ポストコロナへ向けた転換点
2022年株主総会への展望
井上 卓
2022年の定時株主総会は,1年に1回必ずやってくる上場企業の年中行事では済まされないであろう。株主総会のあり方にも,プレコロナ→ウィズコロナ→ポストコロナという大きな時代の流れのなかで,パラダイム・シフトの波が押し寄せてくることは想像に難くないからである。このような時代にこそ,企業の実務家は,株主総会は何のためにあるのかという基本に立ち返りつつ,未来を見据えた改革に取り組むべきである。
取締役会構成,政策保有株式ほか
議決権行使基準の比較・分析
塚本英巨
本稿では,2021年までに引き続き,本年の機関投資家の議決権行使基準の比較・分析を行う。本年は,①取締役会構成に関する議決権行使基準として,社外取締役の割合および女性役員の登用に関するもの,②政策保有株式に関する議決権行使基準ならびに③そのほかの注目すべき議決権行使基準(取締役報酬決定の代表取締役への再一任等)を取り上げる。
3類型の特徴から検討する
バーチャル株主総会の要点
長澤 渉
これまで,多くの株式会社が,新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から,株主総会への来場自粛を株主に要請したものと思われる一方,株主との対話を維持・促進する観点等から,いわゆる「バーチャル株主総会」を実施する例が増加しているところである。
本稿では,いわゆるバーチャル株主総会の実施をこれから検討する会社向けに,実務的な観点からバーチャル株主総会の要点を簡潔にまとめることとしたい。
役員報酬,買収防衛策,サステナビリティほか
2022年株主総会の想定問答
高田 剛・我妻崇明
昨年は新型コロナウイルス感染症の影響がいまだ継続し,新しい形態の株主総会を開く上場企業も出現するなか,TOBや巨大企業の分社化等が市場を騒がせた。その傍らで,企業活動のサステナビリティの重要性は一層強く指摘されている。本稿では,昨年の上場企業をめぐるニュースや近時法改正があった分野等から,本年の総会において例年よりも株主の関心が高いとみられるトピックを取りあげ,回答例とともにその動向を解説する。
株主提案の現状と株主提案が認められる範囲
松中 学
ガバナンスに関する株主提案は,可決されずとも一定のインパクトを持つようになっている。こうした状況が生み出される要因として,株主提案権が,株主による直接的なモニタリングの手段の1つであり,自律的にエンフォースされるという特徴を持つことと,株主のニーズが合致していることがあげられる。ガバナンスに関する提案については,取締役会の権限との関係が問題になるため,その限界を検討する。
M&Aの効果を最大化するために
PMIのプロセスと必要性
坂本有毅・吉田 哲
PMIとは,M&Aの取引完了後,対象会社と買収者を名実ともに統合するために行われる活動である。取引前に実施されるデューディリジェンスとは,時期や対象の差異はあるものの,経営手法としてのM&Aの効果を最大化するには同じく不可欠といえる。
法務部門におけるPMIの実践
坂本有毅・吉田 哲
PMIは,まず対象会社の法務部門との関係を構築したうえで,法務の機能ごとに現状の体制を評価し,不十分であれば人員の増員等の強化策を実施することになる。他部門のPMIとの連携は,クロージング後の再編取引を効率的に進めるうえでも重要となるが,対象会社の法務部門の強化をPMI全体のなかに位置づけ推進する,という観点からも意義を有する。
PMIの成功を見据えた法務DDのポイント
鈴木健太郎
DDを経て買収が完了した後に買収者が直面するのがPMIである。DDとPMIとでは目的は異なるものの,PMIを見据えてDDを実施することがPMIの成功につながることは間違いない。他方で,DDとPMIの連続性をいかに確保するかなど課題も少なくない。本稿では,PMIを見据えて法務DDを行う場合の検討事項を概観したうえで,PMIおよびその前段階であるDDにおいて法務担当者に期待される役割を,DDの多様化など最近の新しい流れにも触れつつ考えてみたい。
買い手の立場から解説
法務部門が知っておきたい「PMO」のススメ
前田絵理
一般的に,法務部員としてPMIプロジェクトに関与できる範囲は限定的ではあるものの,PMO(事務局)としてプロジェクトに関与することができるのであれば,プロジェクト全体に関する情報をタイムリーに入手できるため,法的な観点から適切なタイミングでアドバイスを提供することができる。また規程づくりやグループの規程の被買収企業への展開などの具体的な作業を法務部員みずから行うことができるなど,法務部員の活躍の場は広い。ぜひ,PMOメンバーに手をあげてみてはいかがだろうか。なお,本稿の意見にわたる部分は個人の見解であり,所属する組織のものではない。
