総論 契約書一般にありがちな形式ミス・単純ミス
太田大三/藤井 塁
契約書実務における,形式ミス・単純ミスは,実際には多くの契約書において散見される。このような形式ミス・単純ミスそれ自体が,締結した契約書の解釈において,常に致命的な問題を引き起こすものでもないが,場合によっては,契約書において重要な,規定内容の明確性を失わせることにより,契約書を作成・締結することの意味を失わせることにつながることに留意すべきである。
取引基本契約書
辺 誠祐/射手矢雄一
事業者が,取引先との間で継続的な取引関係を築きたいと考える場合に,締結の要否を検討することになるのが,いわゆる「取引基本契約」である。取引基本契約は,将来締結される個別取引に共通して適用される権利義務関係をあらかじめ合意しておくものであり,取引開始の出発点として,重要な意味を持つ。本稿では,継続的な商品売買の取引関係を念頭に,取引基本契約の重要性や,締結にあたっての注意点等について,具体的な条項案を交えながら解説する。
システム開発契約書
湯原伸一
システム開発契約書は,成果物の特定,その他合意内容を明記しづらく,曖昧な表現となりがちである。またシステム開発の特殊性を考慮して契約内容を検討する必要性があり,単純に委託者有利に契約内容を修正すれば事足りるわけではない。さらに,2020年4月1日の民法改正により,今後は委託者有利に作用する条項も一部存在する。以下では,特に問題となりがちな具体的な条項例をあげて,ありがちなミスを指摘するとともに対処法について解説を行う。
業務委託契約書
山下哲郎
業務委託契約は,委託者がなすべき一定の業務を,外部の受託者に委託するものであり,企業の事業活動のさまざまな場面で用いられている。そのため,業務委託契約書も場面に応じて,多種多様なものとなる。ただ,さまざまな業務委託契約書においても共通してチェックすべきポイントは存在するため,本稿では,委託者,受託者の両方の立場から,よりよい契約書にするためにチェックすべきポイントを解説していく。
秘密保持契約書
猿倉健司
秘密保持契約・守秘義務契約は,共同開発・研究や株式譲渡等の重要な取引・契約に先立ち締結されることが一般的となっているが,開示した重大な秘密情報が外部に漏えいしてしまうと事後的な賠償請求等の対応では回復しきれない事態となるおそれがある。契約書の検討にあたっては,公表されている書式をそのまま使用するのでは不十分であり,実際に生じている紛争例をふまえて十分に検討することが必要不可欠となる。
贈収賄・輸出管理規制リスクを中心に解説
米・中・東南アジアにおける法規制リスクの最新動向と対応上のポイント
水戸貴之/新堀光城/島津佳奈
本稿では,米国・中国・東南アジア事業において,日系企業が注視すべきコンプライアンス・リスクの近時の動向・対応上のポイントに関して,贈収賄,安全保障・経済制裁リスクを中心に解説する。また,コロナ禍でグローバル企業において課題意識の高まりがみられる,リモートワーク下におけるコンプライアンス・モニタリングのポイントについても簡潔に紹介する。
"みえない"問題をどう統制する?
本社が対応すべき法的リスク管理体制の整備
吉田武史
本稿では,こうした法的問題の側面からの「海外子会社のブラックボックス化」を防止するための管理体制の参考例として,①本社による海外コンプライアンス・紛争案件管理制度,②本社直接報告型のグローバル内部通報制度について,それぞれ紹介・概説する。
海外コンプライアンス違反への初動対応
――初期的な事実調査,証拠保全,関連する法規制の検討
山内洋嗣/御代田有恒/山内裕雅
企業のコンプライアンス違反対応における初動対応の誤りや遅れは,致命傷となることはいうまでもないが,そもそも,コロナ禍以前から,海外子会社・拠点でのコンプライアンス違反の初動対応は容易ではなかった。しかし,コロナ禍により,この初動対応はより一層難しくなっている。本稿では,コロナ禍の状況における海外コンプライアンス違反の初動対応の論点および実務上の留意点を検討する。
コロナ禍の影響はどうなる?
