文意推測の限界,冠詞等の把握,英米法への理解
総論 翻訳にあたり押さえるべきポイントと上達のヒント
寺村 淳
国際化するビジネスにおいて,契約書をはじめとした外国企業とのやりとりや裁判手続等で使用される言語は,英語が標準的なものとなっている。また,各国の法律やウェブサイトの表記も現地語に加え英語版が掲載されていることが普通になっている。したがって,現在の法務部門においては,非常に多くの英文に接しそれに対処していく必要がある。本稿は,そんな法務部門の「法務翻訳(英文和訳)」業務に関し,筆者の経験から特に留意すべきと思われる点を述べたものである。
用語・表現・文章・条項のグロッサリー付き
文書別・法務翻訳の基本ルール
山本志織
法務翻訳について上達する早道は,文書別に法務翻訳の基本ルールを会得するとともに,翻訳しながら,自分の知識やノウハウの詰まった,用語・表現・文章・条項のグロッサリーを作成し,更新していくことである。本稿では,文書別の法務翻訳の基本ルールとして,契約書と代表的な社内文書に関する翻訳上の留意点について述べるとともに,筆者が実際にさまざまな法律文書を翻訳しながら,ポイントとなると考えた内容をまとめたグロッサリーを提供する。
「ありがちな訳」,「工夫した訳」の対比で考える
例題で実践!法務翻訳上達のための6カ条
田口 亮
法務翻訳のなかで一番需要が高い英文契約書を取り上げる。英文契約書の実務や翻訳をテーマにした指南書には典型的な条項例が豊富に紹介されている。しかしビジネスで実際に交わされる英文契約書は,より長文,複雑で癖のあるものが多い。本稿では筆者が実際に扱ったり目にした英文契約書や翻訳を基に例題を作成し,法務翻訳上達のための解説を加える。
準備・レビュー段階で人の手による一工夫を
「機械翻訳」使用上の留意点
門永真紀
2010年代以降,人工知能(AI)のディープラーニングを用いたニューラル機械翻訳の発展により,機械翻訳の精度は飛躍的に向上してきた。近年ではGoogle翻訳やDeepL翻訳といった汎用性の高い翻訳サービスに加え,法務分野に特化した翻訳エンジンを提供するサービスも企業の法務部門や法律事務所で広く利用されるようになってきている。筆者が所属するアンダーソン・毛利・友常法律事務所では,株式会社みらい翻訳による法務専用の機械翻訳エンジン開発に協力しており,同社から,2019年8月には法務専用モデルの日英翻訳エンジンが,2020年7月には法務専用モデルの日中翻訳エンジンがそれぞれリリースされている。
column 工数削減!無料の翻訳アプリケーション活用術
落合由佳
column 英語が得意でない人のための法務翻訳サバイバル術
天野憩輔
column 法的概念の違いを常に意識しよう
本多理香
column 翻訳スキル向上のためのおすすめ英文書籍4選
流通業大手 法務部員
column 情報収集の徹底,My 用語リスト作成の手法
エンターテインメント企業 法務部員
column "手戻り"をなくすためにまず確認すべきこと
竹井大輔
column 翻訳しにくい日本語契約書への対処法
小林 剛
第1章 経済的・社会的背景から今後の意義を問う
成果主義人事・賃金制度の全体像
榎本英紀
本特集の主要なテーマは成果主義制度の導入に伴う法律実務の確立であるが,企業実務において,成果主義制度の導入として極めて広範な制度変更を対象とすることが想定される。成果主義制度を定義することによって初めて,本特集のテーマに即した制度変更を遍く,本特集の検討対象に取り込むことができるのである。
第2章 不利益変更への該当性と有効性
成果主義制度導入が争われた裁判例の検討
吉永大樹
成果主義制度の導入は就業規則の変更によって行われることが通常であり,この変更はほぼ例外なく不利益変更に該当する。就業規則の不利益変更の有効性判断においては,さまざまな考慮要素が総合的に考慮されるため,結果の予測可能性は低いと言わざるを得ないが,過去の裁判例から考慮要素を抽出して整理・検討することが有益である。本章では,裁判例を概観して考慮要素を整理したうえ,各考慮要素につき検討を行う。
第3章 現在の制度検証から労働組合との交渉まで
制度変更時のプロセスに即した実務課題と紛争予防の視点
中川洋子
