フェーズで理解するアプリサービスの関連法
杉浦健二
近年,アプリサービス関連法に重要な改正が相次いでいる。またアプリサービスはGoogleやAppleが提供するアプリストアにおいて配信されるため,これらのアプリストア提供者が定める規約(デベロッパー向け規約)を遵守する必要があるにもかかわらず,アプリ提供者は内容を十分に把握できていない場合も少なくない。本稿ではアプリサービス関連法と改正動向に加えて,「アプリ開発→提供→運用」の各フェーズにおける法的留意点を概観する。
サービス別留意点①:
Eコマース,予約プラットフォームアプリ
柴野相雄・服部公亮
本稿では,Eコマース,予約プラットフォームサービス(以下総称して「本サービス」という)をアプリで提供するにあたっての法的留意点について述べる。なお,プラットフォームビジネスに固有の法律としては,「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律」および「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」があるが,この内容に関しては,本誌2023年8月号88頁を参照されたい。
サービス別留意点②:
ニュース配信,健康・美容情報の提供アプリ
古西桜子・溝端俊介
ニュースや役立ち情報を提供するアプリを運営するにあたっては,発信する情報の内容に他人の名誉を毀損するものや著作権等の権利を侵害するものが含まれていた場合にトラブルが生じることがある。また,医薬品や化粧品等の広告規制は,アプリ上の情報提供もその対象となり得る。本稿では,これらに関する論点をいくつか選び,概説する。
サービス別留意点③:ゲームアプリ
村上諭志・赤間晶帆
国内のゲーム市場におけるゲームアプリの市場規模は1兆円を超え,ゲームアプリを提供する事業者も増加傾向にある。他方,ゲームアプリを展開する際には,著作権法,資金決済法,景表法,特商法を含むさまざまな法律をふまえてビジネスモデルを検討する必要がある。本稿では,ゲームアプリビジネスを展開する際に留意すべき法的論点のすべてを網羅することは誌面の都合上かなわないが,最新の論点をいくつか選び,概説することとしたい。なお,資金決済法に関する論点については,後掲「アプリ内通貨・ポイント発行をめぐる法規制の適用範囲」を参照されたい。
サービス別留意点④:音楽,漫画,動画配信アプリ
中山 茂・津田里紗子
音楽・漫画・動画配信等のアプリは,いずれもコンテンツ(著作物)の配信を内容とするものであり,法的にはこれらの権利処理が重要となる。アプリ上のコンテンツの権利処理に関しては,①権利者から正規にライセンスを受けたコンテンツを展開する場面,②ユーザーが制作したコンテンツにおいて,第三者の著作物が利用される場面の2つが想定され,本稿では,このような整理を念頭に,権利処理における留意点について検討する。
生成AIを用いるサービス特有の問題を含む
アプリ利用規約の最新論点
内田 誠
令和4(2022)年消費者契約法改正(2023年6月1日施行)により,消費者契約において事業者に軽過失があった場合に免責が認められることが明示されていない規約は消費者契約法違反となり免責規定が無効になる点に注意を要する。また,たとえば生成AIを組み込んだサービスを提供する場合,アウトプットの著作権に関する規定,免責規定,プロンプト(AIに対する指示文)に関する規定,禁止事項に関する規定等が重要となる。サービスにおいて取得する個人情報の利用目的を利用規約に規定すると,契約変更手続が必要になる。SLAはサービス事業者にとって責任を負う範囲が明確になるというデメリットがあるため,目標値にとどめるなどの対応が考えられる。
アプリ内通貨・ポイント発行をめぐる法規制の適用範囲
井口大輔
アプリ提供において検討される場面も多いアプリ内通貨やポイントの発行については,その発行に各種金融規制が適用されるかについて検討することが必要不可欠である。本稿では,特に資金決済に関する法律において規制される前払式支払手段等の各法概念への該当性を中心に,検討のポイントについて概説する。
アプリサービスにおける広告の留意点
