「署名押印の効力」と「電子署名の効力」の比較検討
――民事訴訟実務をふまえた電子署名利用時の留意事項
加藤新太郎/宮川賢司
本稿では,契約書における成立の真正に係る議論を参考にして,民事訴訟実務に長く携わってきた加藤と電子署名等のデジタルトランスフォーメーション関連法務の専門家である宮川とが,双方の知見を融合したものである。より広い観点から,企業間で締結される電子契約におけるリスク対応について考察することにしたい。
電子契約システム導入で再考する
法務の役割
――課題解決のアーキテクト(設計者)として
齊藤友紀
突如発生した新型コロナウイルス感染症とその影響を契機として,電子契約システムやその他のテクノロジーの導入が進み,これまで解決されてこなかった法務の課題を解決しようとするアプローチが現れている。本稿では,こうした動きが法務の役割に与える影響について,特に「アーキテクト(設計者)」としての法務の立場から検討していく。
紙と電子が混在する時代における契約管理の仕組みづくり
植田貴之
電子契約の導入により,押印,製本,郵送の手間の削減といった目に見える業務効率の向上を実現する企業が増加する一方,稟議を含めた契約締結フローの整備や電子契約により締結した契約書の保管については,各企業が試行錯誤するケースが散見される。契約管理の整備は,業務効率化のみならず,内部統制や内部監査の観点からも重要である。本稿では,紙の契約書と電子契約書が混在する時代において,各観点に配慮した契約管理の仕組み構築の方法について解説する。
アジアの国・地域における電子契約制度と実務上の注意点
久保光太郎/松村正悟
電子契約・電子署名に関する法令がすでに整備されている国であっても,実際には電子契約を使用するにあたって注意すべき実務上のポイントが存在する。そこで,本稿では特に注意が必要と考えられるアジアの国・地域をピックアップし,留意点について解説を加える。
取引先への説明方法,異なるサービス利用時の対応ほか
読者の悩みを解決!立会人型の「電子契約」運用Q&A
柴山吉報/高岸 亘
電子契約の導入後,運用や対象拡大の場面においても,検討が必要な事項は多い。そこで,本稿では,導入後のフェーズにおいて生じる疑問を読者等から募集し,一定の回答を示した。なお,本稿における「電子契約」は,基本的に,いわゆる立会人型のサービスを想定している。
三井物産株式会社
最適なチーミング組成で導入推進
佐藤秀城/下田幸大/巻木孝太
本稿では,電子署名による契約締結方法の導入経緯や現状,電子署名に関する社内ルール整備や運用方法のポイント,税務面やセキュリティ面からの検討ポイントについて当社取組みを解説する。
ラクスル株式会社
締結用メールアドレス登録で契約一括管理
小川智史/小柴大河
当社は創業来,「仕組みを変えれば,世界はもっと良くなる」というビジョンのもと事業運営をしているが,電子契約もまさに,仕組みを変えて世界を良くするプロダクトであると感じている。他方で,変化には摩擦がつきもので,その摩擦をマネジメントすることが今日の法務部門の役割であると感じており,その一端として当社での電子契約実務をご紹介したい。
freee株式会社
法的・ITリテラシーの差異に配慮したオペレーションの構築
桑名直樹/中山一道/渡邉涼子
昨今の電子契約システムの多くは,SaaSとして提供されており,用意されたサービスパッケージをカスタマイズすることは難しい。したがって,リスクヘッジに際しても,サービスそのもののカスタマイズではなく,サービスを利用したオペレーションの工夫や,オペレーションにかかわる人々のリテラシー向上や周辺ルール整備が重要となる。その際,各人のITリテラシーの差異に配慮し,制度設計を行うことが,リスクを減少させるためには重要である。
ベンダのプロジェクトマネジメント義務と
ユーザの協力義務
村田和希
システム開発においてはしばしばプロジェクトが中途で頓挫し,その責任をめぐって紛争が生じることがままあるところ,このような紛争において「ベンダのプロジェクトマネジメント義務」と「ユーザの協力義務」がしばしば問題となる。本稿では,これらの義務の内容について判示した裁判例を概観するとともに,2020年12月22日に公開された「情報システム・モデル取引・契約書」第二版でこの論点についてどのような手当がされたかを解説する。
責任制限規定の有効性,重過失の有無をめぐる
裁判例の検討