本章では,既存の人事・賃金制度を(新しい)成果主義制度に変更するにあたっての留意点について,実際に制度変更を行う際のプロセスを考慮しつつ,検証する。
第4章 今後の雇用契約のあり方を見据えて
移行後の制度運用で留意すべき「実体的公平」の内容と手続的担保
髙津陽介
成果主義制度の運用においては公正さが何よりも重要になる。しかし,公正さの確保は容易でなく,実体的に正しい評価を可能とするための手段をあらかじめ制度に組み込んでおくべきであり,正しい手続を踏んでこそ初めて正しい評価が可能になると考えるべきである。本章ではその注意点を整理し,今後の雇用契約について展望する。
新型コロナを受けた「会議体」の課題
――総会IT化をめぐる世界・日本の動向
北村雅史
コロナ禍で世界的に関心を集めたバーチャル株主総会について,欧米諸国における会社法制の状況とコロナ禍のもとで開催される株主総会のための規制緩和措置について紹介し,わが国への示唆を得るとともに,コロナ後のバーチャル株主総会に係る規制の方向性について検討する。
総会IT化を可能とするシステム・技術への理解
官澤康平
総会IT化の1つとして,バーチャル株主総会が注目を集めている。バーチャル株主総会の実現にはシステムの理解が重要であるが,本稿では,バーチャル株主総会のシステムを検討する際の視点をふまえて,現在使用できるシステムを紹介する。また,主として非上場会社向けのシステムであるが,総会IT化の別の例である株主総会のクラウド化に関するシステムも紹介する。
2020年6月総会におけるバーチャル株主総会の実施状況
――「参加型」の視聴者属性分析を中心に
三菱UFJ信託銀行株式会社 法人コンサルティング部 株主戦略コンサルティング室 コンサルティンググループ
新型コロナウイルス感染拡大の影響等を受け,株主総会をインターネット配信するバーチャル株主総会は昨年度比較で大きく増加した。本稿では2020年6月総会の実施状況と実施するにあたっての実務論点,視聴率や視聴した株主の属性等,発行会社の関心が高い内容を参考情報としてまとめている。
座談会 本年の実務と残された課題
ハイブリッド"出席型"バーチャル株主総会を検討する
田中 亘・佐久間大輔・赤松 理・岩本忠史・仲摩篤史・日高直樹・近澤 諒
本年は新型コロナウイルスの影響により,株主への非常に強い来場自粛要請や入場制限,役員のバーチャル参加といった対応をとりつつハイブリッド出席型を実施した企業もあり,事実上の「バーチャルオンリー型」に近い類型もみられました。政府・未来投資会議の「成長戦略フォローアップ案」では「バーチャルオンリー型株主総会を含む株主総会プロセスにおける電子的手段の更なる活用の在り方......について検討を行」うとの方向性が示されているところでもあり,本日は,バーチャルオンリー型も見据えた議論もできればと思います。
コロナを乗り越えるための「事業再生」2つのかたち
中西 正
新型コロナウイルス感染症問題は,突然の需要喪失を生ぜしめた。そうすると,企業は,収益を失い,資金繰りが悪化すれば,デフォルト不可避となる。このような会社を救うため,考えられるのは,デフォルトする前に,民事再生を申し立て,約3カ月ほどの間にスポンサーを探すことである。
インシデントへの迅速な対応を可能にする
企業における「デジタル・フォレンジック人材」育成の必要性
安冨 潔
2020年1月28日に国内で初めてコロナウイルス感染症が確認され,その後急速に全国に拡大し,いまだ終息するにはいたっていない。このような状況にあって企業の勤務形態もいわゆるテレワークが導入されて社会環境も変化してきている。テレワークの活用は企業にとってメリットもあるが,テレワーク環境におけるインシデント対応として機能するデジタル・フォレンジックの効果的な利用も検討されなければならない。
「事業再編実務指針」の概要と実務への影響
──事業ポートフォリオの自主的な検証を
石綿 学
2020年7月31日,経済産業省は,「事業再編実務指針〜事業ポートフォリオと組織の変革に向けて〜(事業再編ガイドライン)」を公表した。本稿では,本指針の概要について紹介するとともに,実務への影響について述べる。
法務部員が調査・検討すべきポイントは?
