法務部へようこそ!
業務の全体像と法務部員の役割・心構え
伊藤雅史
新入法務部員となった読者の皆さん、ようこそ法務部へ!!皆さんの中には、社会人として初めて仕事に就く方や、あるいは今まで企業法務とはまったく異なる分野で働いてこられた方も多いであろう。本稿では、そんな皆さんに向けて、まずは企業法務の役割と、筆者がみずからの経験から感じた企業法務の魅力を紹介し、後半では皆さんが各社において法務機能をより一層発揮し、より興味を持って法務業務に取り組んで頂けるための、心構えや必要なマインドセットを紹介したい。
「何を」、「何のために」、「どのような視点で」
契約書チェック
柴田睦月
法務部の主な所掌業務の1つに、契約書のチェックがある。他部門の担当者から、「この契約書をご確認のうえ、コメントをいただきたく......」というメールが届くことでこの契約書チェック業務は始まる。あるいは、上司から、「この契約書のひな形を更新するから、とりあえず見ておいて」と言われるかもしれない。契約書のチェックは、決まった作業手順が存在するわけではないので、慣れるまでは、何をどのように直せばいいのか、どの程度まで細かく修正すればよいのか等、悩んでしまうことも多いのではないかと思う
会社を守るためのコンプライアンスの基本
江夏康晴
コンプライアンスとは一体何なのか。その目的は何なのか。そして、コンプライアンスを推進する立場としては、どのような心構えでいたらよいのか。新任法務部員に知っておいてもらいたいコンプライアンスの「総論」と、コンプライアンス体制の重要な構成要素である「コンプライアンス研修」「内部通報制度」の意義を、実務担当者の視点から論じる。
取引リスクの把握・分析
与信管理・債権回収
川本聖人
与信管理という用語は専門的でニッチな仕事を連想させるが、その内容としては、情報の集め方、財務分析、商流分析、契約法、債権保全、債権回収と幅広く、それぞれに高い専門性も求められる仕事である。あらゆるビジネスにおいて必要な取組みであり、企業を法律の観点から支える法務部員にとっても知っておくべき業務スキルといえる。本稿では、与信管理のプロセスを体系的に整理しながら、プロセスごとに実務において最低限必要と考えられるポイントを述べたい。
スケジュール調整、心理内容の分析
訴訟マネジメント
上野陽子
紛争解決の主要な手段である訴訟の手続は、複雑かつ難解であり、独自のルールや作法が存在する。したがって、これまで訴訟や裁判を映画やテレビでしか見たことのなかった方が、法務部で新たに訴訟業務に携わることとなった場合には、思ってもみなかったような事態に直面することも多いと思われる。他方、訴訟手続のマネジメントは、法務部の重要な業務の1つであり、また、日々直面する課題でもある。本稿では、新法務部員の方向けに、訴訟手続の概要と法務部の役割のポイントについて説明する。本稿で訴訟手続と法務部の役割についての大枠を頭の中に作った上で、今後の訴訟業務において、その枠の中に具体的な訴訟知識や訴訟実務を少しずつ取り込みながら理解を深めていって頂ければ幸いである。
必修分野① 改正民法
吉田瑞穂
民法(債権関係)の改正法(平成29年法律第44号)が、2020年4月1日に施行される。改正内容は、1現行のルールを変更して新たなルールを導入する項目と、2確立した判例や解釈論を明文化する項目の大きく2つに分けられる。実務対応としては、1については業務フローの見直し等の新規対応を行う必要がある一方、2については従来の契約実務の再点検が主となる。
必修分野② 会社法
伊豆明彦
本稿では、一般的な上場企業を念頭において、会社法、金融商品取引法および証券取引所規則などに関連して法務部員が最低限知っておくべきテーマについて簡単に説明する。
必修分野③ 労働法
冨田啓輔
まず、「労働法」という法律はない。労働基準法、労働契約法、労働安全衛生法、労働組合法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、職業安定法、労働者派遣法など、労働分野にかかわる法律を総称して、「労働法」という。
必修分野④ 独禁法・下請法
菅野みずき
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という)は、「公正かつ自由な競争の促進」という目的を達成するため、競争を制限または阻害する行為である不当な取引制限、私的独占および不公正な取引方法を禁止するとともに、企業結合に対する規制を設けている。本稿ではそのうち、不当な取引制限の典型であり、高額の課徴金が課されるリスクのある入札談合・カルテルと、近年運用が強化されている下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」という)およびその前提となる優越的地位の濫用(不公正な取引方法の一類型)の規制について紹介する
必修分野⑤ 個人情報保護
村上諭志
