▽三角波△

定款授権による自己株式の取得

  

 5月19日、与党三党が緊急株価対策の関連で、定款授権による自己株式の取得を認めるための商法改正法案を議員立法の形で国会に提出した。定時総会での決議に基づくものに限られていた自己株式取得の方法に、新たな方法が追加され、より機動的な自己株式の取得が可能になること
から、早期の法案成立が期待されるところである。


消却特例法の廃止と平成14年商法改正
 従来、消却目的の自己株式取得に関しては、株式の消却手続に関する商法の特例に関する法律(以下、消却特例法)において、定款授権による取締役会決議に基づく取得が認められていた。また、この取得に関しては、資本準備金を原資とすることも可能であった。
 ところが、平成13年6月の商法改正の際、取得目的いかんを問わず自己株式取得が認められ、また、法定準備金の取崩しに関する規定が新設され、これに伴い、消却特例法自体が廃止されてしまった。そのため、自己株式の取得は、定時株主総会の決議に基づくしか方法がなくなり、組織再編成や株価の変動を勘案した機動的な自己株式取得ができなかった。
 しかも、平成14年商法改正にあたっては、利益処分が株主総会の決議事項から取締役会の決議事項となり、それに伴い自己株式の取得についても取締役会の決議でできるようになることが期待されたが、実際の改正では、委員会等設置会社のみ利益処分を取締役会決議でできるようになり、しかも自己株式取得に関しては何らの措置もとられなかった。
 こうしたことから、今回の改正法案では、消却特例法の趣旨をさらに一歩進めて、目的いかんを問わず自己株式取得について、定款授権による方法を認めるものである。


中間配当原資の算定方法の改正
 加えて、今回の改正法案では、中間配当原資の算定方法の見直しが盛り込まれている。従来の商法の規定では、期末の純資産額から期末の資本および資本準備金の額を控除した額が中間配当原資となることとされているため、期末後の定時総会で減資あるいは準備金取崩しをしてもその資本あるいは準備金の減少額は、中間配当原資から控除されたままとなっていた。しかも、定時総会で承認された自己株式の取得枠も中間配当原資から控除することとなっていた。
 このため、減資あるいは準備金取崩しによる減少額を原資に自己株式を取得しようとすると、資本あるいは資本準備金の減少額と自己株式取得枠が二重に中間配当原資から控除されることとなり、アサヒビールや日本ユニパックホールディングなど実際に中間配当ができなくなる会社が現れた。
 こうしたことから、改正法案では、資本あるいは準備金の減少額(株主への払い戻し額等を除く)を中間配当原資に加算することとされ、減資あるいは準備金取崩しの決議を行った事業年度において、当該取崩額を中間配当原資に組み入れることが可能となる。


今後の課題
 定時総会決議に基づく自己株式の取得枠と同様、定款授権による自己株式の取得枠は中間配当原資から控除するようにされているが、改正法案では、法務省令で中間配当原資に加算すべきものを定めることとされており、その中で、取得枠と実際の取得総額との差額については、中間配当原資に加算する手当てがなされることが期待される。
 なお、改正法案の審議スケジュールは今のところ明確ではなく、今国会会期中の成立については予断を許さない状況にある。1日も早い成立が期待される。


〈Y.O〉