企業によっては1人ですべての法務業務をこなしている「一人法務」の方々もいらっしゃるのではないでしょうか。一人法務は会社全体の組織作りに関与し得る立場のため,ビジネスにどう寄り添っていけばいいのか,他部署とどう関わっていくべきかといった共通の課題があるとのこと。そこで,さまざまな「一人法務」経験者の皆さまから,マルチタスクをこなしつつ,会社の伴走者として成長するための極意をご伝授いただきました。
総論 法務機能を一からつくる魅力と難しさ
柴山吉報・高岸 亘
一人法務は,企業の法的課題への対応を一手に引き受けるため,やりがいは大きい。他方で,対応が求められる法務の領域は広く,時に純粋な「法務業務」以外への対応も求められるなど,一人法務特有の難しさがある。本稿は,このような一人法務の役割・特徴について概説する。
「一人法務」のファーストステップ
石原一樹・森田大夢
一般的に会社では事業部門,管理部門,ひいては総務や労務など部門が分けられていることが多いが,法務を一人で担当する企業においては,部門が少なく,かつ部門間の垣根が低いことが多い。そのため法務担当者とはいっても,企業のなかであらゆる種類の業務に対応するという働き方が求められる。本稿では,法務に軸足を置きながら,どのように周囲の信頼を得て,事業貢献していくのかという点について,一例をご紹介したい。
実体験にもとづく 一人法務の課題解決③
「一人法務」のネガティブパターン攻略
片岡玄一
経営法友会が実施している法務部門実態調査で明らかにされているとおり,企業内で法務に携わる方の人数は増加傾向にあるが,いまだに法務機能を一人の法務担当者が一手に担っている企業も少なくない。本稿では,そのような一人法務として現に業務にあたっている方や,これから一人法務にチャレンジしようと考えている方に向けて,私自身の一人法務としての経験を基にしたアドバイスをお送りしたい。
実体験にもとづく 一人法務の課題解決②
アウトソーシングする業務の見極め
堀切一成
本稿では,主にスタートアップにおける一人法務を想定読者とした,法務の現場における業務の運用について解説を行う。法務は,法的な知見をツールに日々起こるビジネス上の問題を解決し,ビジネスを前に進める役割を担う社内のビジネスパーソンである。自社のビジネスに責任と権限を持ち,主体的に取り組む立場である点が特徴的である。
実体験にもとづく 一人法務の課題解決③
業務効率化のための仕組み作り
若松 牧
月300件以上の広告表現の審査,契約業務,法律相談,リスクマネジメントに係る業務,取締役会・株主総会運営,知的財産権の出願・管理,上場準備など,多岐にわたる担当業務の範囲は,事業の急拡大に比例し,なお拡大を続けている。入社当初こそ圧倒されたスピード感にも身体がなじんだ今,改めて日々の業務を振り返り,一人という限られた労力で法務業務を回すための業務の仕分けや,有用だったツールなど,少しでも読者の皆さまの参考となる情報をお届けできれば幸いである。
コラム 脱一人法務の道しるべ
IT法務担当者
当然ながら,脱一人法務のための第一歩としては,まず会社に追加採用を認めてもらう必要がある。上長に追加採用を提案する際に気をつけるべきなのは,自分の視点ではなく,会社の視点で追加採用の必要性を語るということである。
外資企業の一人法務
江波戸信輔
日本での法務部の立ち上げという意味では,外資企業の日本支社においても一人法務となることがある。本稿では,外資企業における一人法務について紹介したい。
改正の全体像
――主要改正点と指針・指針解説の位置づけ
久保田夏未
公益通報者保護法について,令和4(2022)年6月の改正法施行が迫る中,各事業者において内部規程の改訂をはじめとする対応の検討・整備が進められていることと思われる。本稿では,改正のポイントに加え指針等の位置づけについて概観する。
対応事項①
従事者の指定とスキルアップ
山田雅洋
改正法11条1項では,事業者がとるべき措置の1つとして,公益通報対応業務従事者(以下「従事者」という)を定める義務(以下「従事者指定義務」という)が規定された。なお,常時使用する労働者の数が300人以下の事業者については,努力義務にとどまる(改正法11条3項)。本稿では,この従事者に関する事項について解説する。
対応事項②
通報受付窓口設置等の対応体制の整備
加藤将平
