企業・株主に求められる対話のための情報提供
2018年株主総会の振返りと2019年の検討
永池正孝
株式会社を取り巻く環境は、「会社は誰のものか」との視点から「会社は誰のためにあるのか」に進化して久しい。2015年に導入されたコーポレートガバナンス・コード(以下 「CGC」という)では、株主をはじめステークホルダーとの適切な協働の重要性が示され、さらに、昨今のグローバルな社会経済情勢をふまえた、いわゆる"非財務情報"の開示の必要性に鑑みたCGCの改訂が行われる等、"攻めのガバナンス"を後押しする動きは枚挙に暇がない。しかし、CGCが"プリンシプルベース・アプローチ"を採用している点をみても、ガバナンスに係る考え方は各社の置かれた状況により千差万別であり、一様の解はない。自社の考え方をステークホルダーの誰に目線を向け、どのようなツールで、どのような内容で伝えていくのかを考えた場合、株主総会とその周辺での対応は有力なツールとなり得る。
座談会 本音を語る
総会担当者と機関投資家の対話
鎌田博光・逆瀬川美佳・須藤哲也・銭谷美幸・中西和幸・下山祐樹
皆様、本日はお集まりいただきましてありがとうございます。本日の座談会の司会は私、三菱UFJ信託銀行の下山が務めさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。それでは、早速、座談会に入らせていただきますが、本日の座談会のテーマは、株主総会資料作成者と投資家の対話にありますので、皆様それぞれのお立場で、ざっくばらんに、日頃思われていることや、お相手に対するご意見、ご要望などについてお話いただけると幸いです。
上場会社や機関投資家の関心事をピックアップ
議決権行使基準の比較と分析
塚本英巨
日本版スチュワードシップ・コードが、機関投資家に対し、株主総会における議決権行使の結果の個別開示を求めるよう改訂されてから3回目の株主総会を迎える。機関投資家は、議決権行使の基準をより具体的にし、かつ、徐々に厳しい内容に改めている。他方で、その基準の内容は、議案によって、機関投資家ごとにまちまちである。上場会社においては、自社に投資する個々の機関投資家の基準を把握したうえで、個別の対話を適切に行うとともに、株主総会の議案の内容を設定することが求められる。
2019年株主総会想定問答
髙木弘明・山田慎吾・野澤大和・清水誠・森田多恵子
資本コストの把握:改訂されたコーポレートガバナンス・コードにおいては、新たに、資本コストの的確な把握ということがいわれているが、当社の取締役会としては、当社の資本コストをどのように把握・理解しているか教えてほしい。また、当社は、その資本コストを経営判断にどのように反映しているか教えてほしい。
わが社の総会活性化策・準備対応
グリー株式会社
電子化への試み・イベントノウハウを生かしたIT総会の進化
松村真弓
上場会社の株主総会を取り巻く環境は大きく変わりつつある。各社の状況も異なり、株主総会のあり方はますます多様化するだろう。実務はどのようにアップデートされるのか。グリー株主総会の数年間を振り返りながら、今後について考えてみたい。
わが社の総会活性化策・準備対応
ライフネット生命保険株式会社
日曜開催などリアルな交流を促進する
オンライン生保が取り組む「顔のみえる株主総会」運営の工夫
加藤あゆみ
ライフネット生命は、2008年5月に開業し、2012年3月に東証マザーズに上場した、インターネットを主な販売チャネルとする生命保険会社である。当社は、オンライン生保だからこそ、株主総会を株主のみなさまをはじめとするステークホルダーと直接お会いすることができる貴重な接点と位置づけている。「オープンな対話」「わかりやすさ」「公平性」「長期的視野」「挑戦」という当社のIR活動における5つの基軸を掲げたIRマニフェストに基づき、「顔のみえる株主総会」をテーマに運営している。
