近時の下請法規制の傾向と対策
――ガイドライン改正,情報提供フォーム設置ほか
村田恭介
原材料等の高騰が進み,経済状況が不安定化しているなか,下請法は,その執行を強化すべく体制が構築されている。下請法違反は,意図せぬところで発生してしまうことから,下請法規制の現状を正確に把握し,日頃からその遵守に向けての対策を怠らないことが求められる。
基礎からわかる
下請関連法規制の枠組み
小田勇一
下請取引を行ううえでは下請法の理解は欠かせない。法務担当者のみならず,事業部門や経理部門なども,下請法を知っておく必要がある。本稿では,下請法をはじめて学ぶ者が下請法の全体像を掴むための一助となるよう,そのエッセンスを解説する。
基礎からわかる
当局(公取委・中小企業庁)検査の流れと企業の対応実務
野田 学
下請法に関する調査,とりわけ立入検査については,どのようなことが行われるのかわからず,不安に感じておられる法務担当者も少なくないと思われる。公取委・中企庁による事件処理の流れを知り,検査に向けて適切な備えを行うようにしたい。
業種別にみる「書面調査」対応のポイント
本村 健・石川哲平・松橋 翔
下請法対応のポイントは多岐にわたるが,公正取引委員会および中小企業庁によって毎年行われる書面調査の対応にあたり細心の注意を払う必要がある。本稿では,親事業者に対する書面調査の概要および対応のポイントならびに業種別の留意点について解説する。
下請法遵守マニュアルの作成・改訂
――基本の7ポイント+コロナ禍に対応するための新4ポイント
板崎一雄
世界的に長引くコロナ禍において,ウクライナ問題の影響も重なり,世界経済の見通しも不透明であり,苦しい状況に陥る企業も増えることが懸念されている。そこで,下請先との取引についても,自社に都合のよい取引条件にしたくなる一方,原材料等のコスト増や存続の危機に直面する下請先からの値上げ要求の増加に応じる余裕もなく,下請法違反になるリスクも懸念される。下請法違反リスクを減らすための下請法遵守マニュアル作成の必要やポイントについて,当誌2019年7月号に記事を掲載したところであるが,特に昨今の社会情勢や,近年の公正取引委員会の実務を考慮し,どのようなマニュアルの作成・改訂をすべきか,着目すべきポイントを記載する。以下を参考に,一度弁護士等を含めて,コロナ対応やウクライナ問題に関連する下請取引への影響について全般的な整理をされるのもよいであろう。
建設業における下請コンプライアンス
――改正法,国交省ガイドラインにもとづく最新留意点
本間伸也
建設業における下請コンプライアンスに関し,2020年4月施行の改正建設業法によって新設ないし改正された事項(見積条件の提示等,工事を施工しない日等の定め,著しく短い工期の禁止,現金払い,不利益取扱いの禁止等)を解説する。
株主総会におけるSDGs関連想定問答
坂 昌樹・山本哲史・矢本浩教
2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コード(以下「CGC」という)において,サステナビリティへの適切な対応を行うべきと明示されるなど,企業経営とSDGsへの取組みとの統合が求められている。そこで本稿では,CGCで,気候変動等への配慮,従業員の健康・労働環境への配慮,公正・適正な取引,自然災害等への危機管理などが検討すべき課題として掲げられていることや近時の動向をふまえ,2022年度の総会においてSDGs関連で株主から質問が想定される事項を取り上げ,回答例とともに解説する。
社外取締役が押さえておきたい想定問答
松山 遙
企業のガバナンスにおける社外取締役の役割・責務に注目が集まるなか,株主総会においても社外取締役に対する質問が増えてくることが予想される。指名・報酬委員会の活動状況,企業不祥事への対応,女性・外国人といった立場からの意見などについて質問された場合には,社外取締役が直接回答することが望ましく,社外取締役用の想定問答を準備しておくべきである。
判例・条文から読み解く 総会運営の留意点
奥山健志
株主総会のなかでも特に総会当日の運営については,会社法上も個別具体的な条文は少なく,実務上は,各種の裁判例から導き出される行動規範に基づく運営が行われている。本稿でもこのように条文や裁判例をふまえ,適正な総会運営を行うために留意したいポイントについて解説する。なお,記載中意見にわたる部分はすべて筆者の個人的見解であり,筆者の所属する法律事務所の見解ではない。
総会直前に今一度の確認を!