現行法は,事業者に対して,内部公益通報体制の整備を義務付けていなかった。改正法11条2項は,新たに事業者に対して当該整備を義務付けることとし,整備義務の具体的な内容として,指針および指針解説が公表された。本項では,特に公益通報対応業務体制の整備(下記①)について解説する。
対応事項③
通報者の保護に関する留意点
道徳栄理香
改正により,公益通報者の保護に関する事項として,不利益な取扱いの禁止,範囲外共有・通報者の探索の防止に関する措置をとることの義務づけ,公益通報を理由とする損害賠償義務の免除が定められている。本稿では,これらにより必要となる対応等について解説する。
実務担当者の「困った!」にこたえるQ&A
田村遼介
本稿では,ここまでの改正法,指針および指針解説についての説明の内容もふまえ,2022年6月の改正法施行が間近に控えた現時点において,内部公益通報に関する社内の実務担当者として確認・対応すべき点等について,Q&A形式で解説する。
久保克行
日本の大企業の経営者報酬が欧米,特にアメリカと比較して大きく異なった特徴を持っていることはよく知られている。すなわち,報酬総額が少ないこと,また報酬のかなりの部分が固定報酬であるため,業績が変化しても報酬があまり変化しないということである。このような報酬のあり方,特に,報酬と業績の関係が弱いということが批判の対象となってきた。
新保史生
サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)が別個の空間として存在してきた時代から,両者が高度に融合し併存する「サイバー・フィジカル時代」が到来しようとしている。
ベスト・オブ・ザ・ベストの法務チームを
ベンチマークし鍛錬を重ねる
――ALB Japan Law Awards 2021 特集によせて
渡部友一郎
本稿は,読者の皆様に対して,ALB Japan Law Awards 2021 特集に関連して,①特集の意義(ベスト・オブ・ザ・ベストの法務をベンチマークする重要性),②法務部門にとっての外部顕彰の意義,③Young Lawyer of the Year (In-House)の受賞理由と個人的な考え方,を共有することを目指している。とりわけ,鎖国を好む法務部門のオープン化は,筆者にとっても大きなテーマである。法務部門全体でどのように「外の良い空気」を取り入れていくか,法務部門のリーダーおよびメンバーでその役職を問わず,批判的視座からではなく,一緒に勇気を持って,法務部門に新鮮な空気を送り込む小さな前進のための協働を願っている。
「まだ見ぬ未来」実現に向けた
法務部門の挑戦(アクセンチュア株式会社)
竹田絵美・小林 貴
アクセンチュアの日本の法務部門はALB Japan Law Awards 2021で法務部門・個人合わせて3つの賞を獲得した。評価されたのは,華々しい(新聞の一面を飾るような)案件を手掛けたことではなく,日本の社会課題に立ち向かう案件に法務部門としてコミットし,それを実現可能にした法務部門の体制ではないかと思う。そこで本稿では,日本の法務部門の体制やビジネスへの関わりについて概説する。
"志"で繋がる法務戦略
(ソフトバンクグループ)
並木淑江・冨永 絢
戦略的投資持株会社であるソフトバンクグループの法務組織について,ボストンダイナミクスの売却案件を例にどのように機能しているのかを説明したうえで,当社法務のトップが考えるリーガルマインドと組織について紹介する。
信頼されるビジネスパートナー
(Trusted Business Partner)として
平泉真理
このたび,"Woman Lawyer of the Year (In-House)"を受賞させていただいた。弊社において,数々の高難度の課題をチームワークで解決し,成果を納めたことをご評価いただいたものと考えている。地道に愚直に頑張ってきただけであり,何か特別な取組みをしたわけではないが,読者の皆様のご参考になれば望外の喜びだ。
戸田謙太郎
近時,日本企業においてサプライチェーンにおける人権問題に対する関心が高まっていることを受け,人権問題への取組みを強化する企業が増えている。そのなかで,多くの企業でも取り組もうと注目されているのが人権デューデリジェンスである。本稿では,人権デューデリジェンスの必要性と実践方法について,国内外での立法状況をふまえながら詳述する。