わが社の総会活性化策・準備対応
サイボウズ株式会社株主との関係性を変える
「ワクワクする総会」実現のための具体策
田中那奈・山羽智貴
株主総会について考えたときワクワクすることはあるだろうか。準備や当日の運営の大変さを思い浮かべてゲッソリする方も多いのではないだろうか。「チームワークあふれる社会を創る」「チームワークあふれる会社を創る」を企業理念に置く当社では、数年前から総会や株主との関係について模索し、試行錯誤している。自分たちの理想とする総会や株主との関係を実現するにはまだまだ道のりは長そうだが、それでも毎年少しずつ変化してきており、その変化に毎年ワクワクしながら進めている。
TPP11協定発効に伴う実務対応のポイント
─特恵関税で変わる契約実務を中心に
篠崎 歩
米国の離脱など、紆余曲折があったものの、TPP11協定という形で2018年12月30日をもって発効に至った。TPP11協定発効により、加盟国間における関税撤廃を中心として、さまざまな影響が想定されるが、企業法務の観点から対応・検討すべき事項も少なくない。本稿では、TPP11協定の特恵税率適用のプロセスを確認し、TPP11協定発効に伴う企業対応の実務ポイントについて、特に企業法務の観点から、短期および中長期的な対応をそれぞれ解説することにしたい。
デジタル課税、#MeToo運動の動向ほか
海外法務ニュース2019
石田雅彦
2012年から毎年海外法務ニュースについての分析を寄稿しているが、ボーダーレス経済の進展に伴う各種規制に加え、地政学的要因に基づくものや、♯MeToo運動のような社会的運動に基づくもの等、多様な背景に基づく立法、変化等が目に付くのが本年のニュースの特徴である。本稿は、海外事業を行う日本企業の視点から、地政学的動向、社会的トレンドもふまえ2019年に留意すべきポイントを示すものである。
Plain Englishによる英文雇用契約書作成のしかた(下)
倉田哲郎・キャロルローソン
本稿では前回に引き続き、雇用契約書を、労使のコミュニケーション手段と捉え、双方の権利義務を、plain(平易)な英語でわかりやすく表現する方法を、例文を用いて解説する。
スルガ銀行不正融資問題に係る第三者委員会報告書の分析と企業対応
寺田昌弘
2018年9月に公表されたスルガ銀行株式会社第三者委員会の調査報告書は、同行の不正融資問題の詳細(同行の企業風土の著しい劣化とガバナンス上の欠陥)を丹念に調べあげた力作である。だが同行は「本件の構図」を回避できなかったのかという疑問も残る。以下では、ガバナンス上の問題点に絞って同報告書の若干の分析を行い、報告書で明らかとなった事実等をふまえて他の企業は何を学べばよいかにつき、若干の検討を試みる。
米中対峙構造に備えた日本企業のリスク管理
伊藤嘉秀・田中健太郎
米国は第二次世界大戦後、市場経済原則に基づく貿易障壁の軽減および内外無差別を目指した多角的貿易体制を牽引してきたが、トランプ政権発足後は、自国最優先主義の主導役となりつつある。特に、中国の習主席が13億人という圧倒的な市場力を基盤に、国際政治・経済、軍事、科学・技術等あらゆる分野で指導的な役割を果たす方針を鮮明にし始めたことをふまえ、トランプ政権は、対中国戦略の一環として、貿易・投資等の経済分野でも、自国最優先主義を前面に出した対策を講じようとしている。「米中貿易戦争」は、米中が覇権を目指した対峙関係を強めるなかで、貿易面での対立が顕在化したもので、米中対峙により生じている広範囲な諸問題の氷山の一角に過ぎない。本稿では、トランプ政権が、特に貿易・投資面で米国のいかなる法令を駆使して中国に対抗しようとしているかにつき概説し、中国対策を念頭に成立した新法令によりさらに深刻化する可能性のある米中対立構造のなかで、日本企業およびその在米子会社等の日系企業の立場からいかなる対策を講じ得るかを検討する。
