導入有無が法務部の実力を左右する
国内外における「契約実務×リーガルテック」の最新動向
高林 淳
リーガルテックは,法務業務の効率化と品質の向上をもたらす。本稿では先行する海外の製品を含めた契約にまつわるリーガルテックを紹介しつつ,それがどのように効率化と品質向上に資するのか考えたい。
新型コロナ下における弁護士業務の基盤整備を
長島・大野・常松法律事務所の「リーガルテック・プロジェクト」
杉本文秀
長島・大野・常松法律事務所では,2年ほど前から「リーガルテック・プロジェクト」を立ち上げ,さまざまなリーガルテック・プロダクトを検討し,業務の効率化を目指している。そのなかでも,高度な自然言語処理技術を有するMNTSQ社と協働し,これまでにないリーガルテック・プロダクトに挑戦している。
AIは弁護士になれるか?
リーガルテックと弁護士法72条をめぐる考察
石田京子
AIは,弁護士になれるのだろうか。もしもなれるとしたら,そのことは,現行の法律事務に関する規制との関係で,どのような問題があるだろうか。本稿では,弁護士法72条に関するこれまでの議論を簡単に紹介したうえで,リーガルテックとの関係で問題となり得る場面について検討を試みる。
太陽誘電株式会社
導入の前提は法務部の「経営」という視点
――契約審査プロセスの「見える化」で案件処理・部員評価を最適化
佐々木毅尚
近年,事業スピードが高速化する一方で,案件内容は高度化・専門化している。法務部門のマネジメント責任者は,事業スピードに追随し,トレードオフの関係にある法務サービス品質とのバランスを調整する必要がある。
三井不動産株式会社
自社にあわせた用法の検討・アレンジが必要
──テクノロジー・サービス進化へのさらなる期待
望月治彦
大企業がリーガルテックを導入するためには,事業担当者と法務担当者との役割分担,意思決定システムの現状を前提とせざるを得ない。契約レビューサービスとワークフローシステムを導入してみて,うまくいった点とうまくいかなかった点,サービスに期待する点を述べる。
日本たばこ産業株式会社
法務レビュー記録の一元管理でノウハウ属人化を防止
──ベンダーへの積極アプローチで情報収集
太田皓士・稲垣諒次
日本たばこ産業株式会社では,業務の効率化などを目的としてリーガルテックを積極的に導入している。本稿では,①契約書レビュー支援ソフトウェアと②法務レビューシステムの2つについて,導入に至る経緯や導入による効果などについて,当社の実例を紹介する。
株式会社ニトリホールディングス
新人教育の省力化・効率化にも活用
──翻訳・契約審査・契約書管理ツールの導入効果と課題
鈴木剛大
当社では,業務の効率化のため,AIによる翻訳,AIによる契約書の審査,契約書の管理システムを導入している。3つのツールについて,導入のきっかけやプロセス,当社として考える今後の課題等について紹介する。
京王電鉄株式会社
テクノロジー導入と法務部・担当者の契約実務への関わり方
──AIを使いこなすには?
