企業が押さえたい日米欧の最新法制と実務動向
石川智也/津田麻紀子
本特集では,グローバルに事業展開している企業がデータを取り扱うにあたって,各国における個人情報保護法制をはじめとするデータ法制にどのように対処すべきかという観点から重要なポイントに絞って解説を行う。本稿では,各論に先立ち,各企業において把握しておくべき各国におけるデータ保護関連の最新の法制および実務の動向をまず紹介する。
個人データの越境移転先国の法令・実務調査の重要性
石川智也/福島惇央
EUでは,いわゆるSchrems II判決によって,EEA域外に個人データを移転する際には,移転先国の法制度等を調査する必要が生じている。日本でも,令和2年の個人情報保護法の改正により,個人データの越境移転の際には,移転先国の個人情報保護に係る法制度等を調査する必要が生じている。本稿では,個人データの越境移転に際し,両法制度のもとで必要となる移転先国における法令・実務の調査について概要を説明する。
個人データが漏えいした場合の対応比較
石川智也/北條孝佳
個人データが漏えいした場合,各国にて当局への報告や,本人への連絡が求められることが多い。本稿では,日本,EUおよび米国での漏えい対応の実務について,その違いにフォーカスしながら解説する。
個人データの越境移転規制と企業対応
河合優子
個人情報保護法の2020年改正法が,2022年4月1日に全面施行される。また,本年5月に成立したデジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律(いわゆる整備法)50条に基づく改正も,同じ時期に施行される予定である。これらの改正により,外国に所在する者に対する個人データの移転(いわゆる越境移転)に関する規律に変更が生じる。そこで,本稿では,越境移転規制について改正法の枠組みを紹介した後,日米欧の法制度を比較しつつ,実務上問題となる点を紹介する。
個人データ処理の委託に関する規制
岩瀬ひとみ/津田麻紀子
本稿では,個人データの処理を外部事業者へ委託する場合,典型的には外部のクラウド事業者に対して自社の保有する個人データの管理を委託するケースにおいて,各国のデータ保護法制のもとでいかなる取扱いが求められるのかについてのポイントを概観する。
東南アジアの個人情報保護法制の改正動向と主要論点
村田知信
近年,東南アジアにおける個人情報保護法制は大きな転換点を迎えており,各国で相次いで重要な法改正が行われている。本稿では,東南アジアにおける個人情報保護法制の改正動向を紹介したうえで,日系企業の関心が高い論点として,同地域のデータ越境移転規制・データローカライゼーション規制を取り上げる。
米英の動向とあわせて考える
スキル・マトリックスの作成・開示プロセス
山田英司
本年6月11日にコーポレートガバナンス・コードの改訂版が公表されたが,本改訂では,取締役会の機能強化において重要な役割を担う各取締役の適性を示すスキル・マトリックスの開示が要請されている。一方,現段階でスキル・マトリックスについての具体的な作成・開示方法が示されていない。そこで,本稿では,コーポレート・ガバナンスにおける,スキル・マトリックスの位置づけをふまえて,具体的な作成手順を解説する。
3月決算企業の株主総会招集通知における
スキル・マトリックスの記載傾向
新見麻里子
コーポレートガバナンス・コードの改訂により,株主総会招集通知におけるスキル・マトリックスの開示は今後もさらなる増加が見込まれる。本稿では,2021年3月末決算日経225銘柄の株主総会招集通知におけるスキル・マトリックスの記載傾向を分析する。
キリンホールディングス株式会社
作成・開示初年度以降の検討も重要
野上宗幹
コーポレートガバナンス・コードの改訂に先立ち,スキル・マトリックスを作成した経験から学んだ事項,これからスキル・マトリックスを作成される会社へのアドバイス,スキル・マトリックスの活用方法等について解説する。
株式会社すかいらーくホールディングス
自社の「取締役会」に必要な「スキル」の選定・意義づけ
崔 英柱
当社において役員のスキル・マトリックスを導入するに至った背景,具体的な作成手順,作成にあたり検討した事項等について,現在開示しているスキル・マトリックスを参照しながら紹介する。
日本ユニシス株式会社
今年度スキル・マトリックスの開示をスタート
――経営方針の確立でスキルが具体化
山内宜子
当社では,数年前からスキル・マトリックスの作成を検討し,本年6月の定時株主総会の招集通知にてはじめて開示した。本稿では,検討開始から作成・開示までの経緯や,具体的にどのように作成したかについてご紹介したい。
総論 日本を取り巻くESG投資の最新トレンド
翁 百合
国連がSDGsを主導するなど,社会全体を持続可能にするための取組みが必要とされている。企業も長期的な企業価値向上には,EやSへの重要視を強める投資家と対話を重ねてガバナンスを向上させることが求められる。特に日本企業は,今後環境など地球規模の課題,多様性への配慮等の社会的課題に応えながら企業価値を高めることが,多くのステークホルダーから求められる時代になっている。
