総論「金銭支払条項」をめぐる法的・実務的論点
出澤秀二
本稿では,相殺や債権譲渡の場合を含む支払条項のバリエーション,印紙税のポイントおよび法務部門で時折問題となる民法の弁済に関する仕組みを解説する。
代金の定め,サンクション,支払管理,精算ほか
「金銭支払条項」起案・審査のチェックポイント
大賀祥大/丸野登紀子
ここでは,契約における具体的な条項例をあげながら,支払に関連する条項を起案・審査する際の着眼点,将来のトラブルを予防するために留意すべき事項,相手方と交渉を行う際の視点等について解説する。代金支払条項だけでなく,未払い時のサンクション,支払管理,解除・途中解約時の精算に関する条項についてもあわせて理解しておくことが肝要である。
準拠法,為替リスク,債権回収コスト
渉外取引における「金銭支払条項」の留意点
髙橋直樹
支払に関する条項の起案・審査の着眼点は渉外取引に関する契約と国内取引に関する契約で共通する点が多いが,渉外取引に特有の問題もある。本稿では,渉外取引に関する契約の起案・審査に馴染みがない法務担当者を念頭に置きながら,支払にまつわる事項を中心に,渉外取引に関する契約の起案・審査の際に認識・留意すべき事項を説明する。
問題行動として捉えられる精神疾患の
症状と産業医の視点から見た企業対応
森本英樹
一見,従業員のさぼりや不注意,悪意を持った行動といった問題行動に見えるもののなかに,精神疾患が原因となるものがある。今回は企業で起こりがちな事例をあげ,起こっている事象に目を向けた指導や配慮をどのように行い,医師との連携をとるべきか,その視座をお伝えしたい。
事実に対する裁判所判断を分析
精神疾患に起因する人事措置に関する
裁判例の動向
山崎貴裕
問題行動があり,精神疾患が疑われる従業員,あるいは実際に精神疾患と診断された従業員に対する人事措置が問題となった事案において,裁判所がどのような事実に着目し,どのような判断を下したのかにつき分析を試みることにより,裁判例の傾向を把握するとともに,企業としてとるべき対応策を検討したい。
発症・認定,休職,復職時の各段階における
企業の考慮要素と対応プロセス
岡芹健夫
この章では,現実に遭遇する問題社員の所為に対して,どのように活かしていくか,につき検討していく。精神疾患の発症・認定・療養(休職)・治癒(復職)といった時系列に沿って,検討していくこととする。
企業は社会問題にどう向き合うか
――ISO 26000の遵守で内部統制の実現を
森田 章
白人警官に首を押さえつけられて亡くなった黒人男性の死をきっかけに,抗議デモが世界各地で起こり,米国に拠点を置く企業だけでなく日本企業にも,差別に対しての企業の姿勢が問われることとなった。
ユニバーサルミュージック事件高裁判決にみる
同族会社の行為・計算否認の法理
佐藤香織
2020年6月24日,東京高等裁判所は,法人税の更正処分等の取消しが求められた訴訟において,国(被告,控訴人)の控訴を棄却する判決を下した。本稿では,本判決について解説を加える。
米国連邦議会反トラスト法小委員会が示す
GAFA対応の視点と日本への示唆
大久保直樹
本稿は,裁判所が反トラスト法のエンフォースメントの鍵を握っていることを確認したうえで,2020年10月に公表された米国連邦議会下院司法委員会反トラスト法,商法および行政法に関する小委員会の多数派スタッフ報告書がGAFAについてどのような対応策を推奨しているかを紹介し,日本法への示唆について一言する。
著作権法における侵害主体論の現代的課題(上)
奥邨弘司
規範的侵害主体論は講学上の概念であるため,必ずしも衆目の一致する定義は存在しない。本稿では差し当たり,直接侵害者以外の侵害行為への関与者についても,一定の場合「著作権......を侵害する者又は侵害するおそれがある者」とみなす考え方,として解説を加えていく。
中国個人情報保護法草案の概要と企業の事前対応策
原 洁/張 国棟
2020年10月13日,中国の全国人民代表大会常務委員会会議において「個人情報保護法(草案)」の審議が行われた。現在公開されている「草案」と最終的に出される正式な法律文書とにはなお乖離がある可能性はあるが,これらのうち多くの原則と内容には大きな調整はなされないものと思われ,現在の「草案」の内容を理解し,関連する対応策を早期に検討しておくことには重大な意義があると言える。
