SCOPE EYE

 

平成14年度税制改正と今後の課題 

-連結納税制度を中心に-

 

一橋大学大学院

水野 忠恒

Mizuno Tadatsune

 

 

Profile

みずの・ただつね■昭和26年6月25日生まれ。昭和50年,東京大学法学部卒業、その後、東京大学法学部助手、昭和53年,東北大学法学部助教授、平成4年,同教授、平成6年,早稲田大学法学部教授を経て、平成9年,一橋大学法学部教授、平成11年に改組により、一橋大学大学院法学研究科教授。この間,平成6年4月,税制調査会特別委員,平成9年4月より、税制調査会委員、平成11年同法人課税小委員会委員長を務め現在に至る。主要著作として『アメリカ法人税の法的構造』(1988年4月、有斐閣)『消費税の制度と理論』(198912月、弘文堂)『国際課税の制度と理論』(200011月,有斐閣)がある。

 

 

 

  はじめに||最近の企業関係税制の動き

 1 平成13年においては、平成14年度税制改正の審議に至るまでに、商法等の関連法の改正も行われたこともあり、すでにさまざまな改正、もしくは改正案の検討がなされた。

 まず、平成10年度改正において、金融システム改革の一環として、有価証券取引税と取引所税の廃止が決定されたのと引き換えに、平成13年度において、株式譲渡益課税の申告分離一本化を行うという方針が示されていた。税制調査会においても、すでに平成13年9月に、金融小委員会「証券税制等についての意見」において、株式譲渡益の申告分離一本化を再確認し、原則として、平成14年12月31日をもって、株式譲渡益の源泉分離課税を廃止する方向性を示した。

 また、証券市場の活性化の観点から、商法の大改正を受けて、株式の譲渡益課税のみでなく、金庫株(自己株式の買受け)の課税が論議され、さらには、貯蓄優遇から投資優遇という骨太の方針をもとに、投資信託・投資法人課税(集団投資スキーム)のありかたについても審議された。その結果、国際競争力の強化と経済の活性化を根拠に、証券税制や金庫株税制など、相次ぐ、つぎはぎ的な税制改正が行われてきている。

 2 さらに、法人課税については、10月に、税制調査会法人課税小委員会において「連結納税制度の基本的考え方」がまとめられ、総会の承認も受け、連結納税制度の創設に向けた方向も、具体化しつつある。

 近年の税制の流れを大きくみると、平成10年度税制改正において、所得税の2度にわたる特別減税が行われ、課税最低限が大幅に上昇した。さらに、法人の課税ベースの適正化と税率引き下げ(34.5%へ)が行われている。平成11年度税制改正では、財政再建と経済回復の二兎を追うことはできないとして、6兆円減税といわれる、個人所得税の恒久的減税、法人税率のさらなる引き下げ(30%へ)が行われたが、法人の課税ベースの見直しは据え置きにされた。法人課税の税率が、アメリカ合衆国なみに引き下げられたこともあり、経済界からは、姿勢が逆転し,事業税の外形標準化に反対する姿勢が強められた。

 このような状況のもとで、平成14年度税制改正においては、連結納税制度の創設が大きな目玉であったが、複雑な法案作成が見込まれたため、その法案提出は遅れる見通しとなった。そのこともあり、今回の税制改正については、大改正とはならなかったが、この数年の税制改正の流れを認識するならば、近い将来、「抜本的な見直し」が検討課題とされる(平成14年度税調答申)ことは明白である。相次ぐ、税率引き下げや特例的な改正のため、あるべき税制の方向を見失ってしまうおそれがあるのである。付言するならば,さらなる減税案については,この数年の税制改正による減税の効果を考えるならば、むしろ、減税による経済政策の効果を検証すべきであるのではないかと思われる。

  他方で、法改正全体をみるならば、税制改正と商法改正との密接な連携が必要とされることが再認識され、合併・分割などの組織再編成や自己株式の買受けなどにつき、ビジネスにおける税制の重要性の認識が高まっていることを期待したい。

 ここでは、連結納税制度についてのみ、若干のコメントをしておきたい。

連結納税制度

 連結納税制度については、立法作業が遅れ、予算案とは同時に国会審議ができないという異例な事態となったが、その効力を平成14年4月の事業年度に遡及させることで見通しが固まった。同時に,連結納税採用にあたり,当初の2年間は連結付加税(2%)を課することとなっている。

 通常、租税法の理論では、一回のみ課される随時税については遡及は認められないが、所得税や法人税のような期間税については、法案の制定過程が国民に認識されており、その遡及については、租税法律主義に反するものではないと考えられるが、連結納税に対応する企業については、その詳細な方向もできるだけはやく知らされることを期待しているであろう。

 しかし、別稿にも述べたが、アメリカの著名な租税法学者が、口をそろえて、連結納税制度をきわめて複雑であると評価しているように、わが国の連結納税制度についても、そのコンプライアンスのためのコストが重大になりうることは十分認識しておくべきであろう。グループ企業内の損益の通算制度として安易に考慮すべきではないと考える。実際、連結納税制度の意義として、税制調査会法人課税小委員会における「基本的考え方」では,企業グループの一体的経営を根拠とするが、企業グループが固定したものではなく、加入脱退もあり、さらに、繰越欠損金の利用をはじめとする租税回避とうらはらをなすことを考えるならば、企業組織再編成のように一定の理論的基礎に立つ一貫されたものではなく、結論からいって、企業グループの一体性を重視する側面と、加入企業の単体性を重視する錯綜した税制となることは否定できないと思われるのである。企業として、システムの構築あるいは外部会計・税務事務所へのアウト・ソーシングのコストを見積もる必要が生じることも予想される。

 連結納税制度に関する現時点の基本的しくみとして示されている主たる特色を挙げるならば,@連結対象会社は100 %子会社に限る,A連結納税は選択性であるが,対象子会社(100 %子会社)はすべて含まれる,B連結納税加入時には,親会社以外の,子会社の欠損金は持ち込めないものとし,その時点で,事業年度を区切り,時価評価を行なう,C子会社の連結加入について一定の場合は,企業組織再編税制との調整をはかる,D連結法人の内部取引は,原則として時価で行なうが,課税はグループ外に譲渡される時点で行なう,というものである。

 単体性の法人税からみてかなり多くの連結調整が必要となる。

 持株会社の設立が相次ぐ中、企業のグループ化に対応するために、他方で、危険を伴う制度としての性格をもつが、この制度の創設により、持株会社の傘下における企業の分割・合併等の組織再編成がすすみ、経済の活性化を促進することを期待したい。