海外子会社を持つ企業を買収する際の法務DD
津田雄己/柿原達哉
新型コロナウイルス感染症による影響は,海外子会社に対する法務デューデリジェンスの実務へも多大な影響を与えている。本稿では,コロナによる影響を強く受けている海外子会社を持つ企業を買収する際の法務DDに関する留意点について解説する。
高齢社会,AI,そして21世紀における働き方
樋口範雄
日本が超高齢社会になり,65歳以上の人たちが全人口の約30%を占める人生100年時代において,高齢者の就労,働く高齢者の問題は,高齢者個人ばかりでなく社会全体の問題でもある。また,働き方の多様化が進むなかで,大手企業ではジョブ型雇用が注目されているように,同じことは高齢者の働き方にもあてはまる。
NFT(非代替性トークン)のよくある誤解と事業参入のための検討課題
長瀨威志
近時,NFT(Non-Fungible Token) と呼ばれる,代替可能性のないブロックチェーン上で発行されるデジタルなトークン(証票)に表章したデジタルアートやゲームアイテム,プロスポーツ選手のゴールシーンを記録した動画などが,ときに数億円を超える金額で取引されるなど,NFTを活用したビジネスに急速に関心が集まっている。
国内初! 同性婚違憲訴訟判決の解説と社会・企業への影響
棚村政行
2021年3月17日,札幌地方裁判所は,北海道に住む同性カップル3組が起こしていた同性婚訴訟において,同性パートナーに対して婚姻で認められる法的効果の一切を否定することは,性的指向にもとづく不合理な差別的取扱いであって,法の下の平等を定める憲法14条1項に違反するとの画期的な司法判断を下した。本稿は,今回の札幌地裁判決の内容・特色を紹介するとともに,判決の意義,今後の課題,本判決が企業や社会に与える影響について論じるものである。
バーチャル株主総会,サスティナビリティと改訂CGコード対応
2021年6月総会振り返り
牧村卓哉/清瀬 緑
本稿では,各種公開資料のほか,三井住友トラスト・グループにおける証券代行業務の受託会社を対象とする調査結果に基づき,本年6月総会の概況を説明するとともに,今後の株主総会の方向性,運営等に若干触れる。
雇用から解雇まで段階別に解説
中国の労務問題 予防・解決の処方箋(上)
野村高志/東城 聡
「経営者が取り囲まれる」「歴史問題にこじつけた理不尽な揶揄・反論を受ける」「従業員によるキックバックや横領が頻発する」等,中国の労働問題というとこのようなネガティブなイメージを持たれる方々も多いと思われる。。本稿では,中国の労働問題を類型化したうえで,ビジネス運営時の典型的な労働問題について予防・解決の留意点をご紹介する。
情報管理,著作権・肖像権,未成年者・消費者の保護等
EdTech(教育×テクノロジー)活用時の法的論点
松本 拓/山田智希
オンライン授業や教育ビッグデータの活用等,教育と最新技術をかけあわせたEdTechが,いま教育のあり方を変えようとしている。EdTechに関わる企業はどのような法的論点に留意する必要があるのか。EdTechビジネスに関して,主に教育産業における規制,情報セキュリティ,著作権・肖像権,未成年者・消費者の保護等の法的論点について解説する。
「スタートアップとの事業連携に関する指針」が示す
独禁法上問題となり得る契約・行為等の整理
井上 拓
経済産業省(特許庁)と公正取引委員会が連名で2021年3月29日に公開した「スタートアップとの事業連携に関する指針」について,同指針が公開されるまでの経緯および同指針のうちの独占禁止法上の考え方を示す部分について,概説する。
プラットフォーム事業者への規制強化が顕著に
令和2年度主要企業結合事例にみる公取委の審査内容
石垣浩晶