曽我部高志
システム開発をめぐる紛争において,責任制限規定の有効性や解釈が争われることは少なくない。その際,特に,責任制限規定の適用除外の要件となる「重過失」の有無が大きな争点となる。そこで,本稿では,裁判例を参照しつつ,責任制限規定の有効性およびいかなる場合に重過失が認められるかについて概観する。
現民法下における割合的報酬請求・
契約不適合責任
新間祐一郎
現民法が施行され約1年が経つ。請負については,割合的報酬請求の明文化や担保責任について売買の契約不適合責任の規定を包括的に準用する等の改正が行われた。しかしながら,システム開発契約において割合的報酬請求は容易ではない。また,請負に包括的に準用される具体的内容についても,「請負の性質を踏まえた個別の解釈論」に委ねられるなど課題が残されている。本稿では,これらの問題について検討を行うものである。
開発工程における債務不履行を理由とした
解除・損害賠償の考え方
システム開発契約における複数契約法理
松島淳也
多段階契約が採用された情報システムの開発において下流工程でトラブルが生じた場合,ユーザが上流工程まで遡って,原状回復請求(解除が前提)や損害賠償請求をする紛争が発生している。IPAの「民法改正対応モデル契約見直し検討WG」では,「システム開発における複数契約の関係」という論点において,このようなユーザの主張に関する裁判例等の検討がされている。そこで,本稿では上記WGでの検討結果等もふまえ,裁判所の判断傾向や注意点について言及する。
新モデル契約における
セキュリティ仕様に関する条項
大谷和子
モデル契約(第二版)では,近時のセキュリティの重要性に鑑み,ユーザとベンダとが各々の立場に応じて必要な情報を示しつつ,リスクやコスト等について相互に協議して「セキュリティ仕様」を定めるための詳細な規律が設けられた。このモデル条項によるリスクコミュニケーションの実践が期待される。
総論「ビジネスと人権」の全体像と法務の関わり方
高橋大祐
欧米諸国での動向があるなか,日本では,従前,国際人権に関する理解の遅れもあり,「ビジネスと人権」は企業実務において優先課題として取り扱われることは必ずしも多くなかった。ところが,2020年以降,以下のとおり,大きく潮目が変わり,多くの日本企業が「ビジネスと人権」を重要課題として捉えるようになっている。
企業・ステークホルダー間の相互理解と対話を促進
「問題解決メカニズム」設置・運用時の重要ポイント
蔵元左近
本稿では,「ビジネスと人権に関する指導原則」の3つの柱の1つであり,日本政府の「『ビジネスと人権』に関する行動計画(2020-2025)」で明記された,苦情処理・問題解決メカニズム(グリーバンスメカニズム)を,日本企業が設計・運用する際の重要ポイントについて説明する。
取引契約書における人権ポリシー
遵守規定の定め方と運用方法
大村恵実
リスクマネジメントの観点から,取引契約書へのビジネスと人権にかかる規定の導入を検討することが必要になってきている。本稿では,自社の調達基準や人権方針について,相手方に遵守義務を課したり,その違反の効果について規定したりする場合の具体例を示す。また,日本企業の直面する重要な人権課題をカバーする調達基準の参考例も紹介する。
M&Aのデューデリジェンスにおける人権の視点
梅津英明
「ビジネスと人権」をめぐる国際的な潮流やESG投資等の活発化を受け,今後M&Aのデューデリジェンスにおいて人権の観点を取り込む必要性が高まってくると考えられる。一方で,M&Aプロセスにおいて人権の観点を取り入れることには一定の制約もあり,検討すべき課題も多い。本稿では,M&AのDDにおいていかに人権の観点を取り込むか,現在の日本のM&A実務をベースにしつつ検討する。
企業実例① 全社横断的なプロジェクトを法的知見で支える
江崎グリコ株式会社の取組み
橋本孝史
近年,ビジネスのグローバル化やIT技術の発達等により,企業活動に付随するさまざまな人権問題が可視化されるようになった。それに伴い,消費者,取引先,従業員,株主や金融機関等さまざまなステークホルダーからの企業の人権尊重への要請と期待はより一段と高まっている。本稿では,最近になって本格化した,当社の「ビジネスと人権」に関する諸課題への取組みを紹介しつつ,人権尊重揺籃期における法務部の役割について検討したい。
企業実例②「 ビジネスと人権」を企業戦略に組み込む!