個人情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」または単に「法」という)は、個人情報保護に対する意識の高まり等を理由として、2003年に成立したが、情報通信技術の発達等の社会の変化に対応するとともに、パーソナルデータの利活用を促進するために、2017年5月に従来の内容を大幅に改正する改正法(以下「改正法」という)が施行された。以下では、個人情報保護法の大枠を説明したうえで、改正されたポイントの要点について概説する。
なぜ談合はなくならないのか
─歴史的・産業構造的背景と再発防止への視座
樋口陽介
課徴金制度や課徴金減免制度が導入され、独占禁止法の執行が強化された現在においても、入札談合の摘発は続いている。本稿では、談合がなくならない要因について、歴史的な法執行の経緯や産業構造的観点から考察する。また、これらをふまえたうえで、コンプライアンス体制整備の基本的な視座を示すとともに、従業員にどのように意識付けを行うべきか、役員・従業員の談合への意識改革および談合への理解の醸成のための具体的方策について考察する。
事例でみる
正当な営業活動とカルテルのボーダーライン
池田 毅・水口あい子
ビジネスにおいて、営業部門等が可能な限りの情報を取得するのは、ビジネスの基本の「き」である。一方で、営業活動が行き過ぎ、談合等の違法行為に問われるリスクは避けなければならない。とはいえ、正確な独禁法上の検討・評価を行うことなく、一見リスクがあると思える営業活動を何でも制限してしまうと、「法務がビジネスを妨害している」といった営業サイドの不満が噴出することは避けられない。本稿では、独禁法違反を防ぎつつ、適法なビジネスを阻害しないようにするための考え方について、いくつかの具体例を交えながら検討する。
再入札データの分析による
談合検知手法の可能性
中林 純
経済学、とりわけ産業組織論の教科書には、たいてい、談合について1章設けられていて、談合のメカニズムやそれが維持されやすい環境に関する研究が紹介される。その中には、「大規模な談合はめったに存在しない」という記述がしばしばみられる。その理由は、談合は維持することが難しいからだ。
三品和広
去る3月6日に、神戸製鋼所が品質不正に関する報告書を公表した。事実関係を整理して、根源対策をあげてはいるが、事実と対策の間を取り持つ原因分析が余りに稚拙で、これでは再発防止など望むべくもない。以下では経営学者の見地からオルターナティブな分析を提示してみたい。
平岡 敦
民事訴訟手続に関与する皆さんはご存じのことと思うが、日本の現行民事訴訟制度において裁判所に提示される情報(主張や証拠)は、紙に記録されて提出される。また、口頭弁論や弁論準備等の期日は、例外的な場合を除いて、当事者や弁護士が裁判所に出頭して開催される。また、どんな事件記録が提出されているのかとか、次の期日はいつであるかといった事件情報は、裁判所によって一元的に管理・開示されておらず、裁判所と各当事者が個別に管理している。
小磯孝二・石澤・神・矢野領・大江弘之
法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会は、本年2月14日の第10回会議において、「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案」を取りまとめ、同年2月28日から4月13日まで意見公募手続が実施された。本稿は、中間試案のポイントを簡潔に解説するものである。なお、項目の列挙よりも内容の解説に重点を置いたが、紙幅の関係から、中間試案の提案事項の細部に言及できないことをあらかじめ了解されたい。
親会社の「対応義務」はどこまで?
最判平30.2.15にみるグループ内部通報制度見直しの視点
山口利昭
グループ会社管理の実務に影響を及ぼすと思われる最高裁の判断が示された。控訴審の判断とは逆に、親会社の子会社従業員に対する損害賠償責任は否定されたものの、事情によっては法的責任が発生することが示され、企業集団内部統制の具体化であるグループ内部通報制度のあり方に警鐘を鳴らすものである。本件最高裁判決に基づき、グループ会社管理の一環として、内部通報制度を改めて検証する必要がある。
インシデント発生前の予防を
サイバー保険導入・活用のポイント
山越誠司・瀧山康宏
サイバー保険は企業にとってどのような効用があるのか理解が難しい保険である。そもそも、サイバーリスクの実態把握も困難な状況なので当然である。本稿においては、先行して普及しているアメリカの状況などにも触れながら、日本企業にとってのサイバー保険の活用法について検討してみたい。特に大企業と中小企業では、同列に論じることができないが、どちらもサイバーリスクへの対策は重要な経営課題である。
「一体的開示」への第一歩
開示府令、会社法施行規則の改正と実務対応
野澤大和
