予見不能な事態の発生と契約関係の帰趨
――履行不能法理・事情変更法理を中心に
北居 功
新型コロナウイルス感染症のパンデミックが,国内外の経済活動に大きな影響を与えており,経済活動の中心である契約の円満な展開を阻害し得る。こうした事態に対処し得る法理として,履行不能法理と事情変更法理の2つが想起されるであろう。以下では,両法理がそれぞれ適用され得る場面と,両法理が競合し得る場面について,考察を試みよう。
契約書の備えと再契約交渉の実務ポイント
――継続的な製品供給契約を題材に
岡本 厚
サプライチェーンが国際化・複雑化するなか,大規模自然災害や新型コロナウイルスのような感染症の世界的流行等,予見不能な事態から生じるビジネスへの影響は極めて甚大なものとなり得る。予見不能な事態の段階ごとに,不可抗力条項,情報提供義務,再交渉義務を中心に継続的な製品供給契約における契約実務上のポイントを概説する。
現場の思考プロセスを考える
コロナ不履行に対する主張構成のポイント
鈴木 学/豊永晋輔
「インドネシアから仏像が来ない!?」「コロナの影響で政府プロジェクトが頓挫!?」の2つの事案について,新人法務部員の甲が,会社の顧問弁護士乙に相談しに来た。ここでは、契約書にあてはめながら,どの条項が問題になるかを考えていく。
条項例付 英国・米国における責任制限条項の検討
――免除可能な損害の種類,上限設定,損害賠償額の予定ほか
西 理広
本稿では英国および米国における責任制限条項の取扱いについて解説し,条項例を紹介する。英国ではUnfair Contract Terms Act 1977 による法規制があり,責任を限定しようとする当事者の資産や保険の付保状況などの記載が要求される場合もある。米国においては州ごとに異なった規律に服する場合があるが,いわゆる統一商事法典(UCC)の適用がある契約については統一的な規律が働く。
対談 日米比較で考える
新型コロナがM&A実務にもたらす変化とその対応
鈴木健太郎/木本泰介
本日は,米国の法律事務所で日本企業を代理してM&A等の投資案件を多数手がけている木本弁護士と,従前の日米M&A実務の違いをふまえつつ,新型コロナウイルスの世界的流行によるM&A実務への影響や最新の動向について情報交換をしたいと思います。
リスクコントロールの現状と今後のアプローチ
コロナ下におけるM&A契約実務Q&A
東 陽介
新型コロナウイルス感染症の流行は,人々の生活そして国内外のすべての事業に大きな影響を与えた。M&A は,まさに事業を取引の対象とするため,当然影響を受けている。日本に限らず世界的にみても,夏以降はM&A は復調傾向であるが,コロナを受けて,一定の変化も起きている。本稿では,コロナ後のM&A 契約実務において生じた変化について検討する。
契約,労務,個人情報の取扱い等を要確認
新型コロナの影響をふまえた法務DDの進め方
根本剛史
新型コロナウイルス感染症は,M&A 実務にもさまざまな影響を与えている。法務DDについても,その実施方法や調査すべきポイント等が,新型コロナウイルス感染症の拡大前とでは異なっている点がある。本稿では,新型コロナウイルス感染症の影響をふまえた,M&A 取引における法務DD の進め方に関する主な留意点について説明する。
法人税増税,非移民向け就労ビザの発給緩和ほか
バイデン新政権下の主要政策と日本企業のとるべき対応
河村真紀子/鵜澤圭太郎
2020年11月3日に行われた米大統領選挙はいまだ最終的な結果確定に至っていないが,現時点では民主党のジョー・バイデン候補が第46代合衆国大統領に就任する見通しである。本稿では,日本企業に特に影響が生じると思われるバイデン政権の目玉政策について,その概要と対応方針をそれぞれ述べるとともに,今後の見通しについても概説する。
裁判記録電子公開の行方
――訴訟情報利活用の検討を
町村泰貴
日本でも,民事裁判を中心とするIT化の議論が急ピッチで進められているが,その中で裁判記録の電子的な公開については必ずしも重視されていないようである。
コンテンツ創作者・権利者の留意点
VRビジネスの発展と知財保護
角田政芳
今,人類は,その香り,味,触感を記録し再製するVRテクノロジーを完成させた。もちろん,これらはインターネットで送受信可能である。そして,今日,VRは,ゲーム,アニメ,マンガ等のエンターテインメント産業にとどまらず,製造業から教育,医療,観光業に至るあらゆる分野で開発・利用されるに至っており,そのすべてにおいて正確な知的財産権の知識と活用が求められている。