各国法令・裁判例における「電子契約」の位置づけと取扱い
佐藤貴裕
新型コロナウイルス感染症の拡大による在宅勤務の増加等に伴い,契約締結業務の見直しが行われているなか,電子署名サービスを利用して電子契約を締結する方式へ移行する流れが諸外国においても進んでいる。そこで,本稿では,外国が関連する取引等において電子契約を締結する際に把握しておくべき,欧米を中心とした諸外国の法令や裁判例における電子契約の位置づけや取扱いについて説明し,注意すべきポイントについて解説する。
スタートアップとの協業において大企業が意識すべきこと
経産省「モデル契約書ver1.0」の全体像・重要条項の要点解説
井上 拓
経産省(特許庁)が2020年6月に公開した「モデル契約書 ver1.0」のうち,特に重要と思われる条項(PoC貧乏問題の防止,共同研究開発契約の費用,知的財産の帰属,および,情報のコンタミ防止に関する条項)について,解説する。
休暇,時差出勤,テレワーク等の待遇差はどうなる?
同一労働同一賃金の視点からみた新型コロナ労務
大庭浩一郎・若林 功
各企業において新型コロナウイルス感染症への各種対策が講じられるなか,同一労働同一賃金に関する働き方改革関連法が本年4月より施行されている(中小企業を除く)。そこで,本稿では新型コロナウイルス感染症への対策を同一労働同一賃金の視点で論じることとしたい。
3つの実例にみる活用成果・具体的折衝プロセス
「グレーゾーン解消制度」における弁護士等のサポート
白石紘一
本稿では,グレーゾーン解消制度の内容や利用方法,その有用性等に加え,弁護士や法務部門によってどのようなサポートが可能かについて解説する。
親事業者が今社内周知すべき8つのポイント
新型コロナ下における下請法対応・法執行動向の予測
小田勇一
経済産業省は,2020年2月14日および3月10日,同感染症に伴う下請等中小企業への悪影響を防ぐため,親事業者に対し下請等中小企業との取引への配慮を要請し,また,公正取引委員会および中小企業庁は同年5月13日に「新型コロナウイルス感染症拡大に関連する下請取引Q&A」を公表し,同感染症の拡大により影響を受ける下請等中小企業との取引に関し,下請法上の考え方等を示した。
新型コロナ下の特許開放と利用・登録上の留意点
高瀬亜富・丸山真幸
去る2020年4月3日,新型コロナウイルス対策の技術を開発する企業や研究機関に対する特許等の開放を呼びかけるプロジェクト「知的財産に関する新型コロナウイルス感染症対策支援宣言」が発足した。本稿では,本宣言の内容および利用上の留意点を解説しつつ,特許開放の有効な活用方法について若干の検討を加えることとしたい。
選択的指定義務,違反者の公表制度,通信の秘密の保護と域外適用
改正電気通信事業法の概要と今後の課題
渡部友一郎
本稿は,2020年改正電気通信事業法の「外国法人への域外適用」について改正の最重要ポイントをコンパクトに解説する。読了により,①外国電気通信事業者の国内代表者・代理人の選択的指定義務,②新しい公表制度の整備,および③外国事業者への通信の秘密の域外適用の議論を把握できる。
近時における処罰事例・改正指針をもとに検討する
中国独占禁止法における規制厳格化の動向
劉 新宇
近時,中国では独禁法改正に向けた動きが急速に進んでいる。改正におけるいくつかの要点のうち,中国で事業を展開する日系企業の関心事は「規制の厳格化」にあるものと思われる。そこで,本稿では,その概要を紹介するとともに,2020年上半期の中国における代表的な独禁法処罰事案を例に検討し,同法の近時の運用動向について論ずるものとしたい。
積極化する経済分析の活用
令和元年度主要企業結合事例にみる公取委の判断基準と審査内容
石垣浩晶