――ステルスマーケティング規制を中心に
前野孝太朗
アプリの広告に関しては,景品表示法,特定商取引法,資金決済法,各種業法,ガイドライン等,多数の規制が存在する。本稿では,本年10月1日に施行が迫り,読者の方の関心が高いと思われる,ステルスマーケティング規制を扱う。前提の説明は最小限にとどめ,紙幅の許す限り,公表されている告示・運用基準・パブリックコメントを参照し,施行に向けた実務上の留意点をさらっておくこととしたい。
大渕憲一
犯罪は貧困者や反社会的集団によるものと思われがちだが,実際には,一流会社員や公務員など世間から尊敬される職位にある人たちにもみられる。
米国の犯罪学者サザーランドはこうした「名望家たちの犯罪」をホワイト・カラー犯罪と呼んだ。これにはいくつかのタイプがあるが,企業幹部が関与する組織ぐるみの違法行為が「企業犯罪」で,政治家と公務員を巻き込んだ汚職事件となることもある。ホワイト・カラー犯罪は窃盗や強盗といった一般犯罪に較べると数は少ないが,1件当たりの被害額は大きい。
石﨑冬貴
昨今,飲食店における迷惑行為が巷を賑わせている。飲食店は,大規模チェーンから個店まで規模がさまざまだが,発生する問題の種類や,それに対する対応方法は大きく変わらない。本稿では,実務的によくみられる迷惑行為について,法的問題点とその実務的解決方法を検討する。
大内伸哉
DX(デジタル変革)の影響により,長期雇用を前提とした日本型雇用システムは変容し,このシステムと密接に関係していた解雇規制も変化し,雇用の流動化が起こることは避けられない。政府には,雇用流動化を前提に,キャリアの自己決定をサポートする政策が求められ,企業には,丁寧な手続で雇用調整を進めることが求められる。
同一労働同一賃金
西本良輔
同一労働同一賃金は,働き方改革の一環として世間の耳目を集めている。紛争の中心はいわゆる均衡待遇であり,関連する最高裁判決が相次いだ。この間,根拠法令が労働契約法からパートタイム・有期雇用労働法に交替し,今後も事例が集積していくと予測される。大企業ほど確認事項は多くなり,かつ法的リスクも高まってしまうことは避けがたい。最新の状況をふまえて社内点検に努めるなど,有事を見据えた平時の準備を余念なく進めておきたい。
未払残業代(事業場外みなし)
西本良輔
事業場外みなしは,IT化の進展等も手伝って,「労働時間を算定し難いとき」という要件を満たすことが容易ではなくなり,潜在的な未払賃金請求のリスクをはらむ。しかし,営業職を中心とする従前の利用のほか,テレワークの普及もあり,根強い需要は存在する。もちろん,裁判例や行政通達を参考に正しく利用することは必要かつ可能である。企業としては,業務の性質等や指示・報告のあり方等を普段から検討整備し,対外的にも説明できるようにしておきたい。
懲戒処分手続
西本良輔
懲戒処分においては,手続的相当性も重要である。その典型が「弁明の機会」であるが,社内規程に特段の定めがなくとも,これが欠けると懲戒処分の有効性に疑義が生じかねない。弁明の機会は,懲戒処分に向けた手続である旨を明示し,処分事由を明確にしたうえで,処分対象となる労働者の言い分を聞いたといえる実質を伴ったものであることが望ましい。社内規程に定めるか否かや定める場合の内容は慎重な検討を要するが,弁明の機会を適切に付与したことは証拠化しておくべきである。
副 業
西本良輔
副業は,政府の方針転換や社会的要請の高まりから,世の中に浸透しはじめている。労働法的には未成熟で多くの論点が残っているが,紛争の最たるものは不許可や懲戒処分の問題であろう。企業においては,副業は原則として労働者の自由であると捉えたうえで,自社の利益を守りつつ,いかに間違いなく許否の判断を行い,紛争に備えてエビデンスを残しておくことに意を用いるべきである。それとともに,社内手続および必要書類を整備して,紛争の未然防止についても心掛けておきたい。
偽装請負
西本良輔
かつて巷間を賑わせた偽装請負は,近時も裁判例が相次いでいる。そこでは主に,平成27年に施行された改正労働者派遣法による労働契約申込みみなしが争点となっている。コンプライアンスの観点からは,まずは偽装請負の状況に陥ることを避けることが喫緊の課題であり,いわゆる37号告示が最重要の指針となる。企業は,行政解釈や裁判例等を参考に37号告示の解釈や勘所を把握して,ビジネスの現場においてしかるべき備えをしておくことが必要である。