サステナブル調達に挑戦する不二製油グループ
四方敏夫
国連「ビジネスと人権に関する指導原則」や日本政府の「『ビジネスと人権』に関する行動計画(2020-2025)」などの国際ガイドライン・政府指針の遵守は企業の社会的責任として当然のことながら,「ビジネスと人権」への取組みは昨今企業戦略の観点からもマテリアリティ(重要課題)になっている。本稿では,当社の「ビジネスと人権」への取組みを紹介する。
有坂陽子
ソニーは,「クリエイティビティとテクノロジーの力で世界を感動で満たす」というPurpose(存在意義)と「人に近づく」という経営の方向性のもと,「人」を軸とした,エレクトロニクス,ゲーム,音楽,映画,金融事業等多様な事業を展開している。
武井一浩
企業を取り巻く経営環境として,さまざまなデジタル対応が待ったなしになっているが,上場会社の株主総会実務も例外ではない。株主総会のデジタル化には,①招集手続関連のデジタル化,②議決権行使関連のデジタル化,③株主総会当日のデジタル化(いわゆるバーチャル総会)という3つのパートがある。
著作権法における侵害主体論の現代的課題(下)
奥邨弘司
規範的侵害主体論は講学上の概念であるため,必ずしも衆目の一致する定義は存在しない。本稿では差し当たり,直接侵害者以外の侵害行為への関与者についても,一定の場合「著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」とみなす考え方,として解説を加えていく。
アメリカおよびEUにおける電子署名の法的効力
中田邦博/カライスコス アントニオス
電子署名の法的効力は,アメリカおよびEUのいずれにおいても基本的に認められている。アメリカでは連邦法による統一がみられ,判例も電子署名の効力を否定することはない。EUではEU規則が電子署名の効力を平準化しているが,これに加えて各加盟国が補完的な規律を置いている。
粉飾決算によるIPOに関する主幹事証券会社の責任
――最判令2.12.22の速報解説
松岡啓祐
最高裁令和2年12月22日判決は原審の判断を破棄し,粉飾決算によるIPOについて主幹事証券会社の責任を認めた重要判例である。証券会社が専門知識に基づいて引受審査をすることで開示情報の信頼性が担保されるといった制度趣旨を重視する観点から,金融商品取引法21条1項4号の損害賠償責任を負うとしており,実務上きわめて注目される。
開示対象範囲の拡大,新たな裁判手続の創設ほか
「発信者情報開示の在り方に関する研究会最終とりまとめ」の概要
北澤一樹
昨今社会問題化したインターネット上の誹謗中傷への対策の一環として,プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示制度改正に向けて,2020年12月22日,「発信者情報開示の在り方に関する研究会最終とりまとめ」が公表された。本稿では,当該最終とりまとめの概要を紹介する。
「将来の販売価格と比較する二重価格表示」に係る
消費者庁新指針とチェックポイント
松田知丈/大滝晴香
消費者庁は,2020年12月25日,不当景品類及び不当表示防止法が禁止する有利誤認表示に関し,将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示に対する執行方針(成案)を公表した。将来の販売価格は,将来の需給状況等の不確定な事情により実現できない場合があり,実際と異なる表示となりやすい性格の価格表示であることが指摘されてきたところ,新指針により,適切な表示と判断されるための外延が明確化された。
名古屋地判令2.10.28にみる
定年後再雇用者の基本給・手当に対する判断と実務対応策
柳田 忍
2020年10月28日,名古屋地裁において再雇用時の基本給が定年退職時の基本給の6割を下回ることを違法とする旨の判断が示された。本判決は,定年後再雇用者の基本給について企業に正社員との格差是正を求めるものであり,70歳までの就業確保を企業の努力義務とする改正高年齢者雇用安定法の施行を目前に控えたなか,大いに注目される。本稿では本判決の解説を通じて企業がどのような点に留意すべきかについて説明する。
ケーススタディで考える不正競争防止法リスク(下)
――品質・データ偽装
御代田有恒
2015年以降,品質・データ偽装の問題は,わが国社会でとりわけ耳目を集め出した。当初は人の生命・身体に影響があり得るような建物に関する偽装が取り沙汰された。その後,顧客の仕様を外れているもの(契約違反品)をその事実を知りながら納入する行為や,人の生命等には必ずしも影響しないが,燃費のように製品の機能性に影響する行為も問題視されるようになり,この問題は現在も広がりをみせている。本号では品質・データ偽装に関する同法の内容および実務上の留意点を検討する。