リモート取締役会,監査役会,株主総会等の開催に関する実務上の工夫
企業の意思決定に関する書面・対面規制の現状と解決方法
立川 献
会社の機関による意思決定は,「対面」での効率的な意見交換の後,意思決定がなされ,その過程と結果が「書面」で記録されることが当然の前提である。本稿では,コロナ禍の長期化も予想される現状で,「対面」「書面」の要請をどのように克服するか,会社の機関の種類に応じたコミュニケーションおよび意思決定手続上の留意点や工夫等を示すこととしたい。
施行日前後の取締役会決議,総会議案,事業報告への影響
2021年3月期末に係る株主総会へ向けた改正会社法対応
松浪信也
令和元年会社法改正の施行日が2021年3月1日と定められ,会社法施行規則等の一部を改正する省令が2020年11月27日に公布されたことにより,会社法改正の施行に係る対応が本格化している。本稿では,会社法改正の施行に対する実務対応について,時系列を追う形で①施行日前後から検討すべき事項,②定時株主総会の議案における対応,③事業報告に関する対応,に分けて整理する。
米国連邦政府によるTikTok・WeChat規制に対する訴訟の概要
大久保 涼/長谷川 紘
トランプ政権下において深まった米中対立は,2020年8月,中国発のアプリであるTikTokおよびWeChatに対する規制発出に及び,大きな議論を呼んだ。現在その有効性が法廷で争われているが,本稿では,当該規制の内容と経緯について関連する訴訟の概要を解説するとともに,今後の影響について簡単に触れる。
仲裁・調停機関におけるオンライン紛争解決手続と
戦略的利用の視点
高取芳宏
コロナ禍による影響で,各国の裁判所の手続に加え,国境を超えた国際仲裁・調停の手続においてはオンライン化が加速し,各仲裁機関,施設等がオンラインによる仲裁・調停の運用を進めている。本稿では,JIDRC,JIMC-Kyoto等日本の施設・機関によるオンライン対応の他,各国の主な施設,機関による運用を紹介するとともに,オンラインならではの当事者となる企業が留意すべき点について考察する。
図書館から各家庭への蔵書オンライン送信をめぐる
著作権法改正の動向
唐津真美
文化庁文化審議会のワーキングチームは,昨年11月,①国立国会図書館が入手困難資料のデータを各家庭等に送信すること,および②補償金の支払を前提として図書館等が一定範囲で所蔵資料のコピーを利用者に送信すること,を可能にする報告書を公表した。著作権法改正を提案する報告書につき公表した。
「危機」を「チャンス」にできるか?
対談 コロナ禍で再定義される法務部門の役割
中村 豊/淵邊善彦
コロナ禍は会社のビジネスや組織のあり方にも大きな影響を与えており,法務部門の新たな役割を考えるきっかけになっている。本対談では,昨年12月に『強い企業法務部門のつくり方』(商事法務)を出版した著者2名が,コロナ禍による環境変化を前向きに活かす方策を議論する。
適切な減額度合の検討,トップによる説明方法
労働者の賃金減額にまつわる法的留意点
嘉納英樹
未曽有の危機たる新型コロナウイルスのおかげで,非常に多くの企業の経済活動が停滞している。このため,仕事の受注ができなくなる企業やお客様が訪れなくなってしまい,結果,労働者の離職または賃金減額を実施することを目論む企業は多い。雇用契約で定められた賃金の全額を支払うと企業が傾くおそれが高いからである。企業が労働者の賃金を減額することは果たしてできるのであろうか。
ジョブ型雇用のメリット・デメリットと職務記述書作成の実務
山畑茂之
ジョブ型雇用(職務給制度)を導入する場合には職務記述書(job description)を作成することが必須であり,その場合,「人」に着目するのではなく「職務」を定義するものであるということを意識して作成することが必要である。また,ジョブ型雇用はバラ色の雇用形態などではなく,メリット・デメリットがあるため,採用は慎重に検討することが必要である。
ケーススタディで考える不正競争防止法リスク(上)
――外国公務員贈賄罪
御代田有恒
近時,外国公務員への贈賄や品質・データ偽装に関して,上場企業グループの法人およびその役職員に不正競争防止法違反に基づく有罪判決が下されている。不正競争防止法は,企業コンプライアンスという文脈でも重要性の高い法律であるが,これまでこのような文脈では必ずしも力点が置かれてこなかった。そこで,本号では外国公務員への贈賄,次号では品質・データ偽装に関して,同法の内容および実務上の留意点を検討する。