総会当日・総会終了以降の事務局の動き
磯野真宇
本稿では,株主総会の直前に確認したい事務局の総会当日から総会後の動きについて,項目ごとに整理し,留意点をまとめたい。気になった部分については改めてその詳細を確認いただくなど,総会直前のチェックポイントとして活用いただけると幸いである。なお,本稿において意見にわたる部分は,すべて執筆者の個人的な見解である。
稲見昌彦
「メタバース」と聞いて何を思い浮かべるだろうか。VR,ARといった人工空間,ブロックチェーン技術を用いたNFTとの親和性などが想定され得るが,メタバースの最たる価値は,「大規模な社会実験」を可能とすることにあろう。
坂尾佑平
新型コロナウイルスの影響や緊急事態宣言の発出等を契機として,在宅勤務体制を急遽準備した企業や事務所も少なくないと思われる。コロナ禍の収束が見通せない状況が続くなかで,従前の働き方に戻すことはリスクが高く,出勤と在宅勤務を組み合わせたハイブリッドな働き方が当面の主流になることが予測される。もっとも,ハイブリッドな働き方を推進するなかでさまざまな問題が生じ,特に新人教育に課題を感じている旨を各方面から伝え聞いている。
「日本版ジョブ型雇用」の現状と課題
平野勝也
現代日本企業においては,「ジョブ型」の「使いどころ」を考えることが重要である。欧米との社会制度,雇用慣行の違いから,一部の日本企業は,「ジョブ型」そのままではなく,アレンジを加えて自社の仕組みに取り入れている。一方,社員の視点からは,ジョブ型を希望する人だけではなく,多様なキャリア観,働き方を包摂する制度のあり方が求められる。
ジョブ型雇用をめぐる法的留意点の検討
山畑茂之
ジョブ型雇用は適材適所の人員配置を実現するなどのメリットがあるが,他方で,メンバーシップ型雇用のメリットを失うことになる。また,ジョブ型雇用であっても解雇権濫用法理の適用は免れないなど日本の労働法規の適用を受けるため,安易に採用するのではなく慎重に検討することが必要である。また,「同一労働同一賃金」を実現するために,正社員の労働条件を切り下げる目的でジョブ型雇用を導入することは行うべきではない。
「人的資本経営」の実現へ
ジョブ型人材マネジメントの実践例
林 大介
企業価値の源泉が有形資産から無形資産に移行している現代において,人的資本による価値創造は経営の中核的な課題となっている。本稿では,筆者がCLOを務めたパーソルホールディングス株式会社の法務部門における事例を題材に,人的資本の価値を持続的に高めるジョブ型人材マネジメントのあり方について考察する。
山岡裕明・千葉哲也
取締役が負う内部統制システム構築義務の一環として,適切なサイバーセキュリティ体制構築義務が含まれており,取締役が当該義務に違反してサイバー攻撃を受けて損害が発生した場合には,当該損害について損害賠償責任を負うと解されている。そして,サイバー攻撃を受けた被害企業の取締役が講じるべき再発防止策については,すでに一度被害を受けたことで予見可能性が高まっているため,サイバー攻撃を受けたことのない企業の場合と比較してより高度なサイバーセキュリティ体制を構築する義務があるといえる。
「リアルオフィス」解消・縮小の法律問題
岸本 健
リアルオフィスの解消にあたっては,中途解約の可否や中途解約違約金の額,希望の解消時期等に照らして,適時に更新拒絶や解約申入れを行うことを検討する必要がある。また,リアルオフィスの縮小を検討する場合には,まずは賃貸人に交渉することが望ましいと考えられる。
内部者取引をめぐる近時の裁判例を考える
----イトーキ事件,モルフォ事件からみえてくるもの
弥永真生
最高裁が「その者の職務に関し知つたとき」の該当性について判断を示し,他方で,東京地裁および東京高裁がいわゆるモルフォ事件について金融商品取引法(以下「法」という)166条2項1号ヨ所定の「業務上の提携」を「行うことについての決定」をしたとされる時期について判断を示し,課徴金納付命令を取り消すなど,内部者取引をめぐる裁判例が積み上がっている。
インサイダー取引の取消事案をふまえた
社内における情報管理の重要性
山口亮子・清水裕大
