改正民法関連規定から検討する有効な「同意取得」方法とは
――省庁の見解・動向をふまえて
吉川翔子
利用規約への同意をどのように取得するべきか,改正民法の定型約款に関する規定や消費者契約法等に触れながら,実務的な観点から考察する。また,利用規約の変更に際しての同意の再取得や近時の消費者庁における利用規約をめぐる議論についても解説する。
サイボウズにおける禁止事項・罰則規定の見直し
山羽智貴
禁止事項の定めはサービスの安定的・継続的な提供のために必要不可欠であり,その内容は具体的かつ網羅的なものにする必要がある。また,罰則の定めは禁止事項の定めを効果的なものにするために必要不可欠であり,その内容は適度なものにする必要がある。さらに,禁止事項・罰則の定めは随時見直すことでサービスに最適化した,顧客の理解も得られやすいものにする必要がある。以上のことについて,本稿では当社利用規約を題材とした見直しの具体例も交えて解説する。
免責条項の有効性・有用性の考察と有事対応のポイント
有馬優人
本稿では,モバゲー判決を含む近時の動向をふまえ,無効等とならず,かつ,紛争解決のために有用な免責条項のあり方を探るとともに,有事の際の対応について検討する。また,本特集のテーマからは少し離れるが,紛争等の発生防止のための工夫についても,補足的に検討を行う。
消契法改正に向けて注目が集まる
サルベージ条項をめぐる議論の最新動向と対応
須藤希祥
消費者契約法の改正に向けた議論のなかで,いわゆる「サルベージ条項」を規律する定めを設けるべきではないかという論点が取り上げられている。サルベージ条項は,利用規約等においても散見される条項であり,事業者からは一定の必要性も指摘されている。そこで,サルベージ条項の取扱いについての最新の議論を紹介するとともに,これをふまえた対応策についても論ずる。
クラウドサービスでのデータ利活用に係る規定
植田貴之
現在の多くのクラウドサービスでは,AI等のさまざまな技術を用いてユーザが提供するデータを分析し,プロダクト改善やマーケティングに活用している。一方で,不透明または不誠実なデータ利用は,ユーザに不信感を与え,レピュテーションリスクにつながることもある。本稿では,クラウドサービスにおけるユーザデータの利活用が進むなかで,利用規約を通じたユーザとの向き合い方を解説する。
プライバシーポリシー作成・審査の際の着眼点
大坪くるみ
近年,パーソナルデータ活用の重要性が高まっている一方,企業によるパーソナルデータの利用時のプライバシー保護に対する社会的関心が強まっており,プライバシーポリシーへの注目度が増している。もっとも,プライバシーポリシーの内容に正解があるわけではなく,対象とする情報や利用態様によりさまざまであることから,本稿では,条項例を示すのではなく,プライバシーポリシー策定にあたり留意が必要な点について実務的観点から検討したい。
取締役会の機能発揮/企業の中核人材における多様性(ダイバーシティ)の確保
賜 保宏
株主総会関係等
森山弘毅
サステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)を巡る課題への取組み
石鍋謙吾
グループガバナンスの在り方/政策保有株式の取扱い
岡島直也
監査に対する信頼性の確保/内部統制・リスク管理
池原元宏
事業ポートフォリオの基本方針等
森山弘毅
総論 改正プロバイダ責任制限法の概要と成立の背景・経緯
曽我部真裕
本年4月21日,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の改正案が成立した。今回の改正は,インターネット上でなされる権利侵害投稿に関する発信者情報開示制度について大きな改革を行うものであり,後述のような経緯で,検討段階から大きな社会的注目を集めてきたものである。本稿では,この特集の総論として,改正の背景や経緯を見たのち,改正点の全体像を紹介することにしたい。
開示請求の対象拡大
――電話番号・ログイン型投稿の追加
清水陽平
省令で開示対象に追加された電話番号につき,現行法に基づいて開示請求をする場合に生じる問題等についての解説とともに,改正法において追加される「侵害関連通信」にかかる「特定発信者情報」の開示請求,いわゆるログイン型投稿に関しての開示請求について解説する。
新たな裁判手続
――「発信者情報開示命令事件」の概要と活用方法
清水陽平/中澤佑一
新たな裁判手続である「発信者情報開示命令事件」について,基本として想定されている手続の流れとともに,管轄,呼出し,取下げ,担保,異議申立て,決定等の効力等について現行法に基づく開示請求と対比しつつ解説する。また,筆者らが考える活用法についても提案する。
発信者の権利保護
――発信者情報開示請求の要件,意見聴取義務等
神田知宏
発信者は,発信者情報開示請求および発信者情報開示命令事件で,もっとも不利益を受ける可能性のある者であり,その権利利益を保護する視点が必要である。そこで,改正法のもと,どのような制度が用意されているのかを概観する。
発信者情報開示請求に係る