三木翔太
業務効率化が求められるなか,当社では,2019年にAIによる契約書審査サービスを導入した。導入に際して当社が検討したこと,導入後の効果,今後の活用方法への期待,AIを活用する際の留意点等について,当社の実例を紹介する。
コロナ・ショックが労働市場に与える影響と
企業が採り得る雇用調整・人員整理の全体像
藤原宇基
新型コロナウイルス感染症の影響により人員整理を含めた雇用調整を行わざるを得ない企業が生じている状況を説明し,雇用調整の方法の全体像と新型コロナウイルス影響下での留意点について解説する。
配転・出向・転籍
――該当者への丁寧な説明の徹底
中山達夫
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い,多くの労働者が在宅勤務を行うなど労働環境が一変するとともに,経営環境も大きく変化している。このようななかで,経営戦略として,また,感染防止・雇用確保という観点からも,企業内および企業外を含めて人材を適正に配置することの重要性が高まっている。
希望退職・早期退職・退職勧奨
――自社の現状・人員整理後の将来像の説得的な提示が鍵
木村貴弘
新型コロナウイルス感染拡大に起因する業績の悪化により,希望退職等を実施する企業が増えると予想されている。本稿では,希望退職・早期退職・退職勧奨による人員整理・削減を成功に導くため,それぞれの実施方法と実施にあたっての注意点について解説する。
雇止め
――「不更新合意」の効力をめぐる近時判例の考え方
石井拓士
有期雇用の労働者の人員整理の手段としては,契約期間中の合意解約(希望退職募集等),使用者による一方的解約(解雇)のほか,期間満了時に,更新せずに雇用終了とする「雇止め」があり,労働契約法19条には「雇止め法理」が定められている。
整理解雇
――コロナ下での「4要素」充足のための留意点
荒川正嗣
本稿は,整理解雇の有効性判断で考慮される4点について,裁判例等をふまえ,基本的考え方を示しつつ,特に新型コロナ禍による倒産危機や高度の経営危機を回避するために整理解雇を行う場合を念頭とした留意点を紹介する。
総論 コロナ下の業績悪化に弁護士はどう関わるか
経営者への適確な情報提供と助言の方法
富永浩明
新型コロナウイルス感染拡大の影響で,急激な業績の悪化,急激な資金繰りの悪化により,企業の継続について大きな問題に直面している企業も少なくないと思われる。そのため,弁護士も企業の経営者から,事業の継続・倒産回避について相談を受け,助言を求められることが増加すると予想される。富永浩明
コロナ下における政府の各種支援制度と申請方法
山宮慎一郎
企業や個人も日々の経営や生活の維持のための政府の支援を期待しており,政府は,各種施策を講じてきている。まずは全体像を掴んだうえで,具体的な制度利用に際して,運用主体のウェブサイトにアプローチすることをお勧めする。
まずは資金繰り表,支払猶予等の助言から
資金繰り維持の方策と新規融資を受ける場合の留意点
宮原一東
新型コロナウイルス感染症の蔓延により,さまざまな業種の事業者の売上げが減少し,資金繰りが厳しくなっている。本稿では,第1に,資金繰り維持のために必要な資金繰りの改善施策,第2に,経営状況の芳しくない事業者が新規融資を受けるポイントおよび留意点,第3に,資金繰り維持が難しく,事業売却等を検討する際の対応策について触れる。
倒産回避事例①
コロナ融資,特例リスケジュール成立で資金繰り確保
山形康郎・佐藤 潤
金融機関に対する元本返済を数年間停止し,東京都中小企業再生支援協議会の支援を受けてスポンサー型の再生計画案を立案する方針であった会社が,新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて資金繰りが悪化した。そのため,協議会の関与のもと,取引金融機関から新型コロナウイルス感染症特別貸付やセーフティネット保証付の貸付を受け,特例リスケを成立させることにより資金ショートを回避した事案を紹介する。
倒産回避事例②
賃料減額・猶予への法的アドバイスにより倒産回避を
尾田知亜記
新型コロナウイルス感染症の影響により,さまざまな業種の事業者の売上げが急激に減少している。売上げがなくとも,従業員の給料,店舗や事務所の賃料等いわゆる「固定経費」の支払は必要になるが,入金がないのであれば,再び入金が戻ってくるまでの間,資金繰りを維持するために資金調達をし,支出を抑制する必要がある。本稿では,当職が実際に取り扱った顧問先の事例をもとに弁護士ができる事業継続のアドバイスについて詳述する。
座談会 経営者・法務アドバイザー・FAが語る
本邦初! 産業競争力強化法を用いた株式対価M&A(上)
望月俊男・木下万暁・宮下和昌
本座談会では,データセクション株式会社が,2019年12月にクロージングを迎えた,チリの画像解析AI企業であるJach Technology SpAとの資本提携において用いた"クロスボーダー型の株式対価M&Aスキーム"をテーマとして意見交換を行います。本件は,株式対価M&Aとして日本初の産業競争力強化法の認定ケースとして注目に値します。
「新たな中世」の到来か?