2022年以降の提案増加が予想
ESG関連の株主提案の動向と平時の準備
生方紀裕
近時,ESGに関連するエンゲージメントや株主提案(ESGアクティビズム)が活発になってきている。2020年・2021年は,コーポレートガバナンス・コードの改訂,日本の上場会社向けの本格的な気候変動株主提案,米国エクソン・モービルに対する取締役選任を目的とするESGアクティビズムの成功といった重要な出来事が続いた。本稿では,ESGアクティビズムの概要とそれに対する平時の準備について概説する。
グローバル・サプライチェーンでの契約検討事項とモデル条項
中嶋隆則
昨今のサステナビリティやESGへの関心の高まりを受け,企業に対し,サプライチェーンにおける人権や環境に関する課題への取組みが求められる場面が増加している。本稿では,アメリカ法曹協会(American Bar Association)ビジネス法セクションのワーキンググループが2021年3月に公表した,国際的なサプライチェーンにおける労働者の人権保護のためのモデル条項を参照しながら,日本企業がサプライチェーンにおける取引先との契約関係をESGの観点から検討する際に留意すべき基本的な考え方について検討する。
「サステナビリティ」をめぐる改訂CGコード原則の解説と課題への取組み
宮田 俊
2021年6月11日,株式会社東京証券取引所をはじめとする全国の証券取引所は,コーポレートガバナンス・コードの改訂版を公表した。また,金融庁は,「投資家と企業の対話ガイドライン」の改訂版を公表した。これらは,2019年4月に設置された「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」における提言に基づくものである。本改訂の内容は多岐にわたるが,本稿では,このうち「サステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)を巡る課題への取組み」を中心にみていきたい。
調査時の視点からリスクの手当まで
ESG要素に着目した法務DDの実践
宮下 央/久保田修平/髙野博史
企業活動におけるESGへの対応の必要性が急速に高まりつつある現在,M&A取引時の法務デュー・ディリジェンスにおいても,対象会社のESGリスクの把握の重要性が増してきている。本稿では,法務DDの枠内でESGリスクを調査する際にどのような視点を持つべきか,また実際の調査においてどのような点に注意するべきかについて検討する。
E・S・Gそれぞれに対する法務サポートの具体策
工藤寛太
ESGの概念は日本国内においても大きな広がりをみせており,企業活動を行ううえでの不可欠な前提となりつつある。本稿では,法務部門がESGに取り組むことの意義・重要性と,具体的に何ができるのか,何をすべきなのかの一例を示したい。
巨大プラットフォーム企業の競争力抑制に向けた
反トラスト法改正案の概要と日本企業への示唆
川合竜太
米国超党派下院議員らにより,巨大オンラインプラットフォームによる自社商品の優遇や(潜在的)競争業者買収の禁止等を内容とする6法案が提出され,6月に下院司法委員会を通過した。とはいえ,反対派のロビー活動もあり,一部を除き原案に近い形で成立する可能性は必ずしも高くないと思われるが,その内容を紹介するとともに,成立した場合の日本企業への影響を検討する。
コーポレートガバナンス・コードに
「知的財産」が組み込まれた意義
杉光一成
2021年6月のコーポレートガバナンス・コード改訂によりコーポレートガバナンス・コード史上としてははじめて「知的財産」の文字が2カ所に入った。「コーポレートガバナンス」(企業統治)はいわば「不祥事を防止」することによって投資家を保護することに主眼があったことは周知のとおりである。しかし,コーポレートガバナンス・コードは,それにとどまることなく,各所に繰り返し明記されているように,「会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上」を図ることに実は重点がある。
自動配送ロボットの実用化に向けた法的課題と検討
秋田顕精
本稿では,自動配送ロボットに係る現行の法規制,および本中間報告書において示された自動配送ロボットに適用される交通ルールのあり方について説明する。
2021年6月4日採択
欧州新SCCの概説とデータ移転に係る実務対応
田中浩之/北山 昇
本稿では,2021年6月4日に欧州委員会により採択された新SCCによるデータ移転について,紙幅の関係上,実務上の負担が大きいデータ移転影響評価に力点をおいて解説を行う。
CGコード改訂を機に考える
役員のトレーニングの重要性と実施方法
淵邊善彦/木村容子
2021年6月11日にコーポレートガバナンス・コードが改訂された。取締役会の機能発揮等に関する各種の改訂内容をふまえると,役員のトレーニングの重要性はより高まっていると考える。役員のトレーニングの実効性を見直すべき機会と捉え,本稿では,主に法的観点から,役員のトレーニングの現状および工夫すべき点について解説し,充実した役員のトレーニングを実施する際のヒントとしたい。
組み合わせで可能性広がる!