海外事業者への対応と検討事項
上沼紫野
発信者情報開示請求では海外事業者への対応が必須である。本稿では,裁判書類の送達等,海外事業者を裁判手続に関与させる場合特有の留意点,また,改正法のもとで想定される手続はどのようなものか,および今後の検討課題について概観する。
公衆衛生と個人情報保護法の交錯点
――「公衆衛生の向上及び増進」の明文化を
堀部政男
新型コロナウイルス感染症問題は,プライバシー・個人情報保護の分野にも多種多様な問題を投げかけている。コロナと闘うには個人データは不可欠である。医療分野では,個人データの収集・分析が的確に行われなければならない。しかし,実際には困難を伴っている。この問題は,今に始まったわけではない。
新たな法人形態
「労働者協同組合」の活用可能性
安田健一
2020年12月4日,第203回臨時国会で「労働者協同組合法」が成立した。本法は新たな非営利の法人形態である労働者協同組合の設立根拠法となる。一部の規定を除き,本法の施行日は公布日から2年を超えない範囲内において政令で定める日である。労働者協同組合の設立が可能になることで,協同労働がより広く普及することが期待されている。
4月21日公表
EU新AI整合規則提案にみるAI規制戦略の
構造・意図とブリュッセル効果の威力
新保史生
「人工知能に関する整合規則(人工知能法)の制定および関係法令の改正に関する欧州議会及び理事会の規則提案」が2021年4月21日に公表された。AIシステムのリスクに応じて利用禁止も含むAI規制を定めている。従来からEU市場に上市する製品の製造者や輸入者等に課されている製品安全規制同様の義務を,高リスクに分類されるAIシステムにも拡充してCEマーキングの対象とし,そのための適合性評価および第三者認証制度について定め,新たな整合法令の整備を目指す規則案について解説する。
男性の産休・育休取得の呼び水となるか?
改正育児・介護休業法の概要と制度浸透に向けた取組み
毎熊典子
2021年2月26日に国会に提出された「育児休業,介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一部を改正する法律案」が2021年6月3日付けで成立した。本稿では,改正法の概要について説明し,社内において今後どのように制度を浸透させていくべきかについて解説する。
「動産・債権を中心とした担保法制に関する研究会報告書」の
概要と実務上の留意点
粟田口太郎
わが国は,譲渡担保をはじめとする実務上活用されている動産・債権担保手法について,実体法的・手続法的な規定を欠いたまま,今日に至っている。担保法制の整備の必要性は,かねてより主張されてきたが,今般,ついに立法に向けた動きが本格的に始動した。本稿は「動産・債権を中心とした担保法制に関する研究会報告書」を題材として,現在の議論状況のポイントを簡潔に示そうとするものである。
住宅デザイン模倣裁判の概要と
改正意匠法による空間デザイン保護の動向
加島広基
2020年11月,東京地裁は住宅デザインに関する組立て家屋の意匠権侵害を認める判決を下した。本判決は住宅デザインの意匠権の侵害についてはじめて出されたものである。本稿では組立て家屋の意匠ならではの本判決の内容とともに,昨今の建築業界における改正意匠法による空間デザインの保護の動向を紹介する。
「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の
保護に関する法律」の概要と企業対応の要点
板倉陽一郎
2021年4月28日,「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律」が成立し,同年5月10日に公布された(令和3年法律32号)。日本で初の,デジタルプラットフォーム提供者と消費者との間を規律することに特化した法律である。本稿では,同法の概要と企業対応の要点を解説する。
デジタル市場競争本部・公取委の最終報告書をふまえた
デジタル広告をめぐる競争政策上の最新動向と出広者のチェック事項
角田龍哉
近年のデジタル広告業界の成長に伴い,政府機関を含む関係者から期待される透明性・公正性の水準も高まり,競争政策を中心にその期待が法制面にも反映されるようになってきた。これを受け,広告主は,デジタルプラットフォーム事業者に対して一定の対応を求めることができる等,より多くの選択肢を得られる可能性がある。その一方で,広告主としても留意が求められる事項も生じてくる。本稿では,こうしたデジタル広告をめぐる競争政策上の最新の議論動向とチェック事項を整理する。
会社不祥事を防ぐための仕組みづくりを
事業に係る規制法令・チェック体制構築のヒント
梅林 啓
会社が行っている事業を規制している法令はさまざまである。会社が法令を遵守しながら事業を行う必要があることは明白であるが,法令で何がどのように規制され,どのような手続が必要なのかは,一見して明らかでないことも多い。これを会社では誰がどのように把握しチェックしているのか。また,その解釈は正しいのか。本稿では,法令遵守の意外な落とし穴について解説する。