総まとめ 買収防衛策に関する近時の裁判例の動向と今後の見通し
青柳良則・佐橋雄介・生方紀裕
近時,上場会社に対して非友好的な買収が試みられる事案が増えており,そのような非友好的な買収をめぐる紛争が法廷で争われるケースも増えている。特に2021年は,新株予約権無償割当てを用いた買収防衛策に関する重要な司法判断が相次いだ年となった。本稿では,2021年に出された買収防衛策をめぐる裁判例の概要を説明するとともに,今後の見通しについて論じる。
経営者を説得する思考とは
知的財産戦略のプレゼンテクニック
別所弘和
今般のコーポレートガバナンス・コード改訂により,知的財産の開示項目について追加規定した補充原則が提示されている。法務部門を含む知的財産部門(以下「知的財産部門」という)は,事業部門だけでなく,経営者にも知的財産戦略の説明をする必要がある。知的財産部門として,いかにわかりやすく知的財産戦略を伝えるか,ポイントを解説する。
米国SPACを用いた上場と,その監督および立法の最新動向
Anna T. Pinedo・藤井康太・Brian D. Hirshberg
米国におけるSPACsの上場件数およびDe-SPACの件数は2021年に史上最多を記録し,2022年においても相当程度のSPAC上場が実現するものと予想される。他方で,SPACをめぐっては,米国証券取引委員会(SEC)が一般投資家に投資リスクに係る注意喚起を行ったり,特定の議員によってSPACに新たな規制を加える法案が提出されるなど,制度のアップデートに向けた動きも進んでいる。本稿では,近時流行したSPACを用いた上場について,米国の最新動向を紹介する。
株主による議決権買収の許容性とその規制のあり方
菅原滉平
株主が他の株主に対価を支払い,株主総会における議決権行使を指図したり,委任状を取得したりすること(議決権買収)は許されるだろうか。本稿では,臨時株主総会の招集株主による他の株主への利益供与が問題となった東京高決令2.11.2金判1607号38頁を題材に,議決権買収に関する議論状況を概観する。
指名ガバナンス改革の方向性──2021年サーベイ結果をもとに(上)
指名ガバナンスの実態と改革のための提言
久保克行・飯干 悟・内ヶ﨑 茂・橋本謙太郎
2021年6月11日のコーポレートガバナンス・コード改訂にて,CEOの選・解任が会社における最も重要な戦略的意思決定と明記された。コーポレートガバナンスにおける指名委員会の果たすべき役割は日々重要性を増しているものの,その実態で明らかになっていないことは多い。本稿では,2021年指名・報酬ガバナンスサーベイの結果をもとに,日本の大企業における指名ガバナンスの実態を明らかにし,今後求められる改革につき提言したい。
責任者の範囲拡大,過料引上げ,企業結合審査制度改正ほか
中国独禁法改正草案にみる日本企業への影響と対応
原 洁
中国の全国人民代表大会常務委員会は,2021年10月に「中華人民共和国独占禁止法(改正草案)」(以下「改正草案」という)について審議を行った。改正後の独占禁止法は,2022年に正式に採択される見込みである。改正草案は,競争政策の基礎的位置づけの強化を明確にし,セーフハーバー制度を打ち出し,法律に違反した主体の法的責任を重くし,企業結合手続を改善するとともに,公益訴訟の仕組みの確立を図っている。日本企業は,より大きなコンプライアンスの試練に直面することとなる。
三笘 裕・稗田将也
X社は,電気通信事業を営むY社の電気通信設備を用いて送信された,脅迫的表現を含む電子メール(以下「本件メール」という)を受信した。X社は,本件メールの送信者に対する損害賠償請求訴訟を提起する予定であるとして,当該送信者の氏名,住所等の情報が記載または記録された電磁的記録媒体等について,訴え提起前における証拠保全として,検証の申出をするとともにY社に対する検証物提示命令の申立て(以下「本件申立て」という)を行った。
LEGAL HEADLINES
森・濱田松本法律事務所編
相談事例をもとにアドバイス
コロナ禍におけるメンタル不調への対処術
最終回 年に1回の「ストレスチェック」を上手に利用しよう!②
ティーペック株式会社 こころのサポート部
従業員50人以上の会社で義務化されている「ストレスチェック」の結果を有効活用できていますか?「高ストレス」とまではいかなくても,何か気付きがある場合もあるかもしれません。今回は,自分でストレスチェックを活かせる方法を考えてみましょう。