政教分離原則から考えるプラットフォーム規制のあり方
曽我部真裕
ここ数年,デジタルプラットフォームの規律のあり方が政府内外で議論され,今年の通常国会ではその成果ともいえる法律が続々と成立した(デジタルPF取引透明化法,改正電気通信事業法,改正個人情報保護法)。PFの規律のあり方は,個人の自由や国家の役割に関する重要な論点を含む点で,憲法学の関心対象となる問題である。
民主党案・共和党案を比較
米国包括的個人情報保護法制定の動向
Scott W. Pink・座波優子
米国は国家レベルの包括的個人情報保護法を有しない数少ない国の1つであり,一定分野を除いて,データ・プライバシーに関する規制は各州法に委ねられている。本稿では,包括的連邦個人情報保護法の成立を阻む事情を概観するとともに,注目すべき法案を紹介し,連邦法成立に備えて持つべき心構えを解説する。
アメリカ企業法務における
「リーガル・オペレーションズ」発展の歴史と現状
ダニエル・H・フット
20世紀末葉の「企業法務革命」以降,アメリカ企業法務部の規模がさらに大きくなり,また役割もさらに増えた。テクノロジーの発展により,従来の社外弁護士と企業内弁護士の他に,さまざまな法務関連サービスのプロバイダーが使えるようになった。こうした動向の結果として,法務部業務の運営はさらに複雑になった。本稿では,アメリカ企業法務の変遷を紹介しながら,業務の効率的・効果的な運営を図るため登場したLegal Operationsを検討する。
クッキーの利用に関する各国・地域の法的規制(下)
石井夏生利
クッキーは,利用者の認識がないままにオンライン上の閲覧履歴等の情報を収集できることから,プライバシー侵害をもたらし得る。現在,日本にはクッキーの利用を直接に規制する法制度は存在しないが,技術的な追跡手段に対する法的対応のあり方を考えるうえで,他の国・地域の議論を整理することは有用である。本稿では,前回(欧州,米国)に引き続き,中国と東南アジアについて検討する。
賃金に基づく極度額決定の考え方
様式例付 民法改正後の個人根保証制度下での身元保証契約・損害担保契約の実務
金井高志・藤井直芳・栁澤俊貴
2020年4月1日より改正民法が施行され,保証人保護の観点から保証制度が大幅に変わった。その結果,新たな保証制度への対応を間違えれば,保証契約が無効になるなどの大きな影響が生じるおそれがある。この影響は,頻繁に使われている身元保証契約に対しても例外ではなく,身元保証書等の修正が必要になっている。そこで,本稿は,身元保証契約に関する基本的内容,改正民法の身元保証への影響および身元保証書等の修正方法を解説する。
税制優遇措置拡大で有用人材登用のメリットも
ストック・オプションを社外専門家に付与する際の留意点
大石篤史・緒方 航
従来,税制上の優遇措置が適用されるストック・オプション(いわゆる税制適格ストック・オプション)は,発行会社およびその子会社の取締役,執行役および使用人にしか発行することができなかったが,今般,一定の要件を満たした場合に,社外の専門家等に対しても税制適格ストック・オプションを発行することが可能となった。本稿では,かかる新制度を利用する際のポイントを解説する。
海外事例にみる日本企業への影響
SDGs・ESG情報開示にかかる法的責任とリスクコントロールの視点
北島隆次
SDGsやESG投資の社会的関心の高まりを受け,これらの情報を積極的に開示する企業が増えている。一方,SDGs・ESG情報に瑕疵があった場合のリスクについては議論が成熟しておらず,近時ESG情報で企業が提訴される事件も海外で発生している。そこで,本稿では同事件を紹介しながら,SDGs・ESG分野におけるリーガルの役割について検討する。
米国におけるサイバーセキュリティ法制と訴訟リスクの検討(下)
馬場厚史・山岡裕明
本稿では,米国での企業活動に際して留意すべきサイバーセキュリティの規制・基準・訴訟類型について2回にわたり概括的に紹介する。下回では,企業のサイバーセキュリティに大きな影響を及ぼす自主基準,企業活動に際して直面し得る訴訟類型を取り上げる。
差止めの範囲・損害額の算定方法
マリカー事件知財高裁終局判決の概要と実務への影響
新間祐一郎・千葉健太郎
本判決は,いわゆるマリカー事件の控訴審の終局判決である。中間判決により,「マリカー」およびコスチューム等の標章を用いた公道カートのレンタル事業等の不正競争行為該当性および一審被告の代表者の損害賠償責任が認められた。中間判決を受け,差止めの範囲および「マリカー」表示やコスチューム等の使用による損害額に注目が集まったが,本判決では,一審原告が実質的に全面的に勝訴した。
LEGAL HEADLINES
森・濱田松本法律事務所編
画像比較ですっきり理解!「知財侵害」回避のための着眼力
第2回 応用美術の著作物性
藤田知美
企業活動には,さまざまな知財侵害のリスクが潜んでいる。製品開発における特許権,工業デザインにおける意匠権,ブランディングにおける商標権,販促資料の作成やソフトウェア開発における著作権など,企業が事業活動を一歩進めるたび,各種知財の見えないハードルを越える必要がある。第2回は,工業製品に関する著作権侵害の考え方について,近時知財高裁が示した2つの判断基準を紹介し,実務上の留意点について説明する。
最新判例アンテナ
第29回 債権執行における差押えによる請求債権の消滅時効の中断の効力が生ずるためには,その債務者が当該差押えを了知し得る状態に置かれることを要しないとされた事例
三笘 裕・石本晃一
今回は,X(原告・被控訴人・被上告人)が,Y(被告・控訴人・上告人)のXに対する貸金返還請求権の時効消滅を主張して,本件貸金債権に係る金銭消費貸借契約公正証書の執行力の排除を求めた請求異議訴訟を紹介する。
世界の法律実務・遊歩録
第11回 ココリコ!