公益通報者保護法の意義と関連法令
戸田謙太郎・野間啓佑
公益通報者保護法を遵守し,社内で適切に内部通報制度を整備・運用するためには,公益通報者保護法の意義を理解しておくことが重要となる。また,内部通報制度の整備・運用に際しては,公益通報者保護法以外の関連法令への対応も必要となる。そこで,本稿では,公益通報者保護法および関連法令について概観する。
内部通報制度の構築・運用の実務
坂井知世
事業者は,公益通報者保護法に基づき,公益通報対応業務従事者を指定し,内部公益通報対応体制の整備を含めた必要な措置を講ずべき義務を負っている。これらの義務を遵守するために事業者がとるべき措置の大要およびその具体的内容は,消費者庁が公表した指針およびその解説において示されている。そこで,本稿では,これらの義務をふまえて事業者が構築・運用すべき内部通報制度について,実務的な観点をふまえて解説する。
グローバル内部通報制度構築とグリーバンスメカニズム
礒井里衣 ・岡田奈々
グループガバナンス体制の構築の重要性が高まっていることから,グローバル内部通報制度の設置を検討する事業者が増加している。本項の前半では,グローバル内部通報制度の概要やその構築プロセスを概観する。また,後半では,近時注目を集めているグリーバンスメカニズムの概要を説明し,これと内部通報制度との関係を検討する。
内部通報制度運用にあたっての頻出Q&A
白 泰成
事業者は,公益通報者保護法(以下「法」という),指針および指針解説2をふまえ,内部通報制度を構築し,運用することになる。本稿では,内部通報制度の運用に関連して実務上よく受ける質問について,検討する。
生方紀裕・嶋田祥大
経済産業省は,2023 年6月8日,「企業買収における行動指針(案)―企業価値の向上と株主利益の確保に向けて―」についてのパブリック・コメント手続を開始した。本稿では,同指針案がとりまとめられるに至った経緯と同指針案の4つのポイントを簡潔に解説する。
「外国公務員贈賄罪に係る規律強化に関する報告書」の解説と諸外国の規制動向
眞武慶彦・井上孝之
経済産業省は,2023年3月,外国公務員贈賄に関するワーキンググループによる議論の結果を取りまとめた「外国公務員贈賄罪に係る規律強化に関する報告書」を公表した。本報告書は,OECD贈賄作業部会による優先勧告に対応するための制度的手当の方向性を示すものである。本稿では,外国公務員贈賄罪をめぐる諸外国における規制動向等にも触れながら,本報告書の要点を解説し,若干の考察を加える。
法務部門が知っておきたい
内部統制報告制度改訂の要点
樋口 達
「内部統制の評価及び監査の基準」等について,大幅な改訂(以下「本改訂」という)が予定されている。本改訂は,①内部統制の基本的枠組み,②経営者による内部統制の評価と報告,③監査人による内部統制監査,④内部統制報告書の訂正時の対応等の論点に対応するものである。そこで,本改訂について,「法務部門」ないし「法務部門を管掌する役員」として知っておきたいことという視点から解説を行いたい。
藤枝典明
会社の事業や法務の役割の変化,技術革新に伴う人材の流動化の激しい昨今において,「リスキリング」が話題となっております。今回は,AIに負けないリスキリング法(特に法務部員のためのインプット論)に焦点を当てます。私自身が重ねてきた苦労をふまえた方法論を紹介できるよう,「リスキリング法=気合だ!」といった感情論に陥らないようにいたします。私が実践できていない部分を棚に上げている点もご容赦ください。
【新連載】
ファッションローへの誘い
第1回 色彩を保護すべきか
西村雅子
筆者は,弁理士として長年,ファッション関係のブランドを含む各種ブランド保護のサポートをする傍ら,知的財産について大学等(現在はファッションの専門職大学)で講義している。その間,クライアントからのご相談,学生からの質問が多い事項については,読者の皆さまにとっても関心事項ではないかと考える。そのような実務的な観点から押さえておきたいトピックについて,改めて「ファッションローへの誘い」として本号より6回にわたり,読者の皆さまに興味をもってもらえるように具体例を挙げて解説したいと考えている。
