改正の全体像と対応モデルスケジュール
川井信之
「民法の一部を改正する法律案」および「民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案」は、平成27年3月31日に閣議決定・国会提出され、その後国会で何度も継続審議となったものの、ようやく本年(平成29年)5月26日に参議院本会議で可決・成立し、同年6月2日に公布された(平成29年法律第44号、第45号)。今回の改正民法における改正の対象は、当初提案されていたものよりはかなり絞り込まれたものの、それでもなお膨大で、重要な改正内容も多く含まれている。 本稿では以下、改正の全体像を重要ポイントに焦点を当てて解説を行った後、改正対応についてのモデルスケジュールを示すこととする。
改正後の条項例から考える
契約書ひな型見直しのポイント
岡 正晶・宮島哲也・大澤加奈子・久保文吾・梶谷 陽
今般の民法改正に伴う契約書ひな型の見直しは、改正後のデフォルト・ルールをよく理解したうえで、自社ひな型をデフォルト・ルールどおりに変更するか、それとも、デフォルト・ルールとは異なる(より自社に有利な)特約条項とするかを、契約上の自社の立場に照らして、1つひとつ検討する作業である。 本稿では、企業において使用頻度の高い、売買契約書、賃貸借契約書および業務委託契約書を取り上げて、改正後のデフォルト・ルールどおりに修正した契約書ひな型を示し、それぞれ見直しのポイントを検討する。
定型約款見直しのポイント
─インターネットビジネスを題材に
伊藤雅浩
定型約款に関する民法の規定は、現行法にはない規定である。もっとも、規定自体は3箇条にとどまり、その内容も各方面から異論の少ない範囲で決まった概括的なものにとどまる。定型約款が適用される分野のひとつにインターネットサービスがあるが、これまで利用者に対して必要な表示をし、同意を得ている限りは大きな影響があるとは考えられないものの、これを機に改正法を理解し、自社サービスの規定を見直しておきたい。
債権管理・回収の改正ポイント
─時効、保証、債権譲渡、相殺における留意点
大川 治
本稿では、債権管理、保全・回収の観点で実務対応が必要になると思われる改正項目を取り上げる。定型約款や各種契約の改正項目にも債権管理・回収に影響するものがあるが、やはり、消滅時効、保証、債権譲渡、相殺が最重要であろう。順次、概要とポイントをご紹介する。
シェア経済が生み出す新しい社会と「共同規制」の考え方
石原遥平
シェアリングエコノミーは既存産業を破壊するものという意識ではなく、いま私たちの身の回りで起きている多くの課題を解決するひとつの有効な手段であり、それを使いこなすためにどういう点に気をつけるべきなのか、という意識を事業者消費者双方の立場から持ち、シェアリングエコノミーの本質を正確に理解することが重要であろう。
プラットフォーマーの私法・公法上の責任
森 亮二
「プラットフォーマー」とは、情報や商品・サービスの流通の場・環境を提供する事業者のことをいう。場・環境となるウェブサイトやアプリ等が「プラットフォーム」である。プラットフォーマーは、みずから、情報、商品・サービスの提供の主体となることはない。「platform」 の一般的な和訳は、「台」、「舞台」などであるが、ここで扱うプラットフォームもまさにそれである。プラットフォームは参加者による取引や情報発信の舞台であり、プラットフォーマーは演者ではなく舞台係である。
Column シェアリングエコノミーにおける
個人事業者保護の各国動向
松尾剛行
初のシェアリングエコノミー立法
「民泊新法」のポイントと留意点
山本龍太朗・木田晃一
本年6月9日、住宅宿泊事業法(以下「民泊新法」という)が国会で可決され、成立した。民泊新法は、シェアリングエコノミー(インターネットを利用して資産等を他人にシェアすること)の一形態である民泊サービスに特化して一定のルールを定めることを目的として制定されたものである。従来のいわゆる「業法」とは趣が異なっており、シェアリングエコノミーを正面から捉えて立法された初めての法律であるということができる。 本稿では、今後の日本における民泊ビジネスを転換させると考えられるこの法律について、概要を解説するとともに、その意義やインパクトを明らかにする。
Column
豪州における近隣問題へのアプローチ
渡部友一郎
ライドシェア、カーシェアをめぐる最近の議論
─安全性の確保を中心として
野間敬和・菅野邑斗
遊休資産等の既存のリソースの活用方法として、シェアリングエコノミーが広がりを見せる中、「自動車のシェア」、具体的には、ライドシェアとカーシェアに注目が集まっている。両者は、いずれも海外において生まれたビジネスモデルであるが、わが国の法規制との抵触が問題となっている。そこで本稿においては、わが国における「自動車のシェア」を巡るこれまでの議論について概説する。
Column
世界が挑む「相乗り×自動走行」の未来
光本亘佑
渡部俊也
Society5.0実現のため、企業は新たな情報財を含む広義の知財戦略に積極的に取り組むことが必要になったのである。
星 正彦
荒井 勝
企業は投資家を選べないとよく言われる。だが、今や企業が投資家を選べる時代となった。なぜなら、企業が積極的にESG情報開示対応を進めることで、長期的に株式を保有する世界の年金基金や運用受託機関といった投資家を、自社の株式を長期的に保有する安定的な株主として取り込むことにつながるからだ。