令和2年7月22日,公正取引委員会は,「令和元年度における主要な企業結合事例について」を発表した。令和元年度の届出数は,ほぼ例年どおり310件であるが,第二次審査へと移行したものは1件に過ぎず,比較的軽微な事案が多かったようにみえる。他方,第一次審査前に取り下げがあった事案は9件で,過去2年間よりはやや多く,第一次審査の段階において明らかになった規制リスクを嫌って取り下げられた事案は多かった可能性もある。
不祥事発生時の初動調査・社内調査の重要性と実務課題(下)
竹内 朗・上谷佳宏・木曽 裕・小野上陽子・中野竹司・向 宣明・中村規代実
本稿は,日本CSR普及協会が2019年12月4日に開催した「不祥事発生時の初動調査・社内調査~不祥事対応の出発点,うまく機能させるには?」と題する内部統制研修セミナーの内容をベースに(上)(下)にわたり登壇者が書き下ろしたものです。前半の基調講演(前号掲載)では,初動調査・社内調査の重要性や基本事項を確認し,後半のパネルディスカッション(前号,今号掲載)では,実務において生じる諸論点や失敗例を交えて解説します。
LEGALHEADLINES
森・濱田松本法律事務所編
2020年8月~9月の法務関連ニュースをお届け!
株主・株式からみた中小企業M&A の実務
第7回 従業員持株会の問題
松岡 寛・辛嶋如子
中小企業M&Aの大半は後継者問題に起因する「事業承継型M&A」である。背景にあるのは日本社会の現代的課題である少子高齢化問題であり、国策と合致することから大変な盛り上がりをみせている分野である。第7回は,従業員持株会という会社の従業員が参加する団体に会社の発行済株式を取得・保有させる制度について解説する。
東南アジアの贈収賄規制・執行の最新事情
第4回 ベトナムの贈収賄――社内リソース・社外専門家の使い分けが肝要
大塚周平・Le Quynh Nhi/Logan Leong
本連載は,東南アジア各国の贈収賄法制度・執行実務・近時の傾向および留意点とともに,アジアにおける贈収賄対応におけるポイントを,現地の経験・知見をもとに皆様にお届けすることを目的としている。第4回は,ベトナムの贈収賄について解説し,有事の際の調査対応のポイントについても述べる。
米国ジョイントベンチャーの最新実務
最終回 JVの終了等に関する条項
竹内信紀・田中健太郎・松永耕明
本連載は,米国にて,米国の州法を準拠法として組成されたジョイントベンチャーについて,公開情報をもとに,米国JVの実例や件数,その一般的なスキーム等を検討し(第1回ないし第3回),英文のJV契約のサンプル条項を明示しながら,米国JVに係る検討事項および問題点を紐解く(第4回以降)連載である。最終回である本稿では,前回に引き続きいわゆるプットオプション(Put Option)・コールオプション(Call Option)に係る条項と,米国JVの終了に関する条項を中心に論ずる。
画像比較ですっきり理解!「知財侵害」回避のための着眼力
第3回 商標制度の概観と類否判断の考え方
中村洸介
企業が事業活動を進めるうえでは各種知財の見えないハードルが立ちはだかる。本連載では,普段知財に馴染みのない方にもこのハードルが見えるよう,画像比較を用いて説明する。第3回は,商標制度の概観と類否判断の考え方を説明し,その後,商標に関する一連の事件をもとに,類似とされた例と,非類似とされた例を紹介し,実務上の留意点について説明する。
「個人情報保護法」世界の最新動向
第10回 ブラジル──GDPR類似の新法令が9月18日より施行
石川智也・津田麻紀子
近時、各国の個人情報保護法制の厳格化・執行強化の動きが指摘され、グローバルでのデータプライバシー・コンプライアンス体制の構築を重要課題として掲げる日本企業が増えてきている。本連載では、その構築のための基礎知識と、日本企業が特に関心を有している法域における個人情報保護法制の概要について紹介する。第10回は,ブラジルの個人情報保護法について解説する。