【新連載】
基礎からわかる海事・物流の法務
第1回 運送契約の基礎知識
大口裕司
海事・物流の法務を学ぶにあたって,運送契約を理解することは極めて重要である。世の中で用いられている運送手段は,大きく分けて,トラックや鉄道による陸上輸送,船舶による海上輸送,航空機による航空輸送の3つに分けられるが,第1回は,これらすべてに共通して適用される商法の規定を中心に運送契約の基礎を学ぶ。
【新連載】
Introduction 宇宙ビジネス
第1回 宇宙ビジネスと宇宙法の現在地
大島日向
宇宙ビジネスは未来の話ではない。打上げビジネス,人工衛星ビジネス,月面開発,宇宙旅行......近年宇宙開発は新たなビジネスの領域として認識され,「ずっと先」の未来の話のように思われていたこれらの宇宙ビジネスはすでにその多くが実現し,また実現しようとしている。そして,ビジネスの発展に伴って,新たなルール形成も必要となっている。本連載では,宇宙ビジネスおよび宇宙法の知見を有する複数の弁護士が,市場の拡大が予想される宇宙ビジネスについて,その具体例と法的論点について解説する。
LEGAL HEADLINES
森・濱田松本法律事務所編
最新判例アンテナ
第62回 営業職員の賃金からの営業費用の控除に関し,その一部について合意が認められないとして,賃金全額払の原則(労働基準法24条1項)に反すると判断された事例(京都地判令5.1.26労判1282号19頁等)
三笘 裕・金田裕己
生命保険会社であるY社は,全従業員が加入する労働組合と,①携帯端末使用料,②機関控除金および③会社斡旋物品代(以下「本件費用」という)を営業職員の賃金から控除できる旨の労使協定(以下「本件協定」という)を締結していた。①は,顧客への説明に用いられる機器(以下「本件携帯端末」という)の使用料であった。②および③は,営業活動に用いられる名刺等の物品の費用であったが,②には,コピー用紙トナー代も含まれていた。なお,就業規則には営業職員に本件費用を負担させる旨の規定はなかった。
怒れる弁護士「アンガーマネジメント」を学ぶ。
第5回 それでも許せないあなたのために
宮山春城
「怒りの衝動をコントロールする方法で,イライラしたときに反射的に怒るのは我慢できるようになりました。怒りの思考をコントロールする方法で『まあ許せる』というゾーンも広くなったと思います。でも,どうしても許せないことがあったらどうしたらいいんですか?」と本コラム読者の方から質問が寄せられました。
ケースで学ぶ ビジネスと人権
最終回 苦情処理メカニズムを含む「救済」 の勘所
坂尾佑平・岩崎啓太
「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」(以下「本ガイドライン」という)では,人権尊重の取組みの各論として,①人権方針,②人権デュー・ディリジェンス(以下「人権DD」という),③救済の順に記載しており,連載第1回では人権方針,連載第2回から第5回までは人権DDのポイントについて,それぞれ解説した。連載最終回となる今回は,企業に求められる人権尊重の取組みの3つめである,「救済」について,本ガイドラインをふまえたポイントを解説する。
双日法務部のリーガルオペレーション
最終回 リーガルテック
高林 淳
本連載にて触れてきたように,双日法務部にとって業務効率化は大きな課題である。そのため2020年に法務部長直下の企画ユニット(通称LAPD)を発足させ,同組織所属の専任社員によって業務効率化に取り組んでいるが,その取組みの中でもとりわけリーガルテックは,法務業務のオペレーションやリソース配分を根本的に変革する潜在性を有しており,当部でも力を入れている分野である。一方,双日は全社的に「デジタル人材育成プログラム」を導入し,人材のDX化を図っているが,法務部でもこれらのトレーニングを受けたものが独自にビジネスアプリを開発して,業務で使用することが始まっている。本稿では,双日法務部のリーガルテックの取組みと課題について紹介したい。