上田亮子
2017年5月に公表されたスチュワードシップ・コード改訂が企業に与える影響を考察する。今回の改訂は、機関投資家の利益相反管理強化が大きな柱であり、透明性向上のために議決権行使結果の個別公表を導入する。また、エンゲージメントの高度化を目指し、パッシブ運用のエンゲージメントや集団的エンゲージメントについても言及する。影響力の増大が懸念される議決権助言会社についても、その責務を明確化した。
国際自動車事件が割増賃金実務に与える影響
横山直樹
最高裁は、歩合給の額から残業代相当分を差し引く規定の有効性について、労働基準法37条の「趣旨」を広く見て無効とした地裁、高裁の判断を覆し、A明確区分性、B差額支払いという従来から最高裁が示してきた基準により判断すべきという堅実な判断を示した。本稿では、この最高裁の判断が「固定残業代制」の実務にいかなる影響を及ぼすのかという点の考察を示したい。
米司法省「企業コンプライアンス・プログラムの評価」が示す改善の視点
深水大輔
2017年2月、米国司法省(DOJ)の経済犯罪課が、「企業コンプライアンス・プログラムの評価」と題する新しいガイダンス(以下「評価ガイダンス」という)を公表した。 コンプライアンスの要請が厳格化される中、企業のコンプライアンス担当者からは、「何をどこまでやればよいのか?」、「どこから手をつければよいのか?」という悩みを聞くことが少なくない。評価ガイダンスは、このような悩みに対する回答やヒントとなりうるものであり、日本企業の経営陣、コンプライアンス担当者が自社のコンプライアンス・プログラムを見直し、改善するうえで有用な視点を提供するものとなっている。
野原俊介・チュ・ジァン・フー
連載第6回目は、カンボジアの最新労務事情を紹介する。東南アジア最貧国のひとつと言われる同国であるが、外資規制が緩やかであることから、近年は外国企業の進出も増加しており高い経済成長が続いている。1997年に制定された労働法は、運用の不徹底や実態との不整合等の問題点を指摘されることも多いが、一方で、労働者保護に過度に傾倒していないといった特徴もある。
BRUSH-UP
法務英語
第4回
Plain Englishで読みやすい英文を作るコツ④
橘川真澄
「同一労働同一賃金」議論を追う
第8回
予定される法改正の解説(労政審の建議)
橘 大樹
労働政策審議会が発表した「同一労働同一賃金に関する法整備について(報告)」という建議により、法改正の枠組みが具体的に明らかとなった。その内容は「同一労働同一賃金」というより非正規労働者の待遇改善に向けた法規制の強化と見た方が正確である
情報・テクノロジー法最前線
第5回 IoT、ビッグデータ②
─IoT、ビッグデータを取り巻く法制度の問題点、取引上の留意点
上村哲史・桑原秀明
今回は、現行の法制度における具体的な問題点およびビッグデータを対象とする取引における留意点を解説する。
外国人弁護士 世界一周 №2
張 国棟
グローバル時代のクライシスマネジメント
第5回
クライシスの要因ごとに3つの「R」を考える(その1)
麻生裕貴・尾嶋博之・白濱直哉
クライシスのきっかけとなるインシデントの種類ごと、また、国・地域ごとの特性をふまえて3つの「R」(Readiness(計画・準備プロセス)」、「Response(対処プロセス)」、「Recovery(回復プロセス)」)を考える。本稿では、自然災害、サイバー攻撃、不正・不祥事、という3種類のインシデントを対象とする。
英文M&A契約書の交渉ポイント
第10回
クロージングの前提条件⑵各論〜
表明保証の真実性・正確性、重大な後発事象の不存在他
西 理広・ニック・ツァイ
前号はクロージングの前提条件の総論と個別の前提条件のサンプル条項をいくつか解説した。本稿では買主の義務の前提条件のサンプル条項を解説していく。売主の義務についても同様の前提条件が設けられる場合があるが、交渉上、より重要なのは買主の義務の前提条件である。
会社のステージ別で見る
株式・インセンティブ報酬の選択のポイント
第7回
≪会社のステージ別解説≫③上場を目指している会社
川村一博・村松頼信・寺田芳彦・藤原優子・吉永 誠
第5回、第6回とすでに上場している会社のインセンティブ・プラン導入に係る留意点を解説した。第7回は現状未上場であるが、近い将来に上場を目指している会社が採用すべきプランの考え方や具体的な留意点を解説する。
Next Issueはどこにある? 海外の今を読む
第6回
電子マネー法のこれから
都筑満雄
フランスの電子マネー法は、わが国とは大きく異なる特徴を持っており、注目される。 具体的には、キャッシュレスの支払手段に共通に適用される規定を含んでいる点、ICカードの不正使用などの無権限決済取引に関する詳細な規定を有している点、電子マネーの一般的な払戻しを認めている点である。本稿では、紙幅の都合から、このうちの、共通のルールと一般的な払戻しについて、後者を中心に紹介する。
先輩に学ぶ! 法務ママの活躍録 №3
森山義子
要件事実・事実認定論の根本的課題―その原点から将来まで
第13回
評価的要件における判断の構造②
─要件事実・事実認定論における「事実と評価」の問題の一環として
伊藤滋夫
本号では、評価的要件における特徴を請求原因、抗弁などの攻撃防御方法の流れの中で考えてみることにする。
LEGAL HEADLINES
森・濱田松本法律事務所 編