訴訟から仲裁・調停へ
総論 企業間紛争解決手段の整理と近時の動向
飛松純一
従来型の企業間紛争の解決は,まずは当事者間の任意交渉を通じた円満解決を試み,行き詰まれば裁判所の訴訟に移行するという単線的なプロセスであった。しかし昨今,より迅速・柔軟な紛争解決手法として仲裁や調停といった裁判外紛争解決手続(ADR)が注目されるようになり,法務部門としても,解決に向けたアプローチを柔軟かつ複線的に検討する姿勢が求められるようになっている。
事例で学ぶ
ADR活用時の見極め・検討のポイント
出井直樹
本稿では,企業間で法的紛争が起こった場合にADR(裁判外紛争解決手続)をいかに活用するか,その選択はどの局面・タイミングで行われるか,その際の留意点は何かを検討する。仮設事例で考えてみよう。それぞれ日本のX社,甲社の立場に身を置いて考えていただきたい。
解決までのプロセスを追う
外国企業との紛争に備えるための3ステップ
髙取芳宏
企業法務の実務として外国企業との紛争に対して,どのように対応していくかを時系列に沿って考察すると,①契約交渉を含めた日常の予防および,コンプライアンスの段階,②紛争が顕在化し,発覚した時点でどのように戦略を構築するかを検討する段階,そして③実際に,紛争を遂行し,解決へ向けて訴訟や仲裁等の手続を進める段階の3段階に分けることができる。以下,これら3段階で,それぞれどのようなことに注意しておかなければならないか,戦略的な観点から理由とともに説明する。
企業間紛争の解決手段を変える民事訴訟IT化
平岡 敦
予防法務によって紛争の発生を未然に防ぎ,紛争に発展した場合でも調停や仲裁等のADRを活用することの重要性が叫ばれている。そういった流れのなかで,訴訟は,ともすれば「できる限り避けるべき最終的な紛争解決手段」としての位置づけを与えられがちである。しかし,民事訴訟も遅ればせながらIT化がなされつつあり,それにより機動的な紛争解決手段としての地位を得るための基盤が整ってきた。
若手必見!紛争解決の心得
◆「孫子いわく,昔の善く戦う者は,先ず勝つべからずを為して,もって敵の勝つべきを待つ。勝つべからずは己に在るも,勝つべきは敵にあり」 佐々木毅尚 ◆「相手の属性・周りをよく見て解決法を選べ」 島岡聖也 ◆「文書化・コミュニケーション・Win-Win発想の3つの習慣がもたらしてくれるもの」 大谷和子 ◆「訴訟前の対応の巧拙が勝敗を分ける」 岡芹健夫 ◆「戦略目標の達成手段は柔軟に,そして果敢にチャレンジすべし」 井上 朗 ◆「弁護士・法務担当者間の緊密な連携を」 町野 静 ◆「解決の鍵は証拠の有無。デジタル証拠収集のためのフォレンジック調査活用のススメ」 大井哲也 ◆「『勝つ』より妥当な『解決』。法務の存在感を大いに発揮しよう」 増見淳子
PDCAサイクルで捉える
コンプライアンス・アンケート実施の全体像
木村孝行
企業不祥事対応に関する情報は世の中に溢れているが,コンプライアンス・アンケートに関する必要な情報は意外なほど少ない。本稿では,これからアンケートの実施を考えている方やアンケートの改善を考えている方に向け,目的・役割・運用の仕方を解説する。
そのまま使えるアンケート例付!
