアプローチ
――グリーン社会の実現に向けた各国競争当局の動き
植村直輝
本稿は,グリーン社会の実現に向けた事業者の共同の取組(サステナビリティ協定)に関する競争法上の問題について,各国の最新状況と考え方を紹介するものである。サステナビリティ協定に対する各国のアプローチは,ガイドラインの策定や改定,競争法自体の改正など,さまざまである。今後も,グリーン社会の実現に向けて,各国で事案を蓄積・公表していき,適宜ガイドライン等をアップデートするなどして適切に対応していく必要がある。
生成AIをめぐる法規制の国際動向
――導入企業・プロバイダー双方の視点から
山田広毅・岩崎 大・中田マリコ
生成AIをめぐり,日本では,政策的な後押しもあり,導入の動きや独自の大規模言語モデルの開発等の取組みが活発化している。しかしながら,生成AIに対する姿勢は国や地域によって差があり,一部の国・地域との間で法規制のギャップが生じているため,生成AIの導入や開発を行う企業はむしろそれらの国・地域の法規制を意識した対応を行う必要がある。本稿では,生成AIをめぐる世界の主要な法整備の状況を紹介したうえで,導入企業・プロバイダーそれぞれに対する留意点を解説する。
各国の司法判断から導く生成AIの法的評価想定
石原尚子
現在,官民等主体を問わず生成AIの対応に追われている。導入自体も始まっているものの,その法的な影響については,いまだ裁判例の集積もない状況のため手探りのまま進めざるを得ない。技術の進歩の早さに法的評価は必ずしも同時進行とはならず,手探りで随時対応していかざるを得ないが,少しでも予測可能性を得るため,現時点での諸外国の裁判所での法的評価をみつつ,日本法上の解釈想定と留意点の提示を試みる。
国際EPC契約の実務留意点
――大規模プロジェクトにおける交渉のカギ
荒井陽二郎
ロシアによるウクライナ侵攻,中東緊迫化,脱炭素化の潮流を背景に,世界各国において再生可能エネルギーや水素・原子力発電の開発・導入が進むなか,多くの日本企業がその技術力を生かして,発電プロジェクトに参画している。そこで,日本企業がEPC(設計・調達・建設)業務を担う事例を念頭に,EPC契約の実務上の留意点について解説する。
アウトバウンドM&Aを成功させるDD・最終契約のポイント
――クロスボーダーM&Aの新規制をふまえた対応
堀池雅之
米中対立が激化し,ロシアのウクライナ侵攻等により世界的に安全保障の環境が悪化していくなかで,各国の外国投資規制が強化されている。このような状況下で日本企業がアウトバウンドM&Aを行う際に,交渉上どのような点に留意すべきかを解説する。
新木伸一・伊藤昌夫・込宮直樹
配当や自社株買いが会社法の分配可能額を超えて実行されていた事例が相次ぎ,見落としがちなリスクとして注目を集めている。本稿では,近時開示された分配可能額規制違反の事例をふまえたうえで,分配可能額規制について法務担当者が知っておくべき点や防止対策を説明する。
法務パーソンが知っておきたい
セキュリティ・クリアランス制度の解説と検討
貞 嘉徳
現在,日本におけるセキュリティ・クリアランス制度の導入に向けて,猛スピードで議論が進められている。企業は,制度の概要を理解し,自社のビジネスとの関係性を検証して,制度の導入に備えておくことが求められている。本稿は,ビジネスに携わる法務パーソンとして最低限知っておきたいポイントについて解説する。
多様な人材確保に資する
「責任限定契約制度」導入・運用の実務
中嶋隆則
昨今のガバナンス改革および資本市場改革の流れのなかで,取締役会の実効性向上は多くの企業にとって重要な課題である。本稿では,多様な人材の確保の一助となるであろう「責任限定契約制度」につき,導入に際し必要となる手続と,運用のポイントを解説する。
「データセンター投資」の法律と契約実務
