企業内法務はどうあるべきか これからの組織・人員・働き方
北島敬之
今私たちは、VUCAの環境にあると言われています。VUCAとは、Volatile(不安定な)、Uncertain(不確実な)、Complex(複雑な)およびAmbiguity(曖昧な)の頭文字を合わせた言葉です。つまり、政治や経済、国際的な関係のみならず、ビジネスを取り巻く環境は、これまで思っても見なかった速度で変化し、想定しえない事態が次から次へと発生する状況にあると言えます。これまで私たちが考えていたビジネス上のリスクに加え、新しいタイプのリスクが出てきています。
KDDI法務部における企業内弁護士の活用
中里靖夫
企業法務における人材活用が昨今話題になる背景として、企業内弁護士の増加があることは明らかであろう。日本組織内弁護士協会(JILA)のホームページによれば、日本における企業内弁護士数は、2001年9月には66名であったところ、2017年6月には1、931名にまで増加しているとのことである。KDDIにおいても、2009年に弁護士有資格者の採用を初めて実施して以降、現在までに計13名の弁護士を採用しており、これが法務部における人材活用のあり方に大きく影響してきている。勿論、弁護士資格を持たなくても優秀で高いパフォーマンスを発揮している法務部員はKDDIにも多数存在している。とはいえ、法務部在籍者19名中、9名が日本の弁護士資格保有者という弁護士比率の高さが、現在のKDDI法務部の特徴であると思われるので、本稿においては、企業内弁護士の活用を中心として、KDDI法務部の取組みおよびそれらを通して私が感じたことについて簡単にご紹介させていただくこととしたい。企業法務の組織、業務の態様は、まさに百社百様であり、KDDIにおける実例がそのまま当てはまるケースは決して多くはないと思われるが、今後、弁護士の採用を検討される企業の方々や企業内弁護士活用の他社事例に関心をお持ちの方々にとって何らかの参考になれば幸甚である。
ヘッドハンターが語る 年代別・組織別法務キャリアの要件
法務キャリアには、収益事業たるリーガルサービスの営業手腕を発揮するフロント成功型(法律事務所のシニア・パートナー)が1つの頂点として存在する。もう1つの頂点は、企業の間接部門に身を置いて同社のリーガルリスクを管理するバックオフィス成功型(企業の法務担当役員)である。前者を目指すならば、特定法分野のスペシャリストとしての経験が求められ、後者を志すならば、所属企業の経営陣から法務全般への信頼を受けるだけのジェネラリストとしてのバランス感覚が求められる。
法務転職の動向・方法と人気の業種
松林俊・窪塚勝則
転職市場はさまざまな要因に影響を受け、その時々で性質が変わるが、最も影響を受けるのは景気動向である。加えて少子高齢化に伴う労働人口の減少が求人増加に作用したり、AIやRPAなどの技術革新が求人減少に作用したりする。昨今で転職市場に最も大きな影響を与えたのは2008年のリーマンショックだろう。その後、政権が変わり、金融緩和がおこなわれ、働き手の世代交代の波も押し寄せ、さまざまな条件が折り重なり、あれから間もなく10年、現在、バブル期以来の売手市場となり、求人倍率は過去最高を更新しそうな勢いである。
女性の法務キャリア 出産・留学・転職の組み立て方
若槻絵美
女性は結婚をする・しない、仕事をする・しない、フルタイム勤務・時短勤務、子供を持つ・持たないという人生の選択の組み合わせにより、さまざまな生活のパターンがあり、男性に比べて悩みがつきないと誰しも感じていることと思う。「女性が仕事を続けるうえで専門性があると強い」と考えて法律専門職になったのはよいが、プライベートとの折り合いをつけるのは容易ではない。職場にロールモデルになるような女性の先輩が見当たらないということもある。弁護士登録から17年、その間に出産、留学、転職を経験する幸運に恵まれた者として、今後のキャリアプランを考えているすべての女性へヒントになるようなポイントをお伝えする。親しい後輩にコーヒーを飲みながらカジュアルに話すようなつもりで書くのでテーマはディープだが気楽にお読みいただきたい。
