SCOPE EYE

 

ベンチャーキャピタルの意義と役割

―日本ベンチャーキャピタル協会の設立にあたって―

 

ベンチャーキャピタル協会会長

堀井愼一

 

Profile■

ほりい・しんいち■昭和11年静岡県生まれ。昭和36年早稲田大学商学部卒業,大和証券株式会社入社。平成4年代表取締役副社長に就任。2年後に退任し,日本インベストメント・ファイナンス株式会社代表取締役社長となる。11年大和ファイナンス株式会社代表取締役社長を兼任,12年エヌ・アイ・エフベンチャーズ株式会社〈日本インベストメント・ファイナンス株式会社,大和ファイナンス株式会社合併〉代表取締役社長となり現在に至る。14年11月にJVCA会長就任。

 

 

はじめに

 長期低迷が続く日本経済の復活の鍵は,過去の清算と未来の創造,つまり,産業・事業のスクラップ&ビルドである。そのビルドを担うのが革新的な技術やノウハウを持つ新規ベンチャー企業や既存企業に潜在する差別化できる事業である。ベンチャーキャピタル(VC)は,こうした将来性のある有望な企業に対して資金の提供と共に経営支援を行い,その企業価値の極大化を目指すものであり,政府も日本経済の再生におけるベンチャー企業の重要性に鑑み,大学発ベンチャー1,000 社構想をはじめとする種々の政策を打ち出している。

 そうした中,2002年11月に有限責任中間法人日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)が設立された。日本に民間のVCが誕生してからちょうど30年目の年であり,アメリカのNational Venture Capital Association(NVCA,1973設立)をはじめ,現在世界約40カ国においてVC協会が活動していることを考えると,“遅すぎた”設立と言えるかも知れない。

 VC各社の連携,サービス水準のレベルアップ,業界の地位向上を図ることにより,VCの使命であるベンチャー企業の創出と発展に一層の貢献をなし得る業界になることを目指して協会活動を行っていくつもりである。

設立に至るまで

 日本における産業金融は,間接金融中心であったため,VC投資の発展はスローなものであったが,30年の歳月を経て漸くその残高が1兆円を超える規模となった。ここ数年来,特にVCの産業金融としての重要性,そしてその社会的役割と責任の大きさが従来に増して問われてきている中で,国内外からVCの業界団体が全く存在していないことに対する疑問の声が高まっていた。そうした時代の流れも相俟って業界の有志により,2001年10月に業界団体の必要性についての「研究会」が発足した。

 ベンチャーキャピタル業は,行政上の認可や登録を必要とする事業ではなく,定義もはっきりしていない。しかし一般的に関係者の間では設立経緯から,証券系,銀行系,生損保系,商社系,事業会社系そして独立系や外資系等と分類されて呼ばれている。

 上記研究会は証券系,銀行系,生損保系そして独立系の11社が参加し,以下のような事項の議論がなされた。

 @ VC業界が社会的・経済的役割と責任を果たす上で業界団体が存在する意義はなにか。

 A 現在VC業界が抱えている課題はなにか。

 B 世界各国においてVC業界団体(VC協会)の実情はどのようなものか。

 これらについて議論を重ねていく中で,業界団体の必要性について積極的な立場と消極的な立場に分かれた。積極的な立場のおもな主張は,業界団体の存在によって,業界の認知度が高まり,また,業界にかかわる法務や会計等の標準的インフラを整備することは,業界の信用を高め,そのメリットは大きい,というものであった。

消極的な立場のおもな主張は,VCは今なお発展途上段階にあり,業界というものを何らかの形で組織化することは,各社の行動を制限し自由な活動を束縛するおそれがある,というものであった。

 こうした研究会の議論をさらに具体的なものにするため,2002年4月,同研究会を発展的に解消して,新たに5社を発起人として「日本ベンチャーキャピタル協会設立準備会」が発足した。同準備会は,19社まで増え,正式なVC協会設立に向けての議論を月2回のペースで進めた。そこで議論されたおもな事項のひとつに,協会の組織形態問題があったが,同年4月に中間法人法が施行され,同法律に基づく,公益も営利も目的としない”中間法人として設立することに決めた。

協会の概要と当面の活動

 会員は,正会員,準会員および賛助会員で構成され,正会員と準会員はVC事業をおもな事業目的としている法人および個人,また賛助会員は協会の目的に賛同する法人および個人である。会員総数は,現在70名で,うち7名の理事および2名の監事がいる。協会の活動は,5つ

の専門委員会(会計,税務,法務,調査・研究,広報)をベースに行っていく。当面の課題は,VC事業における標準的な会計基準の作成,投資にかかわる優遇税制に関する要望書の作成等を考えており,また,VC業界や関連業界に関する情報提供を目的としたニュースレターも発行する。しかし,会員の会費のみという限られた予算の中で,どの程度の活動が可能かという問題はある。

日本のVC業界の課題と抱負

 まず,透明性のあるデータが提供できる業界を目指している。現在,日本で公表されているVC業界のデータは限られている。アメリカのように,多様な業界データにアクセスできるのはかなり将来のことと思われるが,データ数値の基準の統一やデータの構築を行っていきたい。

 次に,真のベンチャーキャピタリストが支える業界にしたいと思っている。VC業界は人材集約産業である。従来日本のVCの多くは資金の提供のみを行ってきたが,最近になって,ハンズ・オンと言われる,経営支援・経営参画も行うようになってきている。欧米では,ベンチャーキャピタリストの実力とステータスはたいへん高く,協会としても人材強化に取り組んでいきたい。

 

 一年以上の関係各位のご尽力により、日本ベンチャーキャピタル協会が船出いたしました。全くの民間による発案と準備,そしてベンチャービジネスへの良き理解者によって出来上がったものであり、自由な活動ができる協会であると思います。しかし、不慣れな旅立ちであり、種々困難な面もあるとは思いますが、そこは、産業金融の一翼を担うという使命感をもって会員の皆様と共に切り開いて参りたいと考えております。

 皆様の絶大なご支援をお願い申し上げます。