ポーリン・フリシュ
「世界の法律実務・遊歩録」では、国際法律事務所のさまざまなオフィスで活躍するロイヤーが、世界のおもしろい・びっくり・どっきりな法律実務やエピソードを紹介していきます。第11回目は,フランスで雄鶏の鳴き声が引き起こした事件についてご紹介します。
ストーリーでわかる 訴訟手続の基本(刑事編)
第5回 公判手続②
沖田美恵子・本多茂雄
本連載では、民事・刑事訴訟の全体像について読者の概括的理解に資するべく、ある具体的なストーリーを設定し、その進展を追う形で、各局面における訴訟手続の概要や実務的な留意点を解説する。連載期間は約1年を予定しており、前半が民事訴訟編、後半が刑事訴訟編となる。刑事編第5回では、前回に引き続き公判手続について解説する。
対話で学ぶ 法務対応の勘所
第11回 合弁契約と関係会社管理
朝倉 亮
大学卒業後、総合商社の法務部に配属された新人Aは、法律事務所での勤務経験がある社内弁護士Bが率いるチームに所属し、さまざまな案件を担当することになった。第11回は、JV設立上の問題について検討する。
知って、活用! 国際仲裁・国際調停
第6回 国際調停の特徴と最新動向
岡田春夫
第1回から第5回まで,仲裁機関や仲裁条項,国際仲裁の手続の流れに沿った実務上の留意事項について述べてきた。裁判と比較した仲裁のメリットは大きく,仲裁は国際商事紛争解決手続の主流であるが,近時,「仲裁の裁判化等」といった問題点も指摘されている。このような「仲裁の裁判化等」をふまえて,本稿では,仲裁を補うものとして最近世界的に脚光を浴びるようになってきたのが国際調停について解説する。
法とことばの近代史
第3回〈権利〉 その1
山口亮介
本連載では、法に関するさまざまな言葉の来歴について、江戸期をはじめとする前近代から明治初期にかけてのさまざまな情報や史料などを手がかりにしながら解説する。第3回は漢語を通じた西洋法概念の参照から始まった〈権利〉ということばが法実務や法学上の用法をこえて一般用語としての地位を獲得していく過程で,このことばにいかなる意味合いが込められているのかに特に注目していきます。
株主・株式からみた中小企業M&Aの実務
第5回 株券紛失への対応
横井 伸
中小企業M&Aの大半は後継者問題に起因する「事業承継型M&A」である。背景にあるのは日本社会の現代的課題である少子高齢化問題であり、国策と合致することから大変な盛り上がりをみせている分野である。第5回では、株券を紛失した場合の実務上の対応方法について解説する。
証拠からみる 独禁法違反認定の鍵
第9回 着うた事件
向 宣明
本連載は、独占禁止法違反を疑われる行為の当時の文書が、証拠としてどのように評価されることになるのか、実例をふまえた検討を行うことで、同種事案への対処についての示唆を得ようとするものである。第9回は、不公正な取引方法(共同の取引拒絶)に関する事例である着うた事件を取り上げる。