蓮本 哲
AI・クラウドサービスの普及等に伴うデータ通信量の増大に呼応して,データセンターはいまや重要な社会インフラ設備の1つとなっており,多くのデータセンターの建設,投資が国内外で進められている。本稿では,データセンターへの投資における実務や留意点等を概説する。
近年の品質不正4類型と不正調査への対応
荒井喜美・浅野啓太
本稿では,近年多く発覚している品質不正事案の整理を試み,①国内法令違反となる事案,②認証契約違反となる事案,③顧客との契約違反となる事案,④海外法令違反となる事案の4類型に分類したうえで,具体的な事例をふまえつつ関係する法令等や対応方針等を紹介する。
犯罪予防目的と商用・マーケティング利用でのカメラ活用の留意点
木村一輝・平岩彩夏・山下胡己・小寺祐輝
近年のカメラ画像の分析技術の向上等に伴い,カメラから取得した情報を,犯罪予防目的や商用利用しようとする動きが加速している。本稿では,カメラ画像(顔画像)を利用する際の留意点について解説する。
福原あゆみ
ESGへの対応が求められる時代となり,サプライチェーンで生じた事案の影響が自社に波及する場面が増加している。本連載では,サプライチェーンにおける不正事案に焦点を当て,その場合に必要となる危機管理対応の要点について解説する。
【新連載】
責任追及を見据えた従業員不正の対処法
第1回 従業員不正に関する諸論点
木山二郎・今泉憲人
本連載では,従業員不正の類型別に,企業として押さえるべき対処方法および責任追及のあり方について解説する。第1回である本稿では,不正類型別の解説に入る前に,従業員不正の責任追及等の一般的な諸論点について論じることとする。
LEGAL HEADLINES
森・濱田松本法律事務所編
最新判例アンテナ
第66回 労働者から賃金債権を譲り受けて,その対価として金銭を交付する行為が貸金業法2条1項および出資法5条3項の「貸付け」に該当すると判断された事例(最三小決令5.2.20刑集77巻2号13頁等)
三笘 裕・金田裕己
被告人は,「給料ファクタリング」と称して,労働者である顧客から,賃金債権の一部を額面額から4割程度割り引いた額で譲り受け,同額の金銭を顧客に交付する取引(以下「本件取引」という)を繰り返していた。本件取引の契約では,希望する顧客は譲渡した賃金債権を買戻し日に額面額で買い戻すことができること,被告人が顧客からその使用者に対する債権譲渡通知の委任を受けて通知を行うこと,および顧客が希望する場合には買戻し日まで債権譲渡通知を留保することが定められていた。そして,実際にすべての顧客との間で買戻し日が定められ,債権譲渡通知が留保されていた。なお,賃金債権の不払いの危険は被告人が負担することとされていた。
マンガで学ぼう!! 法務のきほん
最終話 敵対的買収の防衛(2)
淵邊善彦・木村容子
会社は,経営支配権を取得する旨の買収提案を受けた場合には,速やかに取締役会に付議または報告するのが原則です。 買収提案が具体性を有し,一定の信用力があるにもかかわらず,取締役会に付議しないことによって,望ましい買収が実現する機会を失わせてはなりません。
Introduction 宇宙ビジネス
第4回 打上げビジネスとルール
――打上げ契約の特殊性と事故発生時の賠償責任
岩下明弘・毛阪大佑・北村尚弘
「宇宙ビジネス」という言葉を聞いたとき,真っ先に思いつくものの1つがロケットの打上げビジネスだろう。ただ,この打上げビジネスに関して,契約当事者が誰であって,どのような契約の内容となっているのか等については,あまり考えたことがないのではなかろうか。本稿では,打上げビジネスに関する仮想事例を用いながら,打上げビジネス特有の契約条項や,契約の枠組み,万一事故が生じた場合の損害賠償責任などについて概説する。
キャリアアップのための法務リスキリング!