ルールメイキング3制度の解説と活用事例の紹介
坂下大貴/岩間郁乃/渡邉遼太郎
近年,ルールメイキングは大きな盛り上がりをみせている。本稿では,経済産業省においてグレーゾーン解消制度,新事業特例制度,規制のサンドボックス制度の運用を担当する弁護士が,改正産業競争力強化法をふまえた各制度の概要を説明するとともに,これらの制度を組み合わせて活用することによりルールメイキングの可能性がより広がることを,実例を通じて紹介する。
テレワーク時の労務管理で参考となる
帰宅後の部下に業務報告を求めた行為がパワハラ認定された判例解説と実務留意点
中井智子
東京地判令2.6.10判決は,部下が帰宅後の遅い時間帯に頻繁に業務報告を求めた事件の行為についてのパワーハラスメントの成否が争点の1つとなった事案である。テレワークは,業務に関する指示や報告が時間帯にかかわらず行われやすくなり,労働者の生活時間帯の確保に支障が生じるという懸念点がある。この事件はテレワークを前提とした事案ではないが,テレワークの労務管理に警鐘を鳴らす意義もあるとも思われ,紹介する。
AI人材育成のためのデータ取引で重要
ハッカソン型モデル契約の概要と実務ポイント
松下 外
本稿は,2021年3月1日に経済産業者が公表した「AI・データサイエンス人材育成に向けたデータ提供に関する実務ガイドブック」のポイントとともに,その背景にある考え方を解説する。また,同ガイドブックにより新規に公開されたモデル契約のうち,ハッカソン型契約の重要なポイントを解説する。
フリーランスガイドラインの概要と取引上の留意事項(下)
――労働法の視点から
小鍛冶広道
本稿は,前回(本誌2021年9月号114頁以下)に引き続き,2021年3月26日に公表された「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」のうち,第5(現行法上「雇用」に該当する場合の判断基準)の内容について概説するものである。
LEGAL HEADLINES
森・濱田松本法律事務所編
最新判例アンテナ
第39回 複数の貸金債務がある場合において,借主による充当の
指定のない一部弁済は,特段の事情のない限り,各貸金債務の承認
としての時効中断の効力を有するとした事例
三笘 裕/秋山 円
インフラクラウドの法律と契約実務
最終回 クラウドをめぐる最近の話題と課題
笹沼 穣/矢野敏樹
最終回では,クラウドに関する最近の話題や課題について触れる。具体的にはクラウドセキュリティのトレンド,米国クラウド法の解説および最近発表されたヨーロッパのクラウド事業者団体による行動規範について説明し,本連載を通じてクラウドに関心を持っていただいた読者の方々がさらなるクラウドジャーニーを続けるにあたり,ささやかなガイドを提供することとしたい。
解説動画でらくらくマスター! 新入法務部員が覚えたい契約英単語・表現
第2回 どの契約書でも頻出する英単語その②/一般条項で頻出する英単語その①
本郷貴裕
本連載では,入社後1年以内にぜひとも習得していただきたい英文契約で頻出する英単語・表現を紹介していきます。初学者の方にも気軽に取り組んでいただけるように,できるだけシンプルな例文を掲載しています。第2回では,第1回で紹介した表現を例文のなかに散りばめましたので,それらも確認しながら読み進めてみてください。問題編もぜひチャレンジし,解答・解説はビジネス法務公式YouTubeチャンネル(100頁のQRコード参照)をご覧ください。
法務部員が知っておくべき 米中貿易摩擦に関する法令・規制の最新状況
第3回 米国の法令・規制③――2021年6月・7月の最新動向/近年の輸出管理⑴
井口直樹/ 松本 渉