弥永真生
日産自動車株式会社をめぐるマスコミの報道では、有価証券報告書において、ゴーン氏の役員報酬が過少に計上されていたことが主要な問題の1つであるとされ、また、ゴーン氏の姉に対する財産上の利益供与があったともされている。そこで本稿では、これをヒントに、以下の【設例】により、金融商品取引法上の有価証券報告書虚偽記載罪との関係での問題点を考察する。
鮫島正洋
スタートアップとは、いわば会社の赤ちゃんである。赤ちゃんだから、周りの世話なくしては生きながら得ない。スタートアップに対する法律支援の根本はここにある。
佐藤 健
現在、いろいろなAI技術が法学分野に応用されている。たとえば、IBMWatson技術を使ったROSSIntelligence社の関連法律文書検索技術は、アメリカのパラリーガルに取って代わろうとしている。また、LawGeex社の契約文書条項レビューAIが弁護士の問題条項平均正答率を上回ったり、Case-Crunch社のCaseCruncherプログラムが、英国金融オンブズマンの保険支払クレームに対する承認予測平均正解率が弁護士のそれを上回ったりしている。したがって、一見すると、AIの法学への応用は大きな成功を収めつつあるようにみえる。
LEGALHEADLINES
森・濱田松本法律事務所
2018年11月〜12月
会社法改正後の株主総会電子提供制度への実務対応
第3回 Q13〜Q16
伊藤広樹・茂木美樹
Q13:会社が株主総会資料の電子提供制度を採用する場合、招集通知に法定記載事項以外の事項(任意的記載事項)を記載することや、他の資料を同封することは許されるのでしょうか。
いまさら聞けない登記実務の基本
第2回 不動産登記:アウトライン
鈴木龍介・吉田篤史
本連載の2回目は、不動産登記のアウトラインについてとり上げます。不動産登記は、売買に基づく所有権の移転登記や融資を受ける際の担保権の設定登記など具体的に登記を行う場面以外でも、与信管理など不動産に関する調査の観点でも重要です。
契約解除時の実務ポイント
最終回 各契約類型の解除その他終了時の留意点②
花野信子・佐藤敬太
連載の最終回となる本稿では、①業務委託契約、②知的財産権のライセンス契約および③販売代理店契約をとりあげる。
法務担当者のための非上場株式評価早わかり
第3回 DCF法を理解する(上)
明石正道・内村匡一
第1回および第2回の解説から、非上場株式の評価においてもDCF法が重要であることはご理解いただけただろう。しかしながら、DCF法による算定書には専門用語が多く並び、法務担当者の方にとっては難解に映る面があるのは否めない。第3回では、ファイナンスの知識に極力依存しない形で、DCF法に関する直観的、概括的な解説を試みる。
日本人に知ってほしいアメリカ紛争解決の現場感
最終回 デジタル社会における訴訟対応─アメリカの訴訟における頭痛のタネ"ディスカバリー"
奈良房永・合嶋比奈子
本連載は最終回を迎えるが、デジタル時代の今日、日米の訴訟の最大の相違点であるディスカバリー(証拠開示)が判例の影響を受けてどのように変遷してきたかを検討したい。第1回で説明したとおり、日米の訴訟システムの最も大きな違いが、ディスカバリー制度の有無であろう。ディスカバリーがない日本では、提訴前にある程度の情報を持っていないと訴訟提起すら難しい。他方アメリカでは、とりあえず訴えてディスカバリー請求をして情報を探り出すことができる。だから訴訟の数も増える。訴えられた側は、ディスカバリーに応じる義務があるので、何も悪いことをしていなくても費用をかけて対応せざるを得ない。まさに火のない所に煙が立ってしまうのである。
要件事実・事実認定論の根本的課題──その原点から将来まで
第20回 保証債務②─新民法(債権関係)における要件事実の若干の問題
伊藤滋夫