▽三角波△

連結納税における時価

 

 8月1日より施行された連結納税制度においては、その適用開始あるいは適用開始後に新たな子会社が加入する場合には、大幅な例外措置はあるものの、子会社の一定の資産(時価評価資産)について、連結納税制度適用直前の事業年度の終了時において時価評価を行い、その評価損益に対して課税することとされている。
 また、連結納税制度適用後、連結グループ内の取引については、時価で行ったものとされ、時価と実際の取引価額との差額は寄附金となり、従来の単体課税とは異なり、連結グループ内での寄附金は全額損金不算入とされている。
 こうしたことから、連結納税制度を採用する場合においては、「時価」は避けて通れない問題となっている。しかし、これまでの単体納税においては、「時価」が問題になる場面は多くなかったことから、「時価」については必ずしも十分制度が整備されているとは言えない状況にある。まずは、連結納税制度の範囲内で課題を整理したい。


▽ 連結グループ内取引における時価 △


 連結グループ内の連結法人間の取引は、税務上は時価で行うことが基本である。これは単体納税の場合も同様である。しかし、連結納税の場合、連結グループ間での寄附金が全額損金不算入とされることから、時価と比べて、低額あるいは高額な対価での取引が行われたと認定された場合、すぐに税負担に結びつくため、従来に比べて、時価に敏感にならざるを得ない。
 基本的には、これまでの税務実務が引き続き適用されるものと考えられるが、将来の課題としては、ブランド価値評価とも関連し、連結法人間のブランド使用料などの価格、あるいはそうした取引の有無について、検討する必要があるのではないかと考えられる。


▽ 連結納税開始時、連結グループ加入時の時価評価 △


 連結グループ内取引の時価は従来の実務が基本となるのに対して、連結納税開始時、あるいは連結グループ加入時の時価評価は全く新しい制度である。時価評価の対象となる資産は、固定資産、棚卸資産たる土地等、有価証券、金銭債権、繰延資産の5種類に限定されている。
 それぞれの資産の時価の算定については、これまで法人税においては、明確な方法がなく、それ自体問題となる。特に、金銭債権の場合、リスク評価が問題となるとともに、債務者ごとあるいは債権ごとの評価は膨大な作業を要し、連結納税の採用自体が困難になるおそれがある。
 また、金銭債権以上に問題なのは、営業権の評価である。営業権も無形固定資産として時価評価の対象になるとすれば、連結納税を開始する子会社あるいは、連結グループに加入する子会社が自らの営業権を時価評価する場合、商法上、自己創設のれんの計上が認められておらず、いったん時価評価課税された営業権の償却は、損金経理を前提とする以上は不可能ということになってしまう。子会社の営業権を時価評価するのであれば、税法上その償却を認める措置を講ずる必要がある。一方、償却を認めると、繰越欠損金を有する子会社において、欠損金額に見合う営業権を計上することにより、実質的に連結グループへの欠損金の持込みを認めることになる。また、企業買収金額と被買収会社の時価純資産の差額が営業権だとすれば、営業権を評価するためには、全資産の時価評価が不可欠となり、せっかく時価評価資産を限定した意味がなくなってしまう。子会社の営業権を時価評価するかどうかについては慎重な検討が必要であろう。〈Y.O 〉