▽三角波△

事業再生に係る税制上の課題について

  事業再生の円滑化のために、これまでに、早期事業再生ガイドラインの策定、産業活力再生特別措置法の拡充、産業再生機構の設立など、多くの施策が講じられてきた。しかし、こうした制度整備に対応した税制措置は必ずしも十分とはいえない。特に、会社更生法に基づく場合とそれ以外の場合とで、取扱いが大きく異なるという問題がある。今後期待される産業再生に係る税制措置について整理したい。

資産評価損益の計上
 法人税法では、基本的に、法人の有する資産の評価損益は損金あるいは益金に算入しないこととされている。例外的に、会社更生法あるいは金融機関等の更生手続の特例等に関する法律に基づく更生手続の中で行われる資産の再評価に関しては、税務上も評価損益の計上が認められているに過ぎない。
 税務上、評価損益の計上が認められれば、再生手続の対象となっている法人が受けた債務免除益と評価損とを相殺することや、繰越欠損金と評価益とを相殺することが可能となることから、事業再生において重要な意味を持っている。
 裁判所の関与がある民事再生手続や、専門家アドバイザーが関与し公正性の確保が図られている私的整理ガイドラインに基づく私的整理手続に関しては、更生手続と同様に、資産の評価損益の計上を認めてもよいのではないか。


繰越欠損金との相殺の特例
 法人の欠損金の繰越控除は過去5年以内に生じたものに限られている。ただし、会社更生法あるいは金融機関等の更生手続の特例等に関する法律に基づく更生手続にあっては、その際に生じた債務免除益や資産の評価益と、過去5年以内に限定することなく、それ以前からの欠損金との相殺が認められている。
 一方、民事再生手続や私的整理ガイドラインに基づく再生手続にあっては、まず、5年以内の繰越欠損金と相殺した上でなお残存する債務免除益・資産評価益のみがそれ以前の欠損金と相殺できるにすぎない。これでは、再生手続開始後において、税務上繰越控除できる欠損金が、更生手続をとった場合と比べて減少することになり、事業再生の足かせとなりかねない。
 この点でも、民事再生手続や私的整理ガイドラインに基づく私的整理手続に関しては、更生手続と同様に、繰越控除できる欠損金についての5年間という制限を撤廃する必要があるのではないか。


貸倒損失の認定
 一方、債権者側における課題は、貸倒損失の認定である。貸倒損失確定の要件として、特に、債務者の資産状況、支払能力などからみて、全額が回収不能となることが要求されている点が問題である。担保権の行使のみならず保証債権の行使がまずなされた上でなお全額の回収が不能である場合でなければ、貸倒損失にならないというのでは現実的でない。認定要件の弾力化が求められる。
デット・エクイティ・スワップの取扱い
 デット・エクイティ・スワップにより債権者が得た株式の取得価額は、合理的な再建計画に基づく場合には、取得時の価額となることとされ、したがって、株式の取得価額が現物出資された債権の簿価を下回る場合には、当該差額は、債権者側で損金算入することができる。一方、債務者たる法人においては、そのような場合、当該差額が受贈益になるのかどうかについては明確な規定がない。ぜひ、受贈益とはならないということを明確にしてもらいたい。

 

〈Y.O〉