金融審議会が設置したディスクロージャーワーキング・グループにおいて、2016年4月18日に「金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告─建設的な対話の促進に向けて─」(以下「WG報告書」という)が公表された。WG報告書の提言を受け、2018年1月26日に「企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令」(平成30年内閣府令第3号)(以下「改正府令」という。また、改正後の企業内容等の開示に関する内閣府令を「改正開示府令」といい、改正前のものを「旧開示府令」という)が、2018年3月26日に「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令」(平成30年法務省令第5号)(以下「改正省令」という。また、改正後の会社法施行規則を「改正会社法施行規則」といい、改正前のものを「旧会社法施行規則」という)がそれぞれ公布・施行された。本稿では、上記の改正のうち、2017年12月28日に公表された「事業報告等と有価証券報告書の一体的開示のための取組について」(以下「一体的開示の取組」という)との関係をふまえながら、相互に関連する部分がある改正開示府令および改正会社法施行規則の概要を解説する。
「柔軟な権利制限規定」によるデジタル社会への対応
改正著作権法案の概要
林 いづみ
IoT時代に伴う著作物利用の円滑化ニーズに対応するため、「柔軟な権利制限規定」の整備を目指す改正著作権法案が2018年2月23日に国会に上程された。いわゆる一般的・包括的なフェアユース条項の導入ではなく、①デジタル化・ネットワーク化の進展、②教育の情報化、③障害者の情報アクセス機会の充実化、④アーカイブ利活用促進に対応するために、個別の権利制限規定を拡充するものである。
本年度税制改正、産業競争力強化法で変わる
自社株対価M&A活用の可能性
森田多恵子・田端公美
自社株対価M&Aに関して、本年度税制改正に、株主課税の繰延措置が盛り込まれた。また、本年2月に閣議決定された産業競争力強化法改正法案では、自社株対価M&Aに対する現物出資規制等の適用除外の範囲を拡充するとともに、課税繰延措置の適用を規律する「特別事業再編計画」の認定制度を創設している。課税繰延の適用を受けるには改正産業競争力強化法の施行の日(本年夏が想定されている)から平成33年3月末までに「特別事業再編計画」の認定を受ける必要がある。
2017年の裁判例を振り返る
商標法・意匠法・不正競争防止法の判例動向と実務家が注目すべきポイント
佐藤力哉・茜ヶ久保公二・栗下清治
本稿は、裁判所ウェブサイトの裁判例検索システムにおいて、2017年1月1日から同年12月31日までの期間について、「商標権」、「意匠権」および「不正競争」を権利種別とする民事訴訟ないし行政訴訟を対象に検索したところに基づき、それぞれの分野の裁判例の動向について概観するものである。
ジョイントベンチャー・業務提携における独禁法上の留意点(下)
髙宮雄介・水口あい子
前号では、他の企業との業務提携契約の締結、少数持分の出資、合弁会社(ジョイントベンチャー、以下「JV」という)の設立等、「部分的な協業」を行う際に、独禁法がどのように適用されるかを検討し、実務上の対応・留意点につき「2実務担当者間の協議(1)企業結合規制の検討」の途中まで検討した。本号では、(上)回に引き続き、時間軸に沿った検討を行うとともに、他法域における企業結合届出の要否につき、検討する。
LEGALHEADLINES
森・濱田松本法律事務所
2018年2月〜3月
最新判例アンテナ
第3回 株式売渡請求に係る対象会社の通知または公告後に売渡株式を取得した者による売買価格決定の申立てが否定された事例(最決平29.8.30民集71巻6号1000頁)
三笘 裕・金田 聡
会社法改正議論を追う
第3回 役員に適切なインセンティブを付与するための規律の整備
樋口 達・小松真理子
平成30年2月14日に開催された法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会第10回会議では、部会資料16に基づき、会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案の取りまとめに向けた審議が行われ、中間試案が取りまとめられた。今後、この中間試案は、パブリック・コメント期間を経て確定に向かうことになるが、引き続き、議論の経過や改正の方向性を紹介したい。連載第3回にあたる本稿では、役員に対する適切なインセンティブの付与(取締役の報酬規律の見直し、会社補償、D&O保険)に関する改正の議論のポイントを紹介することとする。
Plain Englishstyleで極める英文契約書作成
第3回 能動態、肯定形の活用
キャロル・ローソン・倉田哲郎
今月は、英語に限らずどの言語の法務文書作成にも当てはまる2つの核心的な原則について述べる。1つ目は、受動態より能動態を優先することだ。目安としては、法務文書において、約80%の動詞を能動態にすると読みやすくなる。これより能動態の割合が少ないと、文章は、堅苦しい、よそよそしい、あるいは仰々しいものになる。2つ目は、否定形より肯定形を優先することだ。もちろん、これらには例外もあり、まれなケースとして受動態や否定形が適している場合もある。
6tech法務の新潮流
第4回 AutoTech
戸田一成・本間由美子