海外企業買収後における
コンプライアンスPMIの重要性
渥美雅之
法務・コンプライアンスリスクの度合いが日本と比べて高い海外企業を買収した後,コンプライアンス問題が発覚し多大な損害を被るといった案件が後を絶たない。本稿では海外企業買収で失敗しないために必要不可欠なコンプライアンスPMIの要点を説明する。
米村滋人
近年,ゲノム医学の進展がめざましい。すでに一部のがんに関しては,ゲノムによる薬剤応答性解析(抗癌剤が効果を有するか否かの予測を行うもの)が実施されており,多数の疾患につきゲノム解析が日常的な診療で活用される日は近い。また,政府は,がん・難病患者の全ゲノム解析の結果や既存のゲノムバイオバンク等の保有データを集積し,「健康・医療研究開発データ統合利活用プラットフォーム(CANNDs)」を通じて研究目的に幅広く利活用できるようにすることを計画している。
北村導人
OECDおよびG20ならびに多数の国・地域で構成される「BEPS包摂的枠組み」(現在141カ国・地域が参加)(以下「BEPS包摂的枠組み」という)は,2021年10月8日,「経済のデジタル化に伴う課税上の課題に対応する二つの柱の解決策に関する声明」(以下「本件合意」という)を公表し,新たな国際課税ルールにつき歴史的な政治的合意に至った(同年11月4日付けで137の国・地域が合意した)。本件合意により,これまで100年近く維持されてきた伝統的な国際課税ルールに新たな枠組みが導入され,デジタル経済の進展と価値の創造に合致した国際的な課税権の再配分が行われることとなる。
佐藤光伸
金融庁では毎年「開示検査事例集」を公表している。公表することにより,同様の開示規制の不備をなくそうという趣旨のもと,開示実務を担当する者にとってはどのような開示の不備が検査の対象となるのかを把握することができる。一般的に,開示検査事例集で公表される内容は,財務情報の不備に関するものが多く,実際に課徴金を課されるのはインサイダー取引が圧倒的に多い。しかし,昨年,非財務情報の開示不備により初めて課徴金を課されるという事例が発生した。本稿では,当該事例を紹介することにより,開示実務の一助になることを意図して執筆している。なお,本稿中,意見にわたる部分については,筆者の個人的見解であり,筆者が現に所属し,または過去に所属していた組織の見解ではないことをあらかじめ申し添えておく。
中国データ三法の解説と企業対応の要点
劉 淑珺・史 筱唯
中国では2017年よりネットワーク分野のセキュリティに関する基本法である「サイバーセキュリティ法」が施行されているが,今年に入って国内データの保護や統制を目的とした「データセキュリティ法」および「個人情報保護法」が相次いで施行され,ネットワークやデータ分野における規制はより厳しさを増している。これら「データ三法」はネットワークやデータの規制を主眼としたものであるが,その影響を受けるのは中国企業にとどまらないため,現地の日系企業や中国関連の事業を営む日本企業においても早急な対応が必要となっている。そこで本稿では,データ三法の関係について解説したうえで,ネットワーク・データセキュリティ上講ずべき対応措置や留意点を説明する。現地の日系企業や日本企業におけるデータ三法対応の一助とされたい。
ドローンの商用利用に関する航空法改正の概要
鈴木 景・熊谷 直弥・稲垣 雄哉
2021年6月4日に成立した「航空法等の一部を改正する法律」により,無人航空機(いわゆるドローン)の飛行規制を中心に新たなルールが導入された。「有人地帯での補助者なし目視外飛行」という,いわゆるレベル4の飛行に門戸を開く改正であり,無人航空機の商用利用が大きく発展,加速していくことが期待される。本稿では,今般の航空法改正の内容のうち,無人航空機に関する改正内容を紹介する。
気候変動,マイノリティ保護ほか
2021 海外法務ニュース10選
石田雅彦
コロナ禍が始まって約2年が経過し,各国の法制度および実務は,徐々にコロナ禍の出口,あるいはコロナ(その他今後起こり得るパンデミック)との共生を想定した方向性に向かっている。そのようななかで,SDGs,ESG,COP26等,より大きな時代の潮流を示す立法も多くなされており,こうしたタイミングであるからこそ,企業法務実務家にはタイムリーな情報収集が求められている。本稿が一助となれば幸いである。
