SCOPE EYE

 

証券市場の信頼の向上に向けて

−証券取引等監視委員会の現状認識と今後の方針

 

証券取引等監視委員会委員長

高橋 武生

Takahashi Takeo

 

 

Profile

たかはし・たけお■昭和10年生まれ、長崎県出身。平成8年東京地方検察庁検事正、9年福岡高等検察庁検事長、10年証券取引等監視委員会委員、昨年7月より現職。

 

  証券市場に対する現状認識

  証券取引等監視委員会(以下監視委員会という)の使命は、証券取引の公正性を確保し、証券取引市場に対する投資家の信頼を保持することにあり、それは、ひいては、間接金融から直接金融への流れの中で、国民経済の健全な発展を支えるものである。ところで、わが国の証券市場には「三つの不信」が存在すると考えている。

  第一は市場仲介者に対する不信である。個人投資家は、証券会社やその役職員に対して、手数料稼ぎに利用されるのではないか、複雑な商品を売りつけられて損をさせられるのではないか、などの根強い不信を抱いている。

  第二は一部市場参加者に対する不信である。わが国の証券市場が、いわゆる「仕手筋」や海外のファンドといったマーケットのプロに操られていて、素人が投資をしてもうまく利用されて損をするだけだという不信感がある。

  第三はわれわれ監視当局への不信である。監視委員会の人員やノウハウの不足などのために不正が見逃されているのではないかという不信である。

  このような不信を解消するため、監視委員会は、個人投資家の保護を最大の目標とすべきものと考えており、この目標を達成するため、

  個人投資家の利益を犠牲にして自らの利益を上げるような証券会社やその役職員など、悪質な市場仲介者の徹底摘発

  いわゆる「仕手筋」による大規模な相場操縦等を監視するなど、多数の個人投資家を欺き、市場の公正性を損ねる証券犯罪の一掃

  個人投資家のニーズや社会的関心に的確に応えるためのタイムリーな摘発による不公正取引の効果的な抑止

 の三点を戦略目標と位置づけている。

信頼回復のための証券会社の取組み

  証券取引市場においては、監視委員会のたび重なる指摘、摘発にもかかわらず、同じような法違反が繰り返されているのが現状である。その主な原因の第一は、証券会社の職員が法令遵守意識を欠き、あるいは、本来当然知るべき法令に精通していないことであり、第二は、その結果生ずべき法違反の防止のために当然果たされるべき経営陣や管理職の内部管理やチェック機能に問題があることであると認識している。

 したがって、証券市場の関係者がまず取り組むべきことは、職員、殊に外務員に対するコンプライアンスについての教育の充実、経営陣や管理職の法令遵守の重要性の認識および内部管理体制の整備である。

自衛のための個人投資家の取組み

 監視委員会の活動はあくまでも事後的な監視活動であり、仮に個人投資家が違法行為に巻き込まれて被害にあっても、委員会では個別的な被害者の救済はできない。また、われわれが全ての違法行為を摘発するということも現実には不可能である。したがって、不公正取引に巻き込まれないために、個人投資家は証券市場や証券取引の仕組みと、そこに内在する問題点を知り、その上で、証券取引は、本来、自らの判断と責任に基づいて行うものであることを理解してこれに参加すべきである。それには、出版物を読み、証券会社やその他の関係者に聞くなど、損をしないために、自ら学ぶ努力が求められる。

監視委員会の取組み

 監視委員会は、その責務を果たすため、今後、以下のような体制・機能強化に取り組んでいく。

 1 人員の増強

 14年度において、委員会事務局の人員を大幅に増員することにより、現在、大手証券を除き三年周期で検査している証券会社についても一年半周期で検査する体制の実現、インサイダーや株価操縦など犯則事件に対する調査・審査体制の強化、インターネットを利用した風説の流布等に係る審査の拡充、などを図る。

 2 情報収集・分析能力の向上

 効果的な情報の収集、分析の能力の向上のため、民間専門家の知識、経験、ノウハウを活用することが不可欠であり、デリバティブ・ディーラー、法律や企業会計の専門家等、民間専門家の登用を図っていく。また、効果的な情報の収集・分析を行っていくためには電算システムの充実が不可欠である。

 3 国際化への対応

 証券取引の国際化が進展し、国境を越えたレベルで各国市場の公正を害する行為が発生していることを踏まえ、証券監督者国際機構(IOSCO)を通じた外国当局との協調に加え、さらに、米国のSEC、英国のFSA等との連携強化を図っていく。

 4 関係当局との連携強化

 自主規制機関との連携を深め、監視委員会と自主規制機関トータルでの市場監視体制の強化を図るため、昨年11月から監視委員会と東証、大証、証券業協会との間でトップレベルでの定期的な意見交換会を開催している。また、証券会社の財務の健全性を検査する金融庁検査局との同時検査を拡充し、より効率的、効果的な検査を実施する。

 5 投資家教育の推進

 個人投資家のなかには、証券取引やマーケットに関する知識が少ないために予想外の損を出し、証券取引の世界から去る者もある。また、証券取引をする個人が、正しい知識を持ち合わせていなければ、そこに違法行為が生まれる可能性がある。

  このようなことを避けるため、可能な範囲で個人投資家に対する啓蒙をしていく。具体的には、ホームページを通じて、摘発事件の概要やそれを踏まえた証券取引における注意点などを知らせ、また、各地で個人投資家との対話の機会を設け、現在の証券取引市場の状況、そこで起きている問題、個人投資家としての留意点などについて説明していく。

おわりに

 われわれは、市場に対する投資家の信頼を保持するため、与えられている審査、検査、調査の権限の適正な行使に全力をあげ、また、投資家教育に配慮するなどして、公正で透明性のあるマーケットをつくりあげることを使命と考えている。今後もこのような認識のもとに、責務を果たしていくつもりである。