企業法務のための経済安全保障
第3回 経済安全保障を読み解く主要11分野――投資管理編
大川信太郎
本連載では,先日まで行政官として経済安全保障分野の第一線で政策立案・審査に従事していた弁護士が経済安全保障分野の法令について体系的に解説する。連載の第3回目では,経済安全保障を読み解く主要11分野のうち投資管理について解説する。
Level up!法務部門――組織・人材の活性化に向けて
第5回 海外子会社との連携について
石川文夫
今回は,海外子会社との連携をいかに効率的に遂行すればよいか? について,経験をもとにして将来に向けた構想を述べてみる。
マンガで学ぼう!! 法務のきほん
第2話 契約書の作成・レビューの重要ポイント
淵邊善彦・木村容子
契約書は,取引に関する合意内容の明確化,リスクの適切な配分,紛争の予防と解決などのために大変重要なものです。契約書の作成・レビューは,法務担当者の基本スキルであり,しっかりと身につける必要があります。契約書を作成・レビューする際に,まず現場の担当者から確認すべきなのは,対象となる取引の実態です。若手の弁護士や法務部員は,取引の実態を理解しないまま,個別の条項に目が行きがちです。今回は,主に売買契約を例にとって,契約書の作成・レビューの前提となる主要な確認事項を概説します。
変革のアジア諸国労務――最新事情と対応策
第5回 インドネシア
池田孝宏・木本真理子
インドネシアは,労働者保護に手厚い国として知られている。しかし,2020年11月,外国直接投資の妨げとなっている法令を改正し,新たな投資の促進により雇用を増大させることを目的として,雇用創出法(いわゆるオムニバス法)が施行されたことに伴い,労働法においても使用者の負担を軽減する方向での変更を含む改正が行われた。もっとも,同法は,野党や労働組合等からの反対を押し切り強行的に採決されたため,憲法裁判所によって立法過程に瑕疵があると判断されており,今後,さらなる法改正が予想されている。
解説動画でらくらくマスター! 新入法務部員が覚えたい契約英単語・表現
第8回 ライセンス契約で頻出する英単語
本郷貴裕
今回は,メーカーに勤める方にとってはとても重要なライセンス契約において頻出する英単語を紹介いたします。
類型別 不正・不祥事への初動対応
第3回 品質データ偽装
山内洋嗣・山田 徹・重冨賢人・岩永敦之
今回は,品質データ偽装をテーマとし,その典型例である試験データの改ざんを題材に,あるべき初動対応および押さえておくべき法令を解説する。
ケース別で実務に切り込む! クロスボーダーDX法務の勘所
第5回 チェックリスト作成時の典型論点③
久保光太郎・渡邉満久・田中陽介
第5回では,第4回に引き続き個別課題フェーズにおける課題解決の進め方について説明するとともに,データ利活用を推進する社内体制づくりの一環として,営業用資料のような社内マテリアルの作成についても説明する。
法務部員が知っておくべき
米中貿易摩擦に関する法令・規制の最新状況
第8回 欧州(英国)の法令・規制
井口直樹・松本 渉・大塚理央
FCCは,①中国製通信機器・中国系通信業者に対し強い安全保障上の懸念を示しており,②China Telecom America(CTA)の事業免許を取り消し,③China Unicom Americas(CUA)に対する免許取消手続が開始されていた(本連載第2・3・6回)。直近の2021年12月2日,連邦地方裁判所(DC地区)は,CTAが提起した行政訴訟におけるCTAの緊急停止申立を却下した。また,2022年1月27日,FCCは,CUAの事業免許を取り消した。
中国における近時の重要立法・改正動向
第7回 個人情報保護法
章 啓龍・刁 聖衍
中国における企業活動に関わる法改正・施行を解説してきた当連載も,今回が最後となる。最後を飾るのは,2021年8月20日公布,同年11月1日から施行された「個人情報保護法」である。企業,マスメディアの注目も高い同法であるが,「実際に何をすればいいのか」「何から手をつければよいのか」といった具体的な対策がわからない,との声が多いようである。業界(業態),規模,取り扱う情報の種類と範囲にも左右されるものではあるが,可能な限り日系企業と共通する部分を整理のうえ,解説してくこととしたい。