会計限定監査役の注意義務をめぐる
最高裁判例と実務への影響
伊藤昌夫
最高裁判所第二小法廷は,2021年7月19日,株式会社が,その会計限定監査役であった者の責任を追及する損害賠償請求事件について,請求を棄却した原判決を破棄し,原審に差し戻した。本稿では,本事案の概要と各審級の判決の要旨を紹介したうえで,最高裁判例の実務への影響を述べる。
相次ぐ法改正の背景から読み解く
消費者契約をめぐる最新動向と実務対応
松田知丈・大滝晴香
近年,消費者法関係での法改正が相次いでいる。特定商取引に関する法律(以下「特商法」という)については,平成28年6月の改正に続き,昨年6月16日にも改正法(以下「令和3年改正法」という)が公布され,今後全面的に施行される予定である。また,消費者契約法についても,平成28年および平成30年に改正が行われたが,その後も検討が続けられ,昨年9月10日,消費者庁は,さらなる法改正に向けて「消費者契約に関する検討会」の報告書(以下「検討会報告書」という)を公表した。本稿では,このように消費者法関係の法改正が相次いでいる背景に触れたうえで,特商法については令和3年改正法のポイントを,消費者契約法については検討会報告書の概要と改正された場合の実務における注目点をそれぞれ解説することとしたい。
日本のマネロン・テロ資金供与対策にどう作用?
FATF(金融活動作業部会) 第4次対日相互審査報告書の概要と影響
渡邉雅之
マネー・ローンダリングおよびテロ資金供与対策の政府間会合であるFATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)が2021年8月30日に公表した第4次対日相互審査報告書(以下「本報告書」という)を公表した。本稿では,本報告書を受けて予想される法令・ガイドライン等の改正および金融機関・非金融機関(職業専門家を含む)に求められる対応について解説する。
三笘 裕・山本ゆり
A弁護士は,令和元年10月までの間,X社の組織内弁護士としてY社に対する訴訟提起の準備にあたっていた。同年11月,X社はY社を被告とする訴訟(以下「本件訴訟」という)を提起した。その後,A弁護士は,X社を退社してB法律事務所に入所した。Y社が同事務所に所属するC弁護士らを本件訴訟の訴訟代理人に選任したところ,X社は,C弁護士らの本件訴訟における訴訟行為が,弁護士職務基本規程(以下「規程」という)57条(「所属弁護士は,他の所属弁護士......が,第27条......の規定により職務を行い得ない事件については,職務を行ってはならない。ただし,職務の公正を保ち得る事由があるときは,この限りでない。」)に違反すると主張して,その排除を求める申立てを行った。
LEGAL HEADLINES
森・濱田松本法律事務所
Level up!法務部門――組織・人材の活性化に向けて
第4回 法務部の人材育成(ノウハウ・知見の共有化がカギ)
石川文夫
「法的な専門知識や契約交渉ノウハウの修得・蓄積を行い,それらの法務ナレッジを実務に活用しながら,ビジネスの日程・法的リスク・社内外の顧客サービスを念頭においた法務業務の遂行と,みずから業務改善の発案や新たな仕組みの創造・提案ができる人材を育成する体制の構築」 これは私が法務部を発足させたときに掲げた法務部の活動方針である。
新連載 マンガで学ぼう!!法務のきほん
第1話 法務機能の重要性
淵邊善彦・木村容子
本連載の目的は,法務部門の役割とその機能の重要性について,漫画をとおして楽しみながら理解を深めていくことです。今回の漫画にもあるように,経営層や営業部門のなかには,法務部門はビジネスの足を引っ張る相談しにくい部署だという認識をもっていることも少なくありません。本連載においては,経営企画部から法務部に配属された平ひらめいてるの明てる乃が中心となって,顧問弁護士とも協力しながら,企業のさまざまな取引やトラブルにおいて法務部員として活躍していく予定です。そのなかで法務に関する最新のトピックにも触れていきたいと思います。
次なる法務を目指して
Society5.0における法規制・ガバナンスのあり方
最終回 各論② ゴールベース規制時代における
法務部・組織内弁護士のマインドセットとは
渡部友一郎
もしも,新しい法務部長が昭和中期の護送船団方式時代からタイムスリップしてきたら......。本稿は,法務部員・弁護士が「アジャイル・ガバナンス」の時代に向けて,どのようなマインドセットおよび技能が必要になるかを提案するものである。読了により,「ゴールベース」の規制という地殻変動がもたらし得る経営に資する法務部門のあり方をいち早く模索することができる。