不祥事予防プリンシプル,取組事例集から考える
平時のコンプライアンス活動において企業が意識すべき3カ条
大庭浩一郎
平時のコンプライアンス活動においては,コンプライアンス違反を完全に根絶することは極めて困難であるということを念頭に置く必要がある。本稿では,①「コンプライアンス違反を黙認しない社内の雰囲気」,②「不祥事は必ず露見する」,③「職場内のオープンなコミュニケーション」の3つがポイントについて解説する。
LEGAL HEADLINES
森・濱田松本法律事務所編
証拠からみる 独禁法違反認定の鍵
最終回 トイザらス事件
向 宣明
本連載は,独占禁止法違反を疑われる行為の当時の文書が,証拠としてどのように評価されることになるのか,実例をふまえた検討を行うことで,同種事案への対処についての示唆を得ようとするものである。最終回は,トイザらス事件を取り上げる。
最新判例アンテナ
第33回 債権譲渡として行われている給与ファクタリングが
貸金業法にいう「貸付け」に当たるとした事例
三笘 裕/石本晃一
法とことばの近代史
第8回 〈商法〉
山口亮介
本連載では、法に関するさまざまな言葉の来歴について、江戸期をはじめとする前近代から明治初期にかけてのさまざまな情報や史料などを手がかりにしながら解説する。第8回は〈商法〉ということばについて,「商法典論争」前後の時期を中心として概観する。
敵対的買収への企業対応の最新動向
第3回 日本における敵対的買収を取り巻く制度①
松原大祐/政安慶一
第3回では,日本における敵対的買収を取り巻く制度について解説する。本稿では,敵対的買収のターゲットになりやすい企業の類型について触れたうえで,日本の金融商品取引法には,敵対的買収への対処という観点からは,①株主が買収提案に応じるか否かを判断するための時間と情報の確保,②TOBの強圧的,③大量保有報告制度の潜脱といった,必ずしも十分な手当てがなされていないのではないかと思われる問題が存在することについて説明する。
企業法務史のターニングポイント
第4回 企業不祥事とコンプライアンス強化
高野雄市
本連載では,このような状況のなかで,わが国の企業法務の歴史を振り返り,各業界法務の指導的なOB,現役のエキスパートの方々に,節目となる時代の経済・社会状況の中で,各法務部門がどのような問題を克服し,発展し,その役割と存在感を確立してきたのかを,できる限り事例を通じて述べる。第4回・第5回・第6回は,法務部門にとり,それまでの専門法務からの脱皮と,経営法務への発展への土台を作った2000年代を解説する。
画像比較ですっきり理解!「知財侵害」回避のための着眼力
第7回 キャラクターの法的保護
溝上武尊
企業が事業活動を進めるうえでは各種知財の見えないハードルが立ちはだかる。本連載では,普段知財に馴染みのない方にもこのハードルが見えるよう,画像比較を用いて説明する。第7回は,キャラクターの法的保護について,著作権法と不正競争防止法における類似性が問題となった裁判例を紹介する。
東南アジアの贈収賄規制・執行の最新事情
第7回 フィリピンの贈収賄――会社役員の責任にも注意
大塚周平/Ben Dominic Yap/Jess Raymund M. Lopez
本連載では、東南アジア各国の贈収賄法制度・執行実務・近時の傾向および留意点とともに、贈収賄対応におけるポイントを、現地の経験・知見をもとに解説する。第7回は,フィリピンの贈収賄規制の概要を解説する。
株主・株式からみた中小企業M&A の実務
第10回 株主の相続の問題
辛嶋如子
中小企業M&Aの大半は後継者問題に起因する「事業承継型M&A」である。背景にあるのは日本社会の現代的課題である少子高齢化問題であり、国策と合致することから大変な盛り上がりをみせている分野である。第10回は,株主の相続の問題について解説する。
フィンテック実務の最前線――法務と政策渉外の現場から
第3回 決済サービス(上)
木村健太郎/髙尾知達
本連載は,フィンテックの法務と政策渉外に携わる弁護士が,フィンテック実務を読者に体感してもらうべく,実務上の作法と最新トピックを解説するものである。第3回および第4回は,キャッシュレスの普及や新サービスの展開により注目が集まり,かつ重要な規制・制度の改正が目白押しの決済サービスを取り上げる。