本稿では,令和2年度の主要な企業結合事例を用いて公正取引委員会の審査基準の最新動向について明らかにする。独禁法上の企業結合規制の相場観はおおむね例年どおりであるが,プラットフォーム事業者に対しては規制強化の傾向があることが読み取れる。また,経済分析を活かした企業結合審査を促進する傾向も引き続き強化されており,当事会社には定量的な証拠に基づく説明が求められている。
労働基準関係法令違反公表事例をもとに解説
企業名公表制度の概要とコンプライアンス体制の運用ポイント
大澤武史
労働基準関係法令違反が認められた場合,厚生労働省および各都道府県労働局のウェブサイトにおいて,企業名および違反法条項,事案の概要等が公表される。本稿では,これら公表事例を通じて,各企業がコンプライアンス体制の構築・運用に向けて取り組むべき事項,意識すべきポイントを解説する。
LEGAL HEADLINES
森・濱田松本法律事務所編
最新判例アンテナ
第40回 取締役会決議限りで導入・発動されたいわゆる有事導入型買収防衛策に
基づく差別的行使条件付新株予約権の無償割当てが「著しく不公正」であるとして,
その差止めが認められた事例
三笘 裕/山本ゆり
解説動画でらくらくマスター! 新入法務部員が覚えたい契約英単語・表現
第3回 一般条項で頻出する英単語その②
本郷貴裕
本連載では,入社後1年以内にぜひとも習得していただきたい英文契約で頻出する英単語・表現を紹介していきます。初学者の方にも気軽に取り組んでいただけるように,できるだけシンプルな例文を掲載しています。第3回では,単語とともに,さまざまな一般条項の内容を簡単に紹介しております。問題編もぜひチャレンジし,解答・解説はビジネス法務公式YouTubeチャンネルをご覧ください。
フィンテック実務の最前線――法務と政策渉外の現場から
最終回 対談 最新の金融法制・フィンテックサービスの動きと
弁護士が果たせる役割
木村健太郎/髙尾知達
本連載は,フィンテックの法務と政策渉外に携わる弁護士が,フィンテック実務を読者に体感してもらうべく,実務上の作法と最新トピックを解説するものである。今回は最終回として,著者の2人が対談で最新の金融法制・フィンテックサービスの動きと弁護士が果たせる役割について語る。
相談事例をもとにアドバイス コロナ禍におけるメンタル不調への対処術
第3回 会社への不満から怒りのコントロールができない
ティーペック株式会社 こころのサポート部
誰もが想像していなかったスピードで在宅勤務が社会に浸透し,ルール制定が追いつかず,相談者のように「責任の所在不明」に戸惑い,不満に発展しているケースがあります。第3回は,相談のなかから殴ってしまいそうなくらい怒りを感じる気持ちについて取り上げ読み解いていきます。
新連載 変革のアジア諸国労務――最新事情と対応策
第1回 タイ
安西明毅/木本真理子/杉 秋甫
アジア諸国の労働法制は,労働者保護という基本理念に立ちつつも,国の政治・社会・文化的背景によって多種多様である。また,国の経済状況や政策に左右され,さらに,国際連携に伴って定立された基準にも影響されるため,発展著しいアジア諸国においては,アップデートが難しい分野である。本稿は,現地の日々の業務から得られた経験・知見に基づく最新事情を紹介し,対応すべきポイントを解説する。第1回は,多くの日本企業が進出するタイを取り上げる。
企業法務史のターニングポイント
最終回 わが国における企業法務部門の将来と展望
小幡 忍
本連載では,このような状況のなかで,わが国の企業法務の歴史を振り返り,各業界法務の指導的なOB,現役のエキスパートの方々に,節目となる時代の経済・社会状況の中で,各法務部門がどのような問題を克服し,発展し,その役割と存在感を確立してきたのかを,できる限り事例を通じて述べる。最終回では,2021年現在以降の企業法務部門の将来と展望について解説する。
新連載 ケース別で実務に切り込む! クロスボーダーDX法務の勘所
第1回 本連載のねらいと問題の所在
久保光太郎/渡邉満久/田中陽介
