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国立大学の法人化と今後の課題

 

山本 清

Yamamoto Kiyoshi

 

国立学校財務センター研究部教授

 

Profile

やまもと・きよし■1953年生まれ。京都大学工学部卒。京都大学博士(経済学)。専門は、政府の経営学・会計学、高等教育財務管理論。現在、総務省政策評価・独立行政法人評価委員会および財務省財政制度等審議会の専門委員。

 

国立大学法人制度の概要

 今国会に国立大学法人法案および関連法案(以下「法案」という)が上程され、国立大学の法人化が平成16年4月から予定されている。法人化をめぐっては国立大学協会を始め、種々の議論があり、高等教育政策論としての論点も残されているが、小稿では差し迫った制度改革の概要と課題について述べる。

 国立大学の法人化は、従来国立学校特別会計によりすべての国立大学が一括して管理されていたものを個々の大学に法人格を付与し、自主性・自律性を高めることで大学の個性と国際的競争力を高めようとする。周知のとおり、大学は教育研究を通じた知の拠点であり、通常の行政サービスの執行部門と異なる側面がある。このため、法案においても大学の特性を考慮して先に独立行政法人化された国立博物館等にない規定が盛り込まれている。

 組織運営の基本原理は、独立行政法人(以下「独法」という)と同様、@中期目標・中期計画による目標管理、A使途制限のない運営費交付金による財源措置、B業績主義による人事管理,C厳格な評価による事後統制およびD財務諸表の監査・公開による透明性の向上の5点である。しかしながら、大学の自治に配慮して、第1に主務大臣が定める国立大学法人(以下「法人」という)の中期目標は、その期間が6年間と独法の3‐5年より長く、かつ、事前に法人の意見を聴き配慮されることになっている。第2に、法人の長でもある学長は独法と同じく主務大臣により任命されるが、法人の学長選考会議の選考に基づき法人の申し出により行われる。第3に、学長および理事で構成される役員会以外に、経営に関する重要事項を審議する経営協議会がおかれ、その委員総数の1/2以上は法人の役職員以外の外部者とされている。さらに、独法の多くは公務員の身分を有しているが、法人の役職員はすべて非公務員である。

 

財務経営上の課題

 法人は、国から交付される運営費交付金と施設整備費補助金の他、授業料等の納付金収入、附属病院収入や受託研究にかかる収入等を財源として、教育・研究活動を実施する。法人化は先行独法の産業技術総合研究所や独法化される国立病院と異なり、個々の国立大学に法人格を付与するから、国から個々の法人への公正かつ合理的な資源配分が重要な鍵をにぎる。特に、評価結果に基づく資源配分が予定されているため、配分過程の透明性に加え、教育研究成果の向上と資源管理の効率化とが両立するものでなければならない。運営費交付金は学生数や学科内容等の外形基準で客観的に算定されるとしているが、収支差(所要経費から自己収入を控除した額)補助の概念と業績改善への誘因をどのように調和させるかが課題である。特に、教育研究の業績は、大学の活動以外に資源投入の質や保有水準(学生・教職員の質や学術環境等)によって規定されるため、成果だけでなく費用・ストック対効果の観点が考慮されねばならない。主務者の国立大学法人評価委員会および総務省の評価委員会で大学特性が十分勘案されることが望まれる。

 また、法人に配賦される交付金の使途は中期目標・計画に従って使用される制限を受けるのみであり、使命や目標達成の見地から部局への配分モデルが開発される必要がある。交付金以外の自己収入や競争的資金の間接経費分等を含めた財源をいかに配分するかは、大学の戦略的見地から決定されるべきである。この際、@交付金の算定方式に従って部局に配分すれば、全学同じ方式での資源割当であり、大学の個性は発揮できないこと、A交付金方式を準用するにせよ、本部等の共通間接経費の財源を確保する必要があり、部局配分に先立ちどの程度が適正か検討しなければならないこと、B準用方式の場合、必要な部局経費を賄えないとか、特定部局が大幅に収支剰余となるときは、部局間内部補助をすることになり、いかなる規則で補助するかを検討するとともに余剰部局の収入獲得努力に負の誘因を与えない工夫も必要であること、に留意すべきであろう。

 

会計・監査上の課題

 法人の会計も独法に準拠した基準(「国立大学法人会計基準」、以下「基準」という)が適用されることになっているが、法人制度と同じく独法と異なる扱いがある。第1に、損益計算書において人件費を除く業務費について目的別・機能別区分を行うことである。高等教育では教育と研究は一体的で密接不可分とされてきたが、経費を教育、研究、診療および教育研究支援に区分することになっている。第2に、運営費交付金の収益認識は独法では成果進行型を原則としているが、法人では期間進行型を原則としていることである。第3に、比較可能性の観点からセグメント情報において部局別の収支を共通様式で開示することになっていることである。

 結合生産である教育研究を財務会計的にどのように区分するかは国際的にも初めての試みである。運営費交付金の配分は法人側の自主的判断で行われるものであり、使途の説明責任の見地からは望ましい会計処理である。ただし、旧ポリテク等の大学法人化を約10年前に終えた英国でも管理会計的に算定されるに留まっている段階であり、わが国では原価計算の開発を優先すべきである。また、セグメントで比較可能性を確保するには、本部等の役割の法人間の違いや規模・範囲の経済性(学生数や部局数が多いほど学生当たりの費用は低下すること)を勘案しないと、部局単位の収支や単位費用の比較は適正に行えないことに配慮すべきであろう。

 一方、監査においては、全法人は独法と違い、資本金の多寡にかかわらず公認会計士または監査法人による会計監査人の監査を受けなければならない。その他の点は独法と同じであるが、監査対象の財務諸表には上記セグメント情報が含まれる。このため、損益計算の目的別区分やセグメントに関する監査は、先行独法にない実施手続きを要する。

 このように国立大学の法人化は財務会計制度の大変更であり、内・外関係者の専門的知識・能力の強化が不可欠である。

 なお、本稿で意見にかかる部分は、個人的なもので所属または関係組織の公式見解ではない。