弁護士のとあるワンシーン with 4コマ
Scene6(final)弁護士のオンとオフ
中村 真
多くの法律家がそうであるように,私も仕事以外の人生を持っています。
日々,過密な業務や心理的な重圧に満ちた状況で正気を保ちつつ業務にあたることが求められるのが弁護士業の本質ですが,そのためか弁護士には仕事の合間や休日に独自の趣味や嗜好を持つ人が多いようです。
マンガで学ぼう!! 法務のきほん
第19話 不祥事対応
淵邊善彦・木村容子
品質不正,不正会計,情報漏えい,セクハラ・パワハラなど企業の不祥事は,社会的信用を失墜させ,大きな損害を生じさせますが,一向に後を絶ちません。不祥事の発生を完全に防止するのは困難ですが,適切な防止策・対応策をとっていれば,不祥事が発生するリスクを低減させ,悪影響を限定することができます。ここでは,不祥事について事前の防止策と事後的な対応策について説明します。
米国法上の不動産所有権および賃借権の基礎
――日本法との比較
最終回 外資規制・不動産の使用に関する規制
ティモシー・ハマースミス・加藤奈緒・ 白井潤一・髙橋梨紗
本連載では,米国における不動産の所有権・賃借権に関する概念・制度等について日本法と比較しながら解説している。最終回は,外資規制および使用に関する規制を取り上げる。
Web3とコンテンツ産業の最新法務
第2回 コンテンツ産業におけるトークン活用時の主な法規制
芝 章浩・稲垣弘則・田村海人・田中大二朗
前回は,国内外におけるWeb3を取り巻く法政策動向,NFTやDAOといったWeb3の主要な構成要素やコンテンツ産業における活用動向を総論的に解説した。本稿からは各論的な解説を行っていくが,まずは,コンテンツ産業において暗号資産やNFTなどのトークンを活用する際に留意すべき各種法規制の概要について,わが国の法規制内容を解説する。
裁判例から学ぶ 経営意思決定バイアス
第5回 自社の違法行為を「積極的には公表しない」とした意思決定と「集団極性化」(大阪高判平成18.6.9判例タイムズ1214号115頁)
青谷賢一郎・飯田 高
本連載では,経営意思決定バイアスを学ぶうえで格好の教材となる裁判例を紹介し,当該事例で問題となりそうな意思決定バイアスを中心に解説する。連載第5回は,自社の違法行為を「積極的には公表しない」とした意思決定と「集団極性化(group polarization)」を取り上げる。
IPO準備における会社法の基礎
第4回 取締役会の適切な運営⑵
青野雅朗
本連載は,上場準備において比較的論点になりやすいトピックという切り口から,全6回の予定で,会社法の基礎を振り返るものである。取締役会は株式会社の要となる機関であり,その運営に関する論点も多岐にわたることから,複数回に分けて取り扱っている。そこで,第4回も前回に引き続き,取締役会の運営に関する論点について取り上げる。
ストーリーでわかる 労働審判の基本
第4回 答弁書の作成等②,第1回期日までの準備
福谷賢典・山下 諒
【前回までのあらすじ】
乙社の福岡事業所に3年間勤務し(1年の有期労働契約を2回更新),2022年12月末をもって雇止めとなった甲が,雇止めの無効を主張し,乙社を相手方として福岡地方裁判所に労働審判の申立てを行った。乙社の東京本社の人事部担当者は,ウェブ会議を設定し,代理人のY弁護士とともに,福岡事業所で甲が所属していた部署のA1課長およびA2主任,ならびに同事業所総務グループのBマネージャーから事情を聴取した。
アメリカ民事訴訟実務の基礎と留意点
第3回 米国民事訴訟におけるディスカバリー対応
――日本にはない証拠開示手続
奈良房永・笠継正勲
米国の民事訴訟で最も時間・コストがかかり,当事者の負担が大きいといわれるのがディスカバリーと呼ばれる証拠開示手続である。当事者主導でトライアル前に相手方および第三者が保有する証拠を入手するための手続で,訴訟の行方,勝敗を大きく左右する重要な手続である。ディスカバリー対応を適切に行わないと,訴訟が不利になるばかりか場合によっては制裁措置の対象となる。今回は実務上利用される代表的なディスカバリー手続を解説する。