本連載では,「ケース別で実務に切り込む! クロスボーダーDX法務の勘所」と題して,各社がクロスボーダーDXプロジェクトを進めるうえで,どのような課題に向き合っているのかを紹介するとともに,実務のなかでみえてきた処方箋(解決の方向性)について紹介するものである。DX関連については,個人情報保護法等の法令解説はあまた公表されているが,本連載はこれらと一線を画し,とことん実務の課題と具体的なケースにこだわって問題を解きほぐしていきたい。第1回は,本連載のねらいとクロスボーダーDX法務の問題の所在について解説する。
新連載 次なる法務を目指して Society5.0における法規制・ガバナンスのあり方
第1回 総論① Society5.0における法規制・ガバナンスのあり方──視点転換の必要性
柳川範之
革新的な技術の社会実装を進めるには,新たな技術がもたらす社会構造の変化をふまえた,ガバナンスモデルの根本的な改革が必要だ。この変革に適切に対応するためには,法規制のあり方も抜本的に発想を変えていく必要がある。このような問題意識のもと,2019年8月,経済産業省に「Society5.0における新たなガバナンスモデル検討会」が設置され,2つの報告書が公表される等,積極的な活動が行われてきた。本連載は,この研究会の参加メンバーが,来たるべき変化に対して企業法務パーソンに求められるポイント等を解説するものである。
法律事務所の図書担当と弁護士が教える リーガル・リサーチ基本の㋖
第4回 アメリカ合衆国の判例・法令・文献のリサーチ
五島隆文
本連載の第1回から第3回までは日本国内におけるリーガル・リサーチについて解説してきました。第4回では,アメリカ合衆国の判例・法令・法令のリサーチやデータベース,そして出典・引用の記載方法のルールについてご紹介します。
中国における近時の重要立法・改正動向
第3回 知財⑴ 民法典関連
章 啓龍/安田健一
本連載は,近時の中国における企業活動に関わる法改正を捉え,企業対応の要点,リスク回避のための予防策を解説していくものである。さて,今回から数回に分けて,知財に関する新たな法令の公布および改正による変更点を解説していくこととする。まずは,中国民法典の公布により生じた変更点から取り上げていく。
法務部員が知っておくべき 米中貿易摩擦に関する法令・規制の最新状況
第4回 米国の法令・規制④――2021年7月・8月の最新動向/近年の輸出管理⑵
井口直樹/松本 渉/大塚理央
今後の米中摩擦の動向によっては,より多くの日本企業が,米中の「摩擦」に伴う法令の改変,法令に基づく規制措置の影響を受けるおそれがある。そこで,本連載を通してより多くの日本企業の法務部員にまずは全体像をご理解いただき,今後の情報を追跡できるようになっていただきたい。第4回は,2021年7月・8月の最新動向を紹介した後,前号に続いて米国の輸出管理規制について解説・分析する。
債権法改正 施行後対応の要点
第5回 請負契約
久保文吾
本連載は,2020年4月1日の施行から1年が経過した改正債権法につき,施行前後の実務の変化や問題点を解説するものであり,第5回では,請負契約を取り上げる。改正民法施行により請負取引における契約実務はどのように変化したのか。本稿では,請負の代表的な類型である建築請負とソフトウェア等開発受委託を取り上げて検討する。
PICK UP 法律実務書
『登記法入門――実務の道しるべ』
高田晴仁
本書は,司法書士会の麒麟児たる鈴木龍介氏の鮮やかな編集の手腕と,著者各位のチームワークによって,初学者に必要な知識を漏れなくとりまとめたものでありながら,本文220頁のコンパクトなボリュームに収められている。これは登記法の要所や勘どころが,腹の底からわかっている編著者ならではの匠の技である。
要件事実・事実認定論の根本的課題──その原点から将来まで
第34回 事業所得・給与所得(付―不動産所得・山林所得・退職所得)②
ーー要件事実論の視点からみた所得税法
伊藤滋夫