10回の転職経験者談! 多様なキャリア形成の可能性
桐山直也
この度、ご縁があって本誌に寄稿する機会をいただいた。実は、私は、第1回ビジネス実務法務検定2級の合格者であり、受験当時から読者である本誌に寄稿させていただき、大変光栄である。本稿は、諸事情から10回ほどの転職をし、その途中で弁護士資格を取得した「転職活動家」である私のキャリアを思いつくままに述べるもので、決して「転職を重ねることがいかに素晴らしいか」という内容ではない。むしろ、私は、企業や大手法律事務所で転職することなく、順調に充実したキャリアを送っている友人たちを心底うらやましく思っている。転職が好きで転職を重ねたわけではなく、気づいたら転職回数が増えていた。ただ、現時点で順調なキャリアを送れていない方々を、「こんなにいい加減な人でもそれなりにやっていけるんだな」と、勇気づけることができれば、望外の喜びである。
学生向けコラム
芦原一郎・奥邨弘司・上原正義・早川直史・高橋知洋・和田進太郎
① 社内法務の最高峰? ChiefLegalOfficerの仕事 ② 法曹三者とならぶ選択肢 ロースクール生と企業内法務の現在 ③ 企業がロースクール生を採用する理由 ④ 私のキャリア1ロースクールから企業法務部へ ⑤ 私のキャリア2インハウスから法律事務所へ ⑥ 私のキャリア3司法修習からインハウスへ
中小企業を巡る事業承継の現状と大企業が関わる意義
幸村俊哉
中小企業の事業承継問題は、大企業には無関係と考えていないだろうか?中小企業の事業承継の問題(事業承継インシデント)は「事業経営者の年齢による広域的なリスク」が日本全体に及ぶ例である。サプライチェーンを維持するために、取引先・協力先の代表者の年齢や後継者の有無・準備状況等を調査して、一定の対応が必要である。本稿では、現在の日本の中小企業の事業承継の状況を俯瞰し、国の施策等をふまえ、大企業が取るべき対応(BCPを含めたBCM)につき概説する。
取引先企業の事業承継への直接的・側面的支援の具体策
髙井章光
多くの中小企業が事業承継問題を抱えている。取引先や協力先企業においても事業承継の問題は重要問題となっていると考えられるが、事業承継を円滑に実施できなかった場合には、その取引先に関連する取引に対する影響も大きく、必要な部品供給に支障が生ずるなど莫大な損害が生ずる可能性がある。したがって、取引先に対する事業承継リスクを調査・分析し、状況に応じて直接的または側面的な支援を実施することが重要となる。本稿では、取引先に対する直接的または側面的支援について概説する。
柳川範之・藤田友敬・佐藤典仁・杉浦孝明・戸嶋浩二・白石和泰
弥永真生
東芝は、平成29年10月24日に幕張メッセで「臨時株主総会」を開催した1。ところが、この「臨時株主総会」が本当に臨時株主総会なのか、同年6月28日に開催された「第178期定時株主総会」(以下、「6月総会」という)が本当に定時株主総会といえるかどうかは問題である。
塩野誠
昨今、メディアで人工知能(AI)について目にしない日はない。ビジネスの現場でも経営層から「うちもAI活用を考えろ」という指示が経営企画部や事業部に飛んでいる。AIのみならずビジネスの現場では、自動運転、クラウドファンディング、仮想通貨など新しい技術に基づくビジネスの検討が盛んである。こうした技術はコンピューターの計算能力が向上し、AIの世界でもディープ・ラーニングのような技術が進展した背景がある。
唐沢晃平
中国では、2017年6月1日に「サイバーセキュリティ法」(以下「本法」という。中国語では「網絡安全法(网络安全法)」であり、「ネット安全法」、「インターネット安全法」等とも翻訳される)が施行された。本法についてはすでにさまざまな観点から数多くの報道がされており、その知名度は高いものと思われる一方で、本法の内容を正確に把握し、場合によっては日常業務運営との関係でも具体的な対応が必要となりうることを認識している日本企業は必ずしも多くないように思われる。
Google事件にみる
プラットフォーム事業者をめぐる競争法上の最新論点