コンプライアンス・アンケート作成・分析のポイント
河村寛治
コンプライアンス・アンケートの作成にあたっては,なぜ,コンプライアンス・アンケートを実施するのかという目的を明確にしつつ,アンケート結果をいかに分析するか,またそこからみえるコンプライアンス意識のギャップやコンプライアンス上の課題や改善点等をみつけだすことができるかという点が重要である。
企業実例① 東洋紡株式会社における取組み
永井 潤
当社では,毎年「コンプライアンス徹底月間」中に,「コンプライアンス・アンケート」を実施し,コンプライアンス意識の実態調査とともに,自身および職場における主要なコンプライアンス項目についての棚卸しの機会としている。設問内容は,社会のトレンドや当社固有の事情をふまえて毎年見直し,回答の集計や分析について試行錯誤を繰り返しているところであるが,本稿では当社の現状の取組みをご紹介させていただく。
企業実例② 住友林業株式会社における取組み
小松淳一
「コンプライアンス・アンケート」を作成・運用するにあたっては,そのようなツールを利用する「目的」を明確にすることが不可欠であり,またコミュニケーション・ツールとしての機能を最大化する観点からの戦略的な活用が望まれる。本稿では,当社の取組みを紹介させていただく。
バーチャルオンリー株主総会実施に係る
改正定款・招集通知モデルの解説
石井裕介
全国株懇連合会は,2021年7月26日に「場所の定めのない株主総会」(バーチャルオンリー株主総会)に対応する定款モデルおよび招集通知モデルの改正を行った。現状では,バーチャルオンリー株主総会を利用する上場会社が大幅に増加するとまでは見込まれていないものの,バーチャルオンリー株主総会に対応する定款変更を行った企業だけでなく,実際にバーチャルオンリー株主総会を実施した企業も登場している。
世界で高まる人権リスクに備える
スポーツビジネスにみる「責任ある企業行動」
安部憲明
グローバルに広がったサプライチェーンは,現地での人権侵害,環境破壊や汚職などさまざまなリスクに溢れている。企業の問題行動は,ただちに訴訟や不買運動,投資回避などを呼びかねない。スポーツビジネスを題材に「責任ある企業行動(RBC)」と呼ばれる国際ルールを理解・実践することで,会社のコンプライアンス強化とリスク管理に役立つと考えられる。
法務部員も知っておきたい
電子帳簿保存法の改正要点とインパクト
高橋郁夫
電子帳簿保存法の改正が2022年1月1日から施行される。同改正では,事前承認制度の廃止,最低限の電子帳簿でも保存等が可能となる点,また,スキャナ保存について,タイムスタンプ要件,検索要件等についての要件の緩和がある点を考えると,実務的なインパクトは,大きいと予測される。さらに,インボイス制度が2023年10月1日から導入されると,インボイスの発行・受領までをも電子的に処理する動きが加速されるだろう。
独占禁止法相談事例・下請法違反事例に学ぶ
企業間取引公正化に向けた実務ポイント
小田勇一
公正取引委員会は,2021年6月,「独占禁止法に関する相談事例集(令和2年度)」および「令和2年度における下請法の運用状況及び企業間取引の公正化への取組」を公表した。本公表物に掲載された独禁法相談事例および下請法違反事例のなかには,新型コロナウイルス感染症の拡大,働き方改革等を通じた長期間労働の是正,人口減少等に伴う労働力不足等の近時の社会状況を反映したものもある。本稿は,当該事例の一部を取り上げ,企業間の公正取引上留意すべき実務上のポイントを解説する。
「データ市場に係る競争政策に関する検討会」報告書の概要とデータ利活用に関する競争法的ルールへの示唆
板倉陽一郎
2021年6月25日,公正取引委員会競争政策研究センター(CPRC)「データ市場に係る競争政策に関する検討会」報告書が公表された。産業データとパーソナルデータそれぞれのデータ市場につき,競争政策の観点から検討を加え,①多くの関係者の参加を得た仕組み構築等,②データへの自由かつ容易なアクセス,③協調領域・競争領域それぞれにおける政府等による取組み,④データポータビリティ・インターオペラビリティの確保,⑤プライバシーに対する懸念,⑥仲介事業者,デジタル・プラットフォーム事業者に対するルールがポイントであるとしている。
UAE,エジプト,アルジェリア,スーダンの外資規制と現地進出企業への示唆