第5回 読書
ほどほどの法務
今回のテーマは読書です。私はいち会社員に過ぎず,法務スキルは「ほどほどの法務」です。本稿は知識量や個別の法務本を論ずるものではなく,「必要なときに必要な法務本を取り出せる社会人スキルとしての読書力」について,自分なりの経験と工夫をご紹介したいと思います。
ファッションローへの誘い
第5回 仮想空間上でのブランド保護
西村雅子
仮想空間上でのブランド保護の問題としては,米国でのメタバーキンによる商標権等の侵害事件が話題となったが,各ファッションブランドはすでに知的財産の仮想空間上の使用や実施を意識した権利化を図ってきている。BEAMSは,「リアルとバーチャルの交差点に立つセレクトショップ」を打ち出しており,バーチャルショップを出店しバーチャルファッションイベントも開催している(同社ウェブサイト,2023年7月28日付プレスリリース参照)。現実空間では,太ってしまって着られない服をアバターが着用できる,あるいは身体が不自由になってしまったがアバターなら好きな服を着て動き回れるといったように,現実の不自由さから脱してファッションを楽しむという需要は今後ますます見込まれ,一方,現実の素材や製法にとらわれないという創作の自由度も広がっている。
いまでも覚えています あの人の「法務格言」
第4回 「戦略的であれ(Be strategic)」
田中聡美
「戦略的であれ」。私は企業内弁護士になったころから,幾度となく社内の諸先輩方にそう言われてきました。その時々の文脈によって表現は異なりますが,要約するとこのキーワードにたどりつく助言を数多くいただきました。
Web3とコンテンツ産業の最新法務
第5回 映画・アニメ産業におけるWeb3の活用可能性
本柳祐介・稲垣弘則・神谷圭佑・ 田中大二朗
本稿では,映画・アニメ産業におけるWeb3を活用した資金調達の可能性について取り扱う。具体的には,従前広く用いられてきた製作委員会方式や現行の法規制内容を解説したうえで,現在注目が集まっているDAOを用いた資金調達方法と現状の課題について論じる。
PICK UP 法律実務書
『武器になる「税務訴訟」講座』
平川雄士
本書は,税務訴訟についての「一般の方向けのビジネス書」として書かれている。税務訴訟と聞くと,「平川雄士商事○億円課税取消し,国税敗訴」といった新聞報道の華々しい見出しに興味をそそられる方も多いと思われる一方で,中身についてはきわめて専門的でとっつきにくいと思われる方が多いのではないかと思う。本書の特色は,かかる読者の興味をさらに引き出すとともに,中身についても可能な限りとっつきにくさを抑えて一般の方にもわかりやすく,しかも正確に記述している点にある。
その広告大丈夫?
法務部が知っておくべき景表法の最新論点
第3回 打消し表示・強調表示
渡辺大祐
事業者は,自己の販売する商品・サービスを一般消費者にアピールするため,広告において目立つ表現を用いて品質や価格を強調することがあるが,その態様によっては問題となり得る。今回は打消し表示と強調表示に関する論点を取り扱う。
基礎からわかる海事・物流の法務
第3回 船荷証券と海上運送状
大口裕司
連載第3回では,海上物品運送契約に伴って発行される船荷証券や海上運送状の機能,性質,種類,記載事項,両者の異同,裏面約款の読み方等を解説する。企業で長年実務に携わっている方でも,基本的なことを誤解していることがあるため,本稿を読むことで確認していただきたい。
海外契約条項の「知らない世界」
第3回 紛争解決条項でコストを削減しよう
髙松レクシー・辰野嘉則
紛争が仲裁などの終局的な手続に至ってしまった場合,もう重いコストを負担するしかないのだろうか。この点,特に国際仲裁の場合,事前に契約の中で仲裁条項をドラフトする際に,コスト削減のためにとり得る戦略がある。本稿では,海外契約の実例をふまえ,紛争解決条項におけるコスト削減策について解説する。
「周辺学」で差がつくM&A
第3回 バリュエーション
(企業価値評価)―実践編―
山本晃久・渡邉貴久・近藤慎也
本号では,前号の基本的な説明をふまえたうえで,以下の簡易的な設例および前提数値を元に,DCF法によって評価対象企業の株式価値を算出する方法を順を追って説明する。なお,以下の各表については,編集可能なエクセルファイルを別途掲載する。ダウンロードして計算式を確認したり,特定の数値に変更を加えることが他の数値にどのように影響するかを実験したりしてみてほしい。(https://www.biz-book.jp/isbn/402401)