企業法務のための経済安全保障
第2回 経済安全保障を読み解く主要11分野
――貿易管理編
大川信太郎
本連載では,先日まで行政官として経済安全保障分野の第一線で政策立案・審査に従事していた弁護士が経済安全保障分野の法令について体系的に解説する。連載の第2回目では,経済安全保障を読み解く主要11分野のうち貿易管理について解説する。
解説動画でらくらくマスター! 新入法務部員が覚えたい契約英単語・表現
第7回 売買・請負契約で頻出する英単語その③
本郷貴裕
本連載では,入社後1年以内にぜひとも習得していただきたい英文契約で頻出する英単語・表現を紹介していきます。初学者の方にも気軽に取り組んでいただけるように,できるだけシンプルな例文を掲載しています。第7回は,売買・請負契約における試験や売主が買主に提出を求められるボンドに関係する表現を中心に紹介します。問題編もぜひチャレンジし,解答・解説はビジネス法務公式YouTubeチャンネル(96頁のQRコード参照)をご覧ください。
相談事例をもとにアドバイス
コロナ禍におけるメンタル不調への対処術
第7回 年に1回の「ストレスチェック」を上手に利用しよう!①
ティーペック株式会社 こころのサポート部
2015年から従業員50人以上の会社で義務化されている「ストレスチェック」。年に1回実施されているのでご存じの方も多いと思いますが,結果について,漠然と受けとめているだけで終わっていませんか?コロナ禍におけるストレスマネジメントとして,ストレスチェックを活用しましょう。
類型別 不正・不祥事への初動対応
第2回 キックバック
瀧脇將雄・山内洋嗣・山田 徹・奥田敦貴
連載第2回では,キックバックをテーマとし,取引先に水増し請求をさせ,水増し分の還流を受けるという典型的なキックバック事例を題材に,あるべき初動対応および押さえておくべきポイントを紹介する。
ケース別で実務に切り込む! クロスボーダーDX法務の勘所
第4回 個別課題フェーズにおける課題解決の進め方
久保光太郎・渡邉満久・田中陽介
第4回では,個別課題フェーズにおける課題解決の進め方について,2つのケースを示して説明を試みたい。具体的には,他社と連携して個人データを取扱うビジネスを行う際の留意点や,ビジネスの現場において実際にどのようにデータ主体から同意を取得したり,社会への説明責任を果たすのかについて検討する。
続・業種別 M&Aにおける法務デュー・ディリジェンスの手引き
第3回 不動産開発事業
宮下 央・田中健太郎・岡部洸志
今回は不動産開発事業を取り上げる。不動産取引は取引価額が高額となるため,不動産開発事業者に法的責任が生じる場合,その経済的インパクトは大きくなる傾向がある。また,紛争が発生する頻度も比較的高いことから,不動産開発事業者に対する法務デュー・ディリジェンスにおいては,対象会社が抱える法的リスクについてポイントをおさえた慎重かつ詳細な検討を行うことが必要となる。
法務部員が知っておくべき
米中貿易摩擦に関する法令・規制の最新状況
第7回 最新動向/米中WTO紛争
井口直樹・松本 渉・大塚理央
本連載第4回でも紹介したウイグル強制労働防止法が,成立する見込みとなった。同法は,原則,新疆ウイグル自治区で産出・製造された物品などを,1930年関税法307条の対象物品とみなし,米国への輸入を禁止する。
変革のアジア諸国労務――最新事情と対応策
第4回 インド
琴浦 諒・木本真理子
インドは,英国コモンロー制度を受け継ぎつつも,成文法が多くの分野をカバーしている点,被雇用者のなかで立場の弱いワーカーレベルとそれ以外を区別して,保護の度合いに大きく差をつけている点で,前回のシンガポールに類似する。しかし,シンガポールと異なり,インドでは,ノンワーカーには法令上の解雇規制が及ばない一方,ワーカーの解雇は非常に困難である。2020年9月までに,29の連邦レベルの労働関連法規が抜本的に改正され,4つの新連邦法に整理統合されるに至った(未施行)。連邦制を採用していることから,連邦法・州法の双方の確認が必要となる。
2月号の3級に続いて,今号では2級のIBT・CBTをイメージした模擬試験問題をお届けします!
2022年の受験・合格に向けてぜひご活用ください。なお,この模擬試験問題はIBT・CBT出題のイメージをお伝えするもので,出題数は実際の試験とは異なります。