訴訟を見据えた証拠の確保を検討する
営業秘密侵害に対する法務の対応ポイント
山内貴博
企業が保有する営業秘密が不正取得される事件は跡を絶たない。本稿は,営業秘密を不正取得された企業の視点に立ち,加害者に対する訴訟を見据え,営業秘密を保有する企業が取るべき対策,特に証拠を収集する方法について解説する。
社外取締役の各種委員会での活動における論点整理(下)
渡辺 徹
2021年3月1日に施行された改正会社法に鑑み,今後,社外取締役の活動がますます拡大することが見込まれている。その社外取締役の活動場面として,経営陣から独立した立場で活動することが望ましいとされる各種の委員会が想定されているところである。日本CSR普及協会は,2020年11月6日,「社外取締役の各種委員会における活動」と題するウェビナーを開催した。本稿は,その際のパネルディスカッションの概要をまとめたものである。
LEGAL HEADLINES
森・濱田松本法律事務所編
新連載 法律事務所の図書担当と弁護士が教える リーガル・リサーチ基本の㋖
第1回 リーガル・リサーチの対象資料/パブリック・データベース
中村智子
本連載では,リーガル・リサーチの対象となる資料,それに関連するデータベースのご紹介,特徴と利用にあたってのポイントを解説します。第1回は,リーガル・リサーチの基本知識である対象資料について説明します。
法務部員が知っておくべき 米中貿易摩擦に関する法令・規制の最新状況
第1回 本連載の全体像/米国の法令・規制①
井口直樹
今後の米中摩擦の動向によっては,より多くの日本企業が,米中の「摩擦」に伴う法令の改変,法令に基づく規制措置の影響を受けるおそれがある。そこで,本連載を通してより多くの日本企業の法務部員にまずは全体像をご理解いただき,今後の情報を追跡できるようになっていただきたい。初回は,米国の法令について解説する。
新連載 中国における近時の重要立法・改正動向
第1回 中国民法典⑴ 債権関連
章 啓龍/刁 聖衍
近時,中国において企業活動に関連する法改正が相次いでいる。独禁法や知財法を中心に処罰強化の姿勢も見られ,日系企業としても対応を迫られるだろう。そこで本連載では,中国における主要な法改正を捉え,企業対応の要点,リスク回避のための予防策を解説していく。初回である今回は,2021年より施行された中国民法典のうち,債権関連をピックアップした。
最新判例アンテナ
第37回 事業協同組合の理事選挙の取消しの訴えに後任理事を選出する後行の選挙の不存在確認の訴えが併合されている場合には,特段の事情がない限り,先行の選挙の取消しの訴えの利益は消滅しないとした事例
三笘 裕/稗田将也
インフラクラウドの法律と契約実務
第4回 クラウドと個人情報保護
笹沼 穣/矢野敏樹
第4回では,クラウドと個人情報保護をめぐる法解釈について,過去の議論の経緯を参考にしつつ,現在通用している考え方や将来の展望について解説することとしたい。
債権法改正 施行後対応の要点
第2回 売買契約(商品・資材)
梶谷 陽
本連載は,2020年4月1日の施行から1年が経過した改正債権法につき,施行前後の実務の変化や問題点等を解説するものであり,第2回は売買契約(商品・資材)を取り上げる。本稿では,これまで筆者が関与した複数の企業のケースにおいて,契約書の文言にどのような工夫が行われているかを総括的に報告する。
企業法務史のターニングポイント
第8回 ソフト・ローの導入による
日本型コーポレート・ガバナンスの見直し
中西敏和
本連載では,このような状況のなかで,わが国の企業法務の歴史を振り返り,各業界法務の指導的なOB,現役のエキスパートの方々に,節目となる時代の経済・社会状況の中で,各法務部門がどのような問題を克服し,発展し,その役割と存在感を確立してきたのかを,できる限り事例を通じて述べる。第8回ではソフト・ローの導入による日本型コーポレート・ガバナンスの見直しについて解説する。
フィンテック実務の最前線――法務と政策渉外の現場から
第6回 新しい金融サービス仲介業
木村健太郎/髙尾知達
本連載は,フィンテックの法務と政策渉外に携わる弁護士が,フィンテック実務を読者に体感してもらうべく,実務上の作法と最新トピックを解説するものである。今回は,2021年中にスタートする新しい金融サービス仲介業について,背景と制度の概要を概説したのち,立案・立法の過程における議論が具体的な制度に反映されていく様を眺めることとする。
法とことばの近代史
第11回〈動産・不動産〉
山口亮介
本連載では、法に関するさまざまな言葉の来歴について、江戸期をはじめとする前近代から明治初期にかけてのさまざまな情報や史料などを手がかりにしながら解説する。第11回は,翻訳語を出発点として日本に定着した〈動産・不動産〉ということばについて概観していきます。
PICK UP 法律実務書
『米国アウトバウンドM&A法務の手引き』
道垣内正人
本書は,米国企業を対象とするM&Aを企図している日本企業の法務担当者・弁護士にとって,日本法と比較して米国法上の問題を浮かび上がらせ,注意点を教えてくれる好著である。