小原正敏・西出智幸・貞 嘉徳・高田翔行・Jean-Jérôme Khodara
これまで日本企業の進出先・投資先として必ずしも一般的ではなかった中東・北アフリカの各国において,外資規制の撤廃・緩和に向けた動きが進行している。本稿では,今後の日本企業の新たな進出先・投資先となり得るこれらの地域のうち,アラブ首長国連邦,エジプト,アルジェリアおよびスーダンの外資規制の最新の動向等を解説する。
中国不正競争防止法をめぐる近時の事例とコンプライアンス対応
劉 新宇・熊 褘
中国経済の急速な発展に伴い不正競争行為が次々と新たに発覚している現状のもと,市場競争秩序を維持し,公平公正な競争環境を整備するため,監督管理機関も不正競争行為に対する取締りを強化しつつある。本稿では,不正競争行為のうち,商業賄賂,虚偽宣伝,営業秘密侵害,景品付販売これら4つを中心に,近年の典型事例の検討を通じて,注目を集めた取締対象行為について論ずるとともに,関連する規制の動向を明らかにするものとしたい。
会社法318条4項の「債権者」の範囲(最判令3.7.5)
──株式買収請求権の価格決定申立事件係属中における反対株主の「債権者」該当性
黒田 裕・渡辺 駿
本稿では,平成26年改正会社法下で株式併合が行われ,その反対株主が株式買取請求権を行使し,価格決定の申立てを裁判所に対して行ったが,価格の決定がされる前に会社が公正な価格と認める額を事前に支払ったケースにおいて,当該反対株主が会社に対し,債権者として株主総会議事録の閲覧謄写請求をしたところ,会社法318条4項の「債権者」に該当すると判断された事例を紹介する。
英米の潮流にみる取締役会の多様性
川島いづみ
2021年6月改訂のコーポレートガバナンス・コードは,取締役会の実効性確保の前提条件として,取締役会の「ジェンダーや国際性,職歴,年齢の面を含む多様性」と適正規模の両立を掲げている(原則4-11)。とはいえ,女性取締役の数は,東証一部上場企業で,1年前と比べて29%増加したものの,取締役全体に占める比率は8.8%(「女性取締役,3割増の8.8% 東証1部の前年比,欧米には及ばず」日本経済新聞2021年9月4日)と,かなり低い水準にある。他方,英米では,このところ,取締役会の多様性を促す取組みに進展がみられる。
ILOハラスメント撤廃条約の概要と企業への影響
大村恵実
2021年6月25日,「仕事の世界における暴力及びハラスメントの撤廃に関する条約」(以下「190号条約」という)が発効した。日本はまだ批准していないが,本稿では,190号条約と日本の国内法制とのギャップはあるのか,また,190号条約の発効は企業実務にどのような影響を与えるのかを紹介する。
座談会
東芝の株主総会問題を契機に考える ガバナンスの本質とは
上村達男・岩村 充・河村賢治
河村:昨今,株式会社東芝(以下「東芝」という)とアクティビストの対立や東芝調査者による調査報告書などに関連してさまざまな議論がされています。この点に関する先生方の問題意識などについて教えていただけるでしょうか。
最新判例アンテナ
第42回 懲罰的損害賠償部分が含まれる外国裁判所の判決に係る債権について一部弁済がなされた場合において,当該弁済が懲罰的損害賠償部分に充当されたものとして執行判決をすることはできないとした事例(最判令3.5.25裁時1768号25頁等)
三笘 裕・楠木崇久
米国カリフォルニア州所在の会社であるX社および同社を設立したX1・X2ら(被上告人)は,Y社(上告人)がX社の企業秘密等を横領したとして,Y社ほか数名に対し損害賠償を求める訴えをカリフォルニア州の裁判所に提起したところ,Y社に対し,①補償的損害賠償等として18万5,509.50米国ドル(訴訟費用を含む)および②懲罰的損害賠償として9万米国ドルならびにこれらに対する遅延損害金をXらに支払うよう命ずる判決が言い渡された。
相談事例をもとにアドバイス コロナ禍におけるメンタル不調への対処術
第5回 責任感の強い管理職の苦悩
ティーペック株式会社 こころのサポート部
コロナ禍で急速に進んだテレワーク。オンラインシステムが整っていることだけが働きやすさとは限りません。今回は「セルフケアの促進」と「コミュニケーションの取り方」について相談から読み解きます。
Level up!法務部門――組織・人材の活性化に向けて
第2回 社内における「法務部」の組織をいかに強化するか?