Auto Techとは、「Automotive」と「Technology」をかけ合わせた造語であり、 自動運転技術やライドシェアをはじめとするITやAIを活用した自動車産業の先進的な取組みをいう。自動車分野は、他の技術分野と比較して安全確保や責任の所在の明確化の要請が強く、技術の活用には法律論の検討も切り離せない。本稿では、自動運転とシェアリングエコノミーに関する法的整理を中心に、Auto Techについて概観する。
金融業者の債権法改正対応
第2回 証券会社、アセット マネジャー等への影響②
2018年6月号・連載
本連載の第1回では、証券会社やアセット マネジャー等(以下「証券会社等」という) に顧客が口座を開設し、取引を開始する場合、当該顧客がなぜ証券会社等が策定した証券取引約款等に拘束されるのか等について検討した。一般的に、証券取引約款等は、法律や規則等の改廃、サービス内容の見直し、技術の進歩などの取引環境の変化に合わせて、随時、内容が変更される。改正後の民法は、証券会社等が証券取引約款等を一方的に(顧客の同意なく)変更する場合(以下「一方的変更」という)についても規定している。このような一方的変更が有効とされ、変更後の証券取引約款等に顧客が拘束される効果を得るためには、どのような要件を満たす必要があるのだろうか。また、そのような要件を満たすうえで、証券会社等にはどのような工夫が考えられるのだろうか。
不動産業・建築業の債権法改正対応
第5回 不動産賃貸業(その1)
猿倉健司
前号まで、不動産業(売買)、建築業(請負)における債権法改正のポイントおよび実務対応について解説してきた。不動産賃貸業についても、債権法改正によって大きく変わる点が数多くある。本稿においては、不動産賃貸業において実務上重要な点を中心に、改正内容および改正をふまえた実務対応について解説する。なお、平成30年3月30日に、国土交通省から、民法改正等をふまえた「賃貸住宅標準契約書」の改定が公表されたことから、留意が必要である。
すぐに使える危機管理の書式
第4回 国境を越えた不正調査
梅津英明・山内洋嗣・大川信太郎
多くの日本企業のグローバル化が進んだいま、自社で生じた不正が国外に波及するケースは珍しくない。また、近年、海外子会社における不正・不祥事が多発しており、その管理・ガバナンスに頭を悩ませる企業も多い。この点、国境を越えた不正は、法令(とりわけ、当局によるエンフォースメントのあり方、証拠開示手続を含む民刑事の裁判手続、データ・セキュリティ法制、個人情報保護法制、労働法制、贈収賄法制等)、言語、タイムゾーン、社会通念、生活習慣、雇用のあり方(日本企業に対するロイヤリティーの差)、文化、宗教、マスコミ、世論、政治体制などの違いも相まって、その調査の難易度が格段に増す。
読み方・書き方徹底マスター法律中国語・基礎講座
第8回
権利の表現、除外の表現
森川伸吾
FinTech法からみる銀行業務の将来
第4回 その他FinTech業務と銀行
山田剛志
インターネット取引大手のアマゾンが、銀行口座を提供することを検討しているという。 インターネット取引では、アマゾンジャパンは、1兆1千億円(2016年)の売上があり、 書籍だけでなく、日常用品すべてを販売しており、多くの人が利用している。現状アマゾンで取引をすると、クレジットカード利用か銀行口座を登録する方法が主流であるが、アマゾンが銀行口座を提供することとなると、その影響はどれほどのものだろうか。
外国人弁護士世界一周
第11回 フランス共和国
Davy LE DOUSSAL
子どもの頃の私は、まさか自分が弁護士になるとは、しかも日本で働くことになるとは夢にも思っていませんでした。私は、フランス、ブルターニュ地方の大西洋沿岸の町ロリアンに生まれました。ルイ14世の下、政治家コルベールが行った極東との貿易によって栄えた「Lorient」と綴るこの町の名は、この地方の言葉であるブルトン語での「An Oriant=東方の太陽」に由来します。面白いことに、これはまさに今ここ日本に暮らす私自身がこれまで辿ってきた道を表しているわけです。
法律家のための租税法解釈の落とし穴
第4回 所得税法にいう「生活」概念
酒井克彦
租税法がその条文の中において使用する概念(用語)については、定義規定が設けられているものとそうでないものがあるが、後者が圧倒的に多い。条文の位置付けや前後の文脈等からしてその概念の意味内容を明らかにできるのであれば問題はないが、そうしたケースは必ずしも多くはない。そのような場合には、対象とされる概念が、「固有概念」か「借用概念」か、または、それらのいずれにも該当しない「一般概念」かという3つの分類により、用語の意味の確定作業を解釈論において行っていくのが通常である。一般概念については、国民の多くが通常使用するであろう意味に従って解釈をすることになるが、ここで注意が必要なのは、国民の多くが通常使用するであろう意味の確定作業である。原則的には、「社会通念」によって判断するほかないが、社会通念自体、必ずしもその意味が確定されたものではなく、社会や経済の潮流の中で、ときには意味内容に変容を認める必要があるかもしれない。本稿においては、所得税法においてしばしば登場する「生活」概念について考えてみたい。「生活」概念は、一般概念と捉えることができそうであるが、今日における「生活」概念とはいかに解釈されるべきであろうか。