渥美雅之
独占禁止法・競争法は、あらゆる産業セクターにおける反競争的行為を取り締まる法律である。ITセクターなどの最先端技術市場から、製造業・建設業などの伝統的な産業に至るまで幅広いセクターに同一の条文が適用され、適用の際には、問題となる市場における競争の実態をふまえ、それに即した法執行が行われる(少なくとも行われることが期待されている)。本稿では、革新的なビジネススキームで事業活動を拡大してきているデジタルプラットフォーム事業者に対する競争法の適用について、日本における議論状況を紹介し、最近欧州委員会が発表したGoogleに対する制裁金決定を通じて欧米における議論を紹介する。
外国人雇用に関する法規制と採用時の留意点
川上善行・島田貴子
外国人雇用者は、近年、その数が急速に増加する一方で、不法滞在者の増加等の問題も指摘され、不法就労の取締強化の動きもある。そこで、特に注意すべき点が多い採用の場面を中心に、最近の法改正の内容をふまえつつ、在留資格制度など外国人雇用に関する規制の概要を述べるとともに、実際に採用等する場面での具体的な留意点を説明する。
法務部員が知っておきたい
会計不正事案における監査法人対応
三宅英貴
オリンパス事件や東芝事件の影響により監査法人の不正リスク対応が厳格化し、監査法人の指摘を契機として企業が調査委員会を設置するなどして会計不正の調査を実施するケースが増えている。実務的には監査法人との意見調整をふまえたフォレンジック調査や類似取引の調査などが重要なポイントとなるが、企業の危機管理の観点からは、財務経理部門だけではなく、法務部門の積極的な関与や両部門の緊密な連携が必要となる。
サイバーセキュリティをめぐる欧米法規制と日本企業の対応策
高橋大祐・川島基則
2017年5月に発生したWannaCryランサムウエアによる世界同時サイバーテロ攻撃は、日本企業を含む各国企業のオペレーションに重要な影響を与えた。企業活動のインターネット・サイバー空間への依存が高まっている現在、各国企業においてサイバー攻撃被害やこれに伴う情報漏えいに関する不祥事が相次いでいる。このような状況をふまえ、近年、欧米では、個人情報保護に関する規制の強化のみならず、サイバーセキュリティ対策に関する法規制も導入され始めている。本論稿は、欧米における法規制の動向を解説したうえで、日本のサイバーセキュリティに関する法務対応についても論じるものである。
IR推進会議取りまとめにみる
カジノ参入規制・依存防止策等の具体的内容
渡邉雅之
2017年7月31日に政府の「特定複合観光施設区域整備推進会議」(以下「推進会議」という)は『特定複合観光施設区域整備推進会議取りまとめ〜「観光先進国」の実現に向けて〜』(以下「本取りまとめ」という)を公表した。推進会議は、2016年12月に成立した。「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(以下「推進法」という)に基づく有識者会議である。本取りまとめは、政府が今後国会に提出するカジノを中心とした統合型リゾート施設(IntegratedResort、IR)の実施法案(以下「実施法案」という)の方向性を示すものである。筆者は、推進会議の委員(有識者)の1人として本会議の審議に参加する機会を得た。本稿では本取りまとめの重要ポイントについて解説する。なお、本稿における意見は、私見であり、推進会議全体の意見ではないものもあることに留意されたい。
LEGALHEADLINES
森・濱田松本法律事務所
2017年9月〜10月
ストーリーでわかる契約が決算書に与える影響
第1回 財務部との連携
横張清威
特定の契約書は、財務業務に大きな影響を与えることがある。しかし、法務部は、一般的に契約書が財務業務に与える影響について詳しくない。そこで、どのような契約書がどのような理由により財務業務に影響を与えるのか、そして法務部としてどのような配慮を行うべきかについて、具体的なストーリーを通じてわかりやすく解説を行う。
情報・テクノロジー法最前線
最終回 自動運転の実現に向けた動き
戸嶋浩二