近時,証券取引等監視委員会(以下「SESC」という)が勧告したインサイダー取引事案について,審判手続において違反事実が認められない旨の決定がなされる事案または課徴金納付命令がなされたものの,その後の訴訟において課徴金納付命令が取り消される事案(以下「取消事案等」という)が相次いでいる。本稿では,近時の取消事案等から学ぶべき社内管理・調査対応上の留意点について紹介したい。
書評 株式が相続された場合の法律関係
岩原紳作
本書は驚異の研究書である。驚異というのは,著者の浜田道代教授のような定年退職して何年かを経た商法研究者が(このようなことを書く非礼を浜田教授にお詫び申し上げる),新たな研究テーマにつき,詳細な判例・文献調査のうえ,比較法的研究を含め500頁にも及ぶ壮大にして緻密な素晴らしい内容の力作研究書を発表した例を知らないからである。
ヘルスケア企業における利益相反管理のポイント
明谷早映子
ヘルスケア企業にとって,アカデミアと産学連携で実施する臨床研究は製品開発や薬事承認に不可欠のプロセスだが,産業界とアカデミアの関係に対して利益相反の問題が指摘される事件は後を絶たない。本稿では,まず,アカデミアの利益相反の考え方を有名事件で確認したうえで,利益相反管理を義務づける法や指針を紹介し,アカデミアとの契約の注意点,法務担当者が知っておくべき臨床研究法の穴と対応のポイントを解説する。
三苫 裕・山本ゆり
原告X社は,被告Y社に対して,ビルの一室(以下「本件貸室」という)を転貸し(以下「本件転貸借契約」という),Y社はこれを飲食店(以下「本件飲食店」という)として使用していたところ,新型コロナウイルス感染症の影響によってその売上が激減した。Y社が5カ月以上にわたって賃料その他の費用を支払わなかったため,X社は,本件転貸借契約を解除し,Y社に対して,本件貸室の明渡しを求めるとともに,未払賃料等,諸費用,原状回復費用,違約金および遅延損害金ならびに使用損害金の支払いを求めたのが本件である。
LEGAL HEADLINES
森・濱田松本法律事務所編
新連載 ワンポイントで解説!技術と法の新世界
井深 大
最新テクノロジーが次々と出現しているなか,そもそも技術的にどういったものなのか,そこに法務がいかに絡むのか,といった疑問は尽きないところだと思う。本連載では,最新テクノロジーと法務の関わり合いについて,「誰でもわかる」をモットーに,わかりやすさに重点を置いて解説していく。第1回は,総論的な意味合いを込めてWeb3.0について取り上げる。
企業法務のための経済安全保障
第6回 経済安全保障推進法案(下)
経済安全保障を読み解く主要11分野――技術基盤強化,非公開特許
大川信太郎
本稿では,本連載第5回の続きとして,経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律案(以下「経済安全保障推進法案」という)の4本柱のうち,技術基盤強化および非公開特許について解説を行う。なお,本執筆時点においては,法案が成立しておらず内容に修正があり得ることおよび政省令が公表されていないことについて留意されたい。
新連載 事例でわかる ヘルスケア業界への異業種参入ポイント
第1回 健康食品等の開発・販売
堀尾貴将・中野進一郎
近年,異業種からヘルスケア業界へ参入する企業が増加しており,製薬会社等においても,従来の医薬品・医療機器以外のヘルスケア商品にビジネスチャンスを見い出す動きが活発化している。本連載では,具体的な事例をもとに,ヘルスケア業界の基本的な規制や参入時の留意点等を平易に解説する。連載第1回では,企業が健康食品(サプリメント)を開発・販売するという事例をもとに解説する。
新連載 LGBTQと企業~訴訟トラブル予防,企業価値の向上
第1回 LGBTQの基礎知識
森 あい
LGBTに関し,急速に意識が変化し企業の取組みも進んでいるが,どう対応すればよいのかわからない企業担当者,弁護士等も多いと思われる。本連載では,第1回は基礎知識をお伝えし,次回以降,各分野の第一人者が,裁判例(第2回),採用と職場環境の整備(第3回),ハラスメント対策(第4回),企業の対外的発信(第5回),企業価値を向上する取組み(第6回)について解説する。
社会人資格のつまみ食い!