SchremsⅡ判決を受けた
ガバメントアクセス対応の観点を中心に
欧州域外データ移転に関するRecommendations
および新SCC案の解説
田中浩之/北山 昇
本稿では,2020年11月に公表された,欧州域外データ移転に関するRecommendationsおよび新SCC案について,2020年7月16日の欧州司法裁判所のSchremsⅡ判決において示されたガバメントアクセス対応の観点を中心に解説する。
行政上・刑事上の措置が増加傾向
コロナ関連商品をめぐる広告表示と薬機法上の規制
染谷隆明
本稿では,ヘルスケア関連商品に係る最近の広告規制の全体像と最近の動向を一覧したうえで,ヘルスケア商品等の表示において実務上よく論点となる,薬機法の「医薬品」等の該当性の判断方法や付随する景品表示法の論点を中心に取り上げることによって,ヘルスケア商品等の広告作成における基本的なポイントを掴んでいただくことを目的とする。
一問一答 今,社員周知したい
テレワーク・会議のデジタル化に伴う著作権法上の問題点
関 真也
コロナ・ショックをきっかけに,テレワーク化や業務資料のデジタル化,社会的なデジタル・トランスフォーメーションが急激に進んでいる。こうした変化のなかで頻繁に知財法務部門に寄せられるであろう著作権にまつわる疑問点について,Q&A形式で解説する。
相手方のパソコン等を調査するための法的手続
――占有移転禁止の仮処分(債権者使用型)の転用可能性
榎木智浩
相手方のパソコン等を強制的に調査する方法はない。そこで,既存の法制度を転用することで強制的にこれを調査する方法について検討する。
対応チェックリスト付き
「リモートハラスメント」リスクへの具体的対応
安倍嘉一
リモートワークには,柔軟な働き方ができることや,通勤時間がなくなることによる時間の効率的運用といったメリットがある一方,新たな問題も生じてきた。その1つが,リモートハラスメント(リモハラ,テレハラ)と呼ばれる現象である。本稿では,リモートハラスメントの問題点と,これに対する企業の対処法について概説する。
新型コロナに起因する米国訴訟の分析と日本企業の対応策
土井悦生/エイドリアン・ジェンセン
本稿では,まず米国における新型コロナに起因する訴訟の現状を紹介し,訴訟において特に問題となる防御方法について解説する。次に,コロナ禍での米国訴訟全般(新型コロナに起因しない訴訟を含む)の対応につき,特にデポジションを中心にディスカバリの問題点を解説し,日本企業の対応策を検討する。
日本における「合意型正社員」の可能性
――「ジョブ型」から「合意型」への道筋
野川 忍
ポストコロナ時代の労働が,従来の働き方から一変し,いわゆるジョブ型を中心とする方向に変更を迫られていることは共通の認識となっている。本稿は,問題なのはメンバーシップ型かジョブ型かではなく,無合意型から合意型への改革であることを,これまでの経緯をふまえたうえで提示したい。
AIによる採用,人事評価の問題点
大島義則
採用・評価・配置等のあらゆる人事分野において,HRテクノロジーが活用されている。HRテクノロジーは客観的データに基づく効率的な人事を可能にする一方で,ブラックボックス問題,バイアス問題等を抱えている。本稿では,採用と人事評価の局面を取り上げて,主として労働法の観点からHRテクノロジーに関する法的問題について論じ,AIによる採用,人事評価のあるべき姿を探求する。
開始時現存額主義と相殺の遡及効制限条項,超過配当後の不当利得の扱い
――破産法104条1項・2項をめぐる近時論点
高田賢治
銀行取引約定書の差引計算条項は,相殺の遡及効(民法506条2項)を制限するか。仮に制限するとして,破産手続開始後の相殺は,開始時現存額主義との関係で手続開始後の債務の一部消滅といえるか。また,開始時現存額主義に基づいて破産管財人が超過配当した場合,超過部分について物上保証人は債権者に対して不当利得返還請求することができるか。これらの問題について,裁判例を概観しつつ,解説する。
女性取締役の存在意義と今後の展望
――イギリスの取組みを参考に
本間美奈子
近時,コーポレートガバナンス・コードの改訂,議決権行使助言会社や機関投資家の要請などにより,女性取締役の選任が強く求められている。本稿では,改めて,取締役会に女性が存在することの意義とはどのようなものであるかについて示し,今後を展望する。