留学体験記 法務パーソンへ向けたMBA留学のススメ
坂本哲也
若手の企業法務弁護士・企業法務部員にとり,留学や出向の選択は,他者と差別化されたキャリア形成を図るという永遠の課題に最初に直面する場面である。筆者は,弁護士として法律事務所で働くだけでなく企業の法務部へ出向した経験からも,企業が弁護士へ,また,事業部門が法務部門へ求める役割が変化しつつあると感じ,MBA留学を選択し,2019年7月から約1年半,シンガポール国立大学のMBAプログラムに参加した。弁護士,特に日本の弁護士がMBAを取得するケースはまだ少ないため,読者の参考に筆者の経験をご紹介したい。
LEGAL HEADLINES
森・濱田松本法律事務所編
最新判例アンテナ
第34回 中間省略登記の方法による不動産の所有権移転登記の申請の委任を受けた司法書士に,委任者ではない中間者との関係において注意義務違反があるとした原審の判断に審理不尽の違法があるとして差戻した事例
三笘 裕/大住 舞
新連載 インフラクラウドの法律と契約実務
第1回 インフラクラウドの法律と契約実務
笹沼 穣/矢野敏樹
インフラクラウドの契約や関連論点について連載を開始するにあたり,クラウドをめぐる政策や法制度の概観等を説明する。また今後の連載で取り上げていく予定のトピック等も紹介し,読者に本企画のコンテキストと展望を提供する。
新連載「外国人労働者」に関する法務DDのポイント
第1回 外国人労働者とコンプライアンス
杉田昌平
昨今,技能実習制度を始め外国人労働者に関する報道が増え,それに比例して,外国人労働者に関する法令を重大なコンプライアンスイシューであるという認識を持つ企業は増えている。そこで,「企業法務」という視点から,「『外国人労働者』に関する法務DDのポイント」と題して,典型的なDDから,監査を行う場合における問題の背景から実務の取扱いまでを全3回にわたり検討する。
画像比較ですっきり理解!「知財侵害」回避のための着眼力
最終回 特許の権利範囲の解釈
川上桂子
企業が事業活動を進めるうえでは各種知財の見えないハードルが立ちはだかる。本連載では,普段知財に馴染みのない方にもこのハードルが見えるよう,画像比較を用いて説明する。最終回は,特許出願の記載事項を紹介するとともに,綺麗に焼き上げるために切り込み部が設けられた餅の特許について権利侵害が争われ,地裁の判断が高裁で覆された裁判例(切り餅事件)に基づいて,特許の権利範囲がどのように確定されるのかについて解説する。
企業法務史のターニングポイント
第5回 コーポレート・ガバナンスのあり方の模索
高野雄市
本連載では,このような状況のなかで,わが国の企業法務の歴史を振り返り,各業界法務の指導的なOB,現役のエキスパートの方々に,節目となる時代の経済・社会状況の中で,各法務部門がどのような問題を克服し,発展し,その役割と存在感を確立してきたのかを,できる限り事例を通じて述べる。第4回・第5回・第6回は,法務部門にとり,それまでの専門法務からの脱皮と,経営法務への発展への土台を作った2000年代を解説する。
株主・株式からみた中小企業M&A の実務
第11回 株式譲渡契約の問題
下宮麻子/鈴木一俊
中小企業M&Aの大半は後継者問題に起因する「事業承継型M&A」である。背景にあるのは日本社会の現代的課題である少子高齢化問題であり、国策と合致することから大変な盛り上がりをみせている分野である。第11回は,株式譲渡契約の問題について解説する。
敵対的買収への企業対応の最新動向
第4回 日本における敵対的買収を取り巻く制度②
松原大祐/政安慶一/白澤秀己
第4回では,事前警告型買収防衛策の更新について株主の賛同を得ることが困難になり,これを廃止する企業が増えていることを概観しつつ,導入企業からみた事前警告型買収防衛策の意義について説明する。また,外為法が2019年11月に改正され,2020年5月より改正外為法が施行されているが,当該改正が外資系の企業やファンドによる日本国内の上場会社の投資やアクティビズム活動に与える影響について説明する。
東南アジアの贈収賄規制・執行の最新事情
第8回 カンボジア,ラオス,ブルネイの贈収賄
大塚周平/Heng Chhay/Lee Hock Chye/Kendall Tan
本連載では、東南アジア各国の贈収賄法制度・執行実務・近時の傾向および留意点とともに、贈収賄対応におけるポイントを、現地の経験・知見をもとに解説する。第8回は,カンボジア,ラオス,ブルネイの贈収賄規制の概要をまとめて解説する。