第3回は,前半は,2021年6月・7月の最新動向を報告する。後半は,米国の近年の輸出管理法制・政策を概説する。具体的には,米国政府・議会の新疆ウイグル自治区イスラム教徒「強制労働」などに対する連続した措置を紹介し,その後,2019年より続いていた中国appを規制する大統領令の一部が廃止されたことを紹介する。
フィンテック実務の最前線――法務と政策渉外の現場から
第7回 暗号資産,セキュリティトークン
木村健太郎/髙尾知達
本連載は,フィンテックの法務と政策渉外に携わる弁護士が,フィンテック実務を読者に体感してもらうべく,実務上の作法と最新トピックを解説するものである。ブロックチェーン技術の登場により,決済,投資などの領域で当該技術を活用したデジタル形式の金融資産(デジタル・トークン)が生み出されてきた。これに伴い規制の構造は複数の法律に跨る複雑なものとなっており,その全体像の把握は容易でない。本稿では,暗号資産とセキュリティトークンを対比させる形で,現行規制の見取り図を提供することを試みる。また,説明の過程で将来展望的な若干の考察を行うこととしたい。
相談事例をもとにアドバイス コロナ禍におけるメンタル不調への対処術
第2回 コロナ禍で「通勤しないといけない」ストレス
ティーペック株式会社 こころのサポート部
コロナ禍で働く人のストレスはテレワークによる環境変化だけではなく,相談者のように働き方が変わらない場合も注意が必要です。今回の相談を「通勤ストレス(職場)」と「家庭(プライベート)」に分けて読み解きます。
法律事務所の図書担当と弁護士が教える リーガル・リサーチ基本の㋖
第3回 新聞雑誌記事・企業情報・企業適時開示データベースのサービスと機能
中村智子
リーガル・リサーチの対象は法令・判例・文献と思われがちですが,企業法務においては,新聞・雑誌記事・企業情報,企業の適時開示関連のリサーチも重要です。第3回は,新聞・雑誌記事,企業情報,企業の適時開示関連の主なデータベースのご紹介,そして最近複数リリースされている法律書のサブスクリプションサービスについて簡単に触れてみたいと思います。
中国における近時の重要立法・改正動向
第2回 中国民法典⑵ 物権関連
章 啓龍/刁 聖衍
近時,中国では企業活動に関連する法改正が相次いでいる。そのため,本連載では主要な法改正を捉え,企業対応の要点,リスク回避のための予防策を解説していく。第2回は2021年施行の中国民法典より,物権関連の改正ポイントをピックアップしたいと思う。担保類型の拡大,流抵当・流質に対する規制の緩和,登記簿記録優先主義の是認,債権質における対象範囲の明確化・質権者における義務の厳格化などは,日系企業の対中ビジネス,とりわけ債権回収の面で影響を及ぼすものと考える
債権法改正 施行後対応の要点
第4回 賃貸借契約(建物)
梶谷 篤/髙巢 遵
本連載は,2020年4月1日に施行された改正債権法につき,施行前後の実務の変化や問題点等を解説するものである。第4回では,建物の賃貸借契約を取り上げる。改正債権法が施行されてから1年が経過したが,旧法下で締結した契約も多数存在すると思われ,引き続き改正債権法への対応は必要となる。改正に伴い検討すべき点は多岐にわたるが,本稿では,改正事項のうち,これまで具体的に相談を受けた論点を中心に紹介し,各論点における改正前後の実務対応の変化について報告する。
企業法務史のターニングポイント
第9回 ウィズ/アフターコロナ時代の法務機能
石川智史/安平武彦
本連載では,このような状況のなかで,わが国の企業法務の歴史を振り返り,各業界法務の指導的なOB,現役のエキスパートの方々に,節目となる時代の経済・社会状況の中で,各法務部門がどのような問題を克服し,発展し,その役割と存在感を確立してきたのかを,できる限り事例を通じて述べる。第9回は,ウィズ/アフターコロナ時代の法務機能について述べる。