第2回 日商簿記・税理士・公認会計士
平木太生
第2回は会計系の資格です。日商簿記検定,公認会計士試験,税理士試験を紹介します。会計系の資格にはこれら以外にもたくさんありますが,王道はこの3種類といえるでしょう。公認会計士試験,税理士試験は国家試験,日商簿記検定は商工会議所が主催する検定試験です。
新連載 法務部がおさえておきたい 気候変動対応と脱炭素経営
第1回 気候変動対応・脱炭素経営法務の枠組み
渡邉啓久
2050年カーボンニュートラルの実現に向け,人為起源の温室効果ガスの主な排出者である企業の気候変動対応への取組みに対し,社会全体が注目している。今日,企業による脱炭素経営への移行は,かつてのコストや事業活動の制約といった位置づけから様変わりし,企業の評価や価値を左右しかねない重要な課題となっている。企業の気候変動対応への取組みと脱炭素経営へのシフトを企業成長・企業価値向上の機会につなげるためには,問題の把握と脱炭素化のための諸制度を理解することが欠かせない。本連載では,企業の気候変動対応や脱炭素経営を取り巻く現状とこれらを促進する制度に関して,最新のニュースやトピックにも言及しながら解説していく。
解説動画でらくらくマスター! 新入法務部員が覚えたい契約英単語・表現
第11回 合弁契約で頻出する英単語と表現その①
本郷貴裕
今回は,合弁契約に関する表現をご紹介します。日常的に触れる売買契約や秘密保持契約などではまったく出会わない表現が多いですが,株式会社の仕組みに関わるものが多いので,理解しておくと業務で何かと役に立つものばかりです。しっかり身につけましょう!
マンガで学ぼう!! 法務のきほん
第5話 内部通報制度と改正公益通報者保護法
淵邊善彦・木村容子
内部通報制度は,法令違反等の早期発見と未然防止を主な目的として,会社の従業員等からの通報を受け付け,調査・対応をするために会社の内部(および外部)に整備される制度です。コンプライアンス意識の強化やリスクマネジメントの観点から,実効性のある内部通報制度が設けられるべきです。
新連載 対話で学ぶ 人事労務の周辺学
第1回 人事労務と「ビジネスと人権」
嘉納英樹
昨今では,働き方の多様化や,労働者の意識変化などにより,労使間のトラブルが増加しています。労使間のトラブルは,「伝統的な労働法」を取り巻く周辺領域のさまざまな法律に絡むものも少なくありません。そこで,本連載では,人事労務を取り扱うにあたり知っておきたい,周辺領域のさまざまな法律との「交錯」を,弁護士Aと弁護士Bの対話によって解説します。初回は「ビジネスと人権」との交錯です。
類型別 不正・不祥事への初動対応
第5回 環境汚染
永井 潤・山内洋嗣・山田 徹・高田和佳
連載第5回では,環境汚染をテーマとし,代表的な類型である土壌汚染を題材に,あるべき初動対応と押さえておくべきポイントを解説する。
法務部員が知っておくべき
米中貿易摩擦に関する法令・規制の最新状況
最終回 最新状況/日本の経済安全保障法令/日本企業の留意点
井口直樹・松本 渉・大塚理央
2022年2月24日,ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始した。米英欧諸国は,ロシア系金融機関に対する制裁・SWIFTからの排除,ロシア産原油・天然ガス等の輸入禁止等へと,矢継ぎ早に制裁措置を行っている。他方で,2022年4月現在,中国をはじめとする相当数の国が「制裁」に参加していない。これら2022年の対ロ制裁がどのような効果を有するかは,今後の対中制裁のみならず,国際経済法体系全体に,大きな影響を残すと思われる。
新連載 Level up!法学部教育――企業で活躍する人材の育成
第1回 法学部教育のゴールとは?
石川文夫
なぜ,法学部を希望して大学へ入学したのですか? と学生に問えばどんな回答がくるだろうか。「将来弁護士など法曹の仕事に携わりたい」「法律を学び理解したい」「希望していた学部に不合格だったが,法学部だけに合格したから」「就職の時につぶしがきくといわれたから」「民間企業に就職して法務部で仕事をしたいから」「官公庁で仕事をしたいので」「公務員試験に有利と考えたから」......など,学生1人1人によりその動機は千差万別だと考える。
要件事実・事実認定論の根本的課題
第37回 譲渡所得②
──要件事実論の視点からみた所得税法
伊藤滋夫
ここでは,譲渡所得で問題となる譲渡というものがされることによって,それを原因として,課税対象として考え得る何らかの所得と観念されるようなものが発生するかということが問題である。この点に関連しては,すでに(前記Ⅰ「譲渡所得の問題を検討する際の基本的考え方」〔本誌2022年5月号142頁以下〕)において言及した判例・学説の採る考え方(キャピタル・ゲインの清算説。簡単にいうと清算課税説)とこれと対立する説がある。この後者の説は,譲渡所得に対する課税の本質は,譲渡が行われた際に現実に得られる経済的利益(譲渡益――たとえば,ある不動産を5,000万円で購入して8,000万円で売却した場合の,3,000万円〔ただし必要諸経費を引く〕の利益)に課税するものであると考える(簡単に「譲渡益説」といわれる)。