特 集  

会計上の対立する概念―8つの視点

                    

純利益と包括利益

川村義則

 

 

 

Summary ◇

本稿では、純利益と包括利益がともに包括主義利益としての共通性を有している一方、利益創出過程における認識時点が異なるという相違点を有していることを指摘している。さらに、資産および負債の測定には将来の見積りに伴う測定誤差が付随しているため、個々の資産および負債の測定においては許容される誤差であっても、資産および負債の測定値を集約化した包括利益においては無視し得ない程度に信頼性を低下させる要因となりうることを指摘している。

 その一方で、純利益と包括利益は長期的には同じ包括主義利益としてその累積額が収束する性質を有するものであり、また包括利益が利益の選択的実現を通じた純利益の信頼性低下を抑止する効果を有することなどについても指摘し、純利益と包括利益という2つの利益がともに開示される必要があることを主張している。

 

Profile ◇

かわむら・よしのり◇1967年生まれ。1994年早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得退学。1994年米国財務会計基準審議会(FASB)ポストグラジュエート・インターン。1996年龍谷大学専任講師、2000年早稲田大学商学部専任講師を経て、2002年より現職。現在、金融庁企業会計審議会専門委員、(財)財務会計基準機構テーマ協議会委員など。