いまや自動運転という言葉をニュースで聞かない日はない。国内外の自動車メーカーから、GoogleのようなIT企業まで、自動運転車の開発でしのぎを削っており、自動運転に用いられる半導体などの技術開発も進んでいる。日本政府も2020年までに無人自動運転サービスの実現を図るなど、最大の輸出産業である自動車業界を有する国として、ITS(IntelligentTransportationSystem:高度道路交通システム)の構築・維持を大きな目標として掲げている。
読み方・書き方徹底マスター法律中国語・基礎講座
第3回 可能(許容)の表現、条件設定の表現
森川伸吾
基礎から学ぶ広告マーケティング法
第3回 薬機法の「広告」と景品表示法の「表示」の関係
木川和広
薬機法には「広告」を定義する規定は存在しない。薬機法の「広告」が何かについては、平成10年9月29日付けの厚生省(当時)通知「薬事法における医薬品等の広告の該当性について」に示されており、「誘引性」、「特定性」、「認知性」の3つの要件を満たす場合に「広告」に該当するとされている。
サイバーセキュリティと企業法務
最終回 情報漏えい事案に関する裁判例にみる企業の責任(3)
山岡裕明
前号のII2(1)に引き続き、情報漏えい事案に関する裁判例にみる主要な論点を個別に紹介する。過失の概念を整理すると、一般的に、損害発生に対する予見可能性および結果回避義務の2つの要素が考慮される。サイバーセキュリティの分野は、そもそも極めて専門技術性が高い分野であり、かつ、新たな手法のサイバー攻撃が次々と登場する。こうした特殊性から、サイバー攻撃に起因する損害発生に対する予見および結果回避は必ずしも容易ではない。そこで、過失の有無が主要な争点となる。
法務部員のための税務知識
第7回 組織再編・M&Aにおいて生じる税務問題
岩品信明
組織再編やM&Aを検討する際には、法務部は許認可や契約関係などの法務面から検討し、一方、経理部は税務面から検討し、法務と税務の両面から検討を重ねながら方針が決まることが多い。法務部員としては、税務上の視点も理解することにより、組織再編・M&Aの意図を把握し、より深度のある検討をすることができる。
入門税務コーポレートガバナンス
第4回 従業員の横領を原因とする追徴課税の防止への取組み
佐藤修二・武藤雄木・山下貴
従業員の横領は会社を被害者とする不法行為であるが、それが実際の行為者以外の与り知らぬところで行われた場合であっても、国税当局は、当該従業員の行為は会社自身の行為と同視できるとして、会社の「所得隠し」と認定することがある。会社の「所得隠し」となればコンプライアンス上の問題はもとより、横領による会社財産の流出被害、さらには重加算税というペナルティまで負担することになるため、このような事態を避けるためにも内部統制システムの適切な構築が求められる。
外国人弁護士世界一周
第6回 中国
劉淑珺
北京大学の修士課程で刑事法を研究していた私にとって、その後に日本へ留学し、ビジネス分野の日本業務を専門とする弁護士になることは、予想外のキャリアでした。2005年に来日する直前まで、私は、中国の刑事法学界が手続的正義と実体的正義を巡り激しい論争を展開していた影響を受け一心に刑事裁判官を目指していました。
NextIssueはどこにある?海外の今を読む
第6回 「無期転換ルール」による雇用保障─オランダ法にみる柔軟化のアイデア
本庄淳志
現在、雇用管理の現場では、2018年4月にいわゆる「無期転換」が問題となることをふまえ、その対応が急ピッチで進められている。2013年4月施行の改正労働契約法(以下「労契法」という)で導入された無期転換ルールは、その後に締結された有期労働契約の通算期間が5年を超え、労働者の申出があった場合に、無期雇用へと転換する途を開いている。本稿では、このような無期転換ルールの課題について、オランダ法との対比を通して探ってみよう。
要件事実・事実認定論の根本的課題──その原点から将来まで
第15回 民法総則における幾つかの問題①
─新民法(債権関係)における要件事実の若干の問題
伊藤滋夫