▽三角波△

確定決算主義のゆくえ

 

 

平成14年度税制改正によって、連結納税制度が曲がりなりにも導入にこぎつけられたが、その一方で、制度導入に伴う税収の減少を補填することを主たる目的として、退職給与引当金制度の廃止、受取配当金の取扱いの見直し、などの課税ベースの拡大が行われた。
 平成10年度税制改正に次ぐ課税ベースの拡大により、課税所得と商法上の所得との乖離がますます拡大したことはもちろん、連結納税制度の下では、単体の商法計算から出発するとはいうものの、連結納税特有の調整を行うことにより、課税所得と商法計算とは相当異なる性質のものとなるに至ったといえる。このような事態を踏まえ、課税所得計算と商法計算と有機的に結び付けてきた「確定決算主義」の今後の方向性を探りたい。
確定決算主義とは
 確定決算主義を規定する法人税法74条1項では、法人が、その決算に基づく計算書類について株主総会の承認を得た後、その承認を受けた決算に係る利益に基づいて税法の規定により所得の金額の計算を行い、その所得の金額および当該利益の計算と当該所得の金額の計算との差異を申告書において表現するという課税所得の申告のプロセスを示している。
 実質的には、第一に、法人が確定決算において採用した具体的な会計処理が適正な会計基準に従ってなされている限り、その計算を課税所得計算の上でみだりに変更してはならないこと、第二に、法人の意思が作用する主観的な取引については、法人の意思を最終的に確認する手段として損金経理を要求すること、に大きな意味がある。
 ただし、商法の計算の目的は、第一に有限責任しか負わない株主への利益分配の限度額を定めること、第二に会社債権者や株主等の会社の利害関係者がそれぞれの意思決定を行う前提となる情報を会社から開示させることにある。一方、法人税法の課税所得計算の目的は、課税負担の公平や特定の投資の勧奨といった商法とは異なる部分がある。そこで、一定の場合には申告調整を行うことが認められているのである。
商法計算、企業会計との〓離の拡大
 しかし、憲法84条(租税法律主義)により、租税は厳格な法律のコントロールを受けるものであり、しかも、所得の存否をめぐる課税当局と納税者との紛争は究極的には裁判所の法的判断にかかっており、会計基準は公正な慣行として慣習あるいは慣習法としての法規範性を有するもののみが、法的判断の基準となる。したがって、会計学は、法律により目的を設定された後の計算の技術であるにすぎない。法人税法22条4項の「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて」とはこのことを明らかにしていると考えられる。
 つまり、法人税法において、企業会計の動向はどうであれ、もっぱら課税理論の見地から、課税所得計算の方法について「別段の定め」(22条)を設けることは一向に構わないということになる。課税所得の申告プロセスにおける確定決算主義は、便宜上、企業会計を借用しているにすぎず、従来は、両者の類似点が多かったことから、企業会計と商法計算と税務上の所得計算とを三位一体で考えるという「誤解」が生じてきたものと考えられる。
 したがって、今後は、さらに法人税法独自の制度の整備が進むものと考えられる。

〈Y.O 〉