LEGAL HEADLINES
森・濱田松本法律事務所編
最新判例アンテナ
第32回 株主総会の招集通知発出後,新型コロナウイルス感染症に係る緊急事態宣言等に伴い取締役会決議によらずにその開催場所,時間を変更したことは違法でないとした事例
三笘 裕/小川美月
敵対的買収への企業対応の最新動向
第2回 アクティビストの動向
松原大祐/野澤大和
本連載では,わが国における敵対的買収を取り巻く環境や実例を紹介したうえで,敵対的買収事案に関与することの多い法律実務家の視点から敵対的買収への平時・有事の対応について解説を行うことを予定している。本連載第2回として,アクティビストの活動が活発化している背景,その手法等および活動事例の分析を通じて,アクティビストの近時の動向を概説する。
フィンテック実務の最前線――法務と政策渉外の現場から
第1回 フィンテック実務の作法(上)
木村健太郎/髙尾知達
本連載は,フィンテックの法務と政策渉外に携わる弁護士が,フィンテック実務を読者に体感してもらうべく,実務上の作法と最新トピックを解説するものである。第1回および第2回は,総論として,法務と政策渉外の実務上の作法を説明する。
法とことばの近代史
第6回 〈大審院〉
山口亮介
連載では、法に関するさまざまな言葉の来歴について、江戸期をはじめとする前近代から明治初期にかけてのさまざまな情報や史料などを手がかりにしながら解説する。第6回は明治期以降の各種の裁判所の名称のあり方について整理したうえで,現在の最高裁判所の前身にあたる大審院(明治8年設置)の名称と当時における西洋裁判法制の参照をめぐる諸問題について概観する。
東南アジアの贈収賄規制・執行の最新事情
第6回 ミャンマーの贈収賄――投資案件・M&A時のリスク確認を
大塚周平/太田浩之
本連載では、東南アジア各国の贈収賄法制度・執行実務・近時の傾向および留意点とともに、贈収賄対応におけるポイントを、現地の経験・知見をもとに解説する。第6回は,ミャンマーの贈収賄規制の概要を解説する。
画像比較ですっきり理解!「知財侵害」回避のための着眼力
第5回 商品形態の模倣
町野 静
企業活動には,さまざまな知財侵害のリスクが潜んでいる。製品開発における特許権,工業デザインにおける意匠権,ブランディングにおける商標権,販促資料の作成やソフトウェア開発における著作権など,企業が事業活動を一歩進めるたび,各種知財の見えないハードルを越える必要がある。第5回は,意匠登録のない工業製品の形態が法律上保護される場合の考え方について,近時の裁判例の判断基準を紹介し,実務上の留意点について説明する。
企業法務史のターニングポイント
第2回 金融機関における法務セクションの系譜――臨床法務から予防法務へ
天野佳洋
本連載では,このような状況のなかで,わが国の企業法務の歴史を振り返り,各業界法務の指導的なOB,現役のエキスパートの方々に,節目となる時代の経済・社会状況の中で,各法務部門がどのような問題を克服し,発展し,その役割と存在感を確立してきたのかを,できる限り事例を通じて述べていただく予定である。第2回は,金融機関における法務セクションの歴史を解説する。
「個人情報保護法」世界の最新動向
第11回 インド
石川智也/村田知信/田代夕貴
本連載では、東南アジア各国の贈収賄法制度・執行実務・近時の傾向および留意点とともに、贈収賄対応におけるポイントを、現地の経験・知見をもとに解説する。第11回は,インドの個人情報保護法制について解説する。
株主・株式からみた中小企業M&Aの実務
第9回 株主の高齢化の問題
下宮麻子
中小企業M&Aの大半は後継者問題に起因する「事業承継型M&A」である。背景にあるのは日本社会の現代的課題である少子高齢化問題であり、国策と合致することから大変な盛り上がりをみせている分野である。第9回は,株主の高齢化の問題について解説する。
証拠からみる独禁法違反認定の鍵
第12回 JASRAC事件
向 宣明
本連載は、独占禁止法違反を疑われる行為の当時の文書が、証拠としてどのように評価されることになるのか、実例をふまえた検討を行うことで、同種事案への対処についての示唆本連載は、独占禁止法違反を疑われる行為の当時の文書が、証拠としてどのように評価されることになるのか、実例をふまえた検討を行うことで、同種事案への対処についての示唆を得ようとするものである。私的独占に関する事例であるJASRAC事件を取り上げる。