石川文夫
企業内における「法務部」の印象はいかなるものであろうか? 私の経験によれば,「何となく近寄りがたい部門」「高度な知識を持っている人間の集団」「わかりにくい法律論を話す人達がいる組織」「契約書審査は時間がかかる」「法務部の方々にビジネスの背景を理解してもらうのが大変」などネガティブな見方をされている面がある。それでは,いかにしたら「法務部」が社内での認知度を上げてイメージを高めるにはどうすればよいか? について以下に述べてみる。
法律事務所の図書担当と弁護士が教える リーガル・リサーチ基本の㋖
最終回 中国の法令・判例・企業情報のリサーチ
森 規光
本連載ではこれまで日本,アメリカ合衆国ならびにEUおよび英国におけるリーガル・リサーチについて解説してきました。最終回では,中国における法令等・企業情報のリサーチやデータベースについて解説します。
債権法改正 施行後対応の要点
最終回 保険契約
山本和宏・山下 豪
本連載は,2020年4月1日の施行から1年が経過した改正債権法につき,施行前後の実務の変化や問題点等を解説するものであり,最終回は保険契約を取り上げる。保険契約は,一般に,保険約款という定型約款を用いた定型取引に該当し,新設された定型約款に関する規律に従うとともに,保険法等に特別な規定がない限り,民法の契約に関する一般的な規定が適用される。そこで,定型約款,契約の成立および解除に関し,生命保険契約を念頭に置いて,債権法改正に伴う主な留意点について解説する。
法務部員が知っておくべき米中貿易摩擦に関する法令・規制の最新状況
第5回 米国の法令・規制⑤──2021年8月〜10月の最新動向/対米投資規制/人権に着目した制裁等⑴
井口直樹・松本 渉・大塚理央
第5回は,2021年8月~10月の最新動向をみた後,米国の規制・制裁のうち,「人権」に着目した制裁等について概説する。
解説動画でらくらくマスター! 新入法務部員が覚えたい契約英単語・表現
第5回 秘密保持契約で頻出する英単語その②/売買・請負契約で頻出する英単語その①
本郷貴裕
本連載では,入社後1年以内にぜひとも習得していただきたい英文契約で頻出する英単語・表現を紹介していきます。初学者の方にも気軽に取り組んでいただけるように,できるだけシンプルな例文を掲載しています。第5回は,秘密保持契約の頻出単語の残りと,売買契約の頻出単語を紹介します。売買契約はすべての契約の基本となるものなので,しっかり身につけましょう!
中国における近時の重要立法・改正動向
第5回 知財⑶ 著作権法
章 啓龍・安田健一
本連載は,近時の中国における企業活動に関わる法改正を捉え,企業対応の要点,リスク回避のための予防策を解説していくものである。今回は2020年11月11日に改正,2021年6月1日より施行されたばかりの中国著作権法について,改正による変更点を解説していくこととしよう。中国ビジネスといえば,著作権をいかに守るか,という論調が多かったと思うが,これからは「著作権を侵害しない」という新たな視点も必要である。
次なる法務を目指して Society5.0における法規制・ガバナンスのあり方
第3回 各論① 企業におけるアジャイル・ガバナンス実践の意義
羽深宏樹
企業が「アジャイル・ガバナンス」を実践することにはどのような意義があるのか。本稿では,アジャイル・ガバナンスとコーポレートガバナンス・コード(2021年6月改訂。以下「CGコード」という)の関係を整理しつつ,企業がアジャイル・ガバナンスを実践することによって,中長期的な企業価値の向上やコンプライアンスコストの低下,および責任の軽減といった利益が見込まれることを述べる。
要件事実・事実認定論の根本的課題──その原点から将来まで
第35回 事業所得・給与所得(付──不動産所得・山林所得・退職所得)③──要件事実論の視点からみた所得税法
伊藤滋夫
所税(所得税法)30条によると,同条における法律要件は,①退職手当等:退職手当,一時恩給その他の退職により一時に受ける給与およびこれらの性質を有する給与であること,②所得:退職所得とは,退職手当等に係る所得であること,③金額:その年中の退職手当等の収入金額から退職所得控除額を控除した残額の2分の1に相当する金額(当該退職手当等が,......特定役員退職手当等である場合には退職手当等の収入金額から退職所得控除額を控除した残額に相当する金額)の個別的法律要件から成り立っている。
LEGAL HEADLINES
森・濱田松本法律事務所 編