SCOOP EYE

 

社会からの期待に十分応えうる強い公認会計士を目指して

奥山章雄

 

 

 

 

おくやま・あきお■1967年3月早稲田大学商学部卒業。1968年12月監査法人中央会計事務所に設立時から入所,1971年3月公認会計士登録。現在,中央青山監査法人代表社員,日本公認会計士協会会長。

 

強い公認会計士へ

 バブルが崩壊してから10年の期間が経過したが,かつての右肩上りの経済の復活はまったく見られない。10年の年月を経てまだ復活しないということは,戦後45年間続いた土地本位の経済システムは完全に崩れてしまったと言っても過言でないであろう。

 このことに社会全体が気づくのが遅かったように思われる。過去数年前の金融機関,ゼネコンの破綻,それを見抜けなかった監査等も大きく見ればこの経済成長パターンの激変に対応できなかったことによるものと思われる。

 近年,この混迷した経済の状況を克服すべく,抜本的な改革があらゆる業界,あらゆる領域でとられようとしている。

 中地前執行部は,混迷した経済のなかで公認会計士監査に対する信頼を取り戻すべく,懸命に対策を実行してきた。今年の7月に中地前会長から会長職を引き継いだ私としても,その対策は当然に継承し,確立していかなければならない。

 しかし,激変している昨今の経済システムの中で,社会の公認会計士に対する期待は,かつての会計士監査の甘さに対する批判の裏返しとしての期待よりは,さらに上回っているように感じられる。規制緩和,自己責任原則の貫徹,ディスクロージャーの徹底等の社会的要請のなかで,「専門性」と「独立性」とを有する公認会計士にさらなる役割を期待しているのかもしれない。

 私どもは,単に財務諸表の数値が会計帳簿の数値と合致している,というレベルではなく,会社の状況が本当に財務諸表に表われているのかという視点で業務を遂行していくことが求められていることを認識しなければならない。換言すれば,昨今の経済システムの大変革のなかで,公認会計士の役割と責務をしっかりと見直し,その対策を組み立てていかなければならないということである。

 私が標榜する「強い公認会計士」とは,社会の期待は十分に応えうる公認会計士のことであり,そのためにはまずもって正確な現状認識を有することが決定的に必要である。

 

 私どもは,甘い認識で現状に妥協する公認会計士ではなく,深い認識を有しトップに決断を迫る強い公認会計士にならなくてはならない。

 

会長としての基本方針

 前述した認識のもとで,私は会長として施策を進めていく上で,次の3つを基本方針として掲げる。

 1 自己改革として位置づけられた前執行部の対策を継承し,確立していく。

 2 従来議論されてはいるが,着手できなかった制度改革に取組み,断行する。

 3 「専門性」と「独立性」を保持する公認会計士に求められる役割は積極的に果していく。

 

具体的施策

 1 継続的専門研修(CPE )の義務化

 公認会計士は,常に最新の知識を保持し,スキルの充実に努めることは当然のことである。

 このことを一般社会にも明確にするためにも,公認会計士全員が専門研修を必ず受ける制度を確立する必要がある。したがって,協会としては,具体的施策として来年4月から年間40単位(40時間)以上を取得することを全会員に義務づける。義務づけるということは義務違反をした場合にペナルティーがあるということである。

 2 品質管理レビューの強化

 品質管理レビュー制度を導入してから2年経過したが,これまでは大手監査法人を除き,監査事務所の品質管理体制をレビューすることに重点を置き,個々の会社における監査業務のレビューは実施していなかった。

 今年からは,監査事務所における個々の会社の監査業務もレビューすることになっている。従来よりレビューの深度が深まるわけである。大監査法人を含めて各監査事務所は限定事項あるいは改善事項を是非克服していただきたい。

 3 監査の厳格化の維持

 ここ2,3年は各監査事務所ともクライアントを失っても止むを得ないとの強い態度で監査を実施してきている。この事がようやく社会で認知されつつある。協会としては,品質管理レビューをとおして,あるいは実務指針の強化を通じてこの状況の維持をウォッチしていくつもりである。

 4 国際関係の強化

 公認会計士協会は,国内的な改革のみならず,国際的な改革においても課題に直面している。国際会計士連盟の大幅な組織改革,証券監督者国際機構における国際監査基準の承認作業等,具体的課題が取り挙げられている。

 会計士協会としてこれらの動きに遅れることなく対応していく必要がある。専門研究員の採用も早急に行わなければならない。

 5 民間組織としての会計基準設定主体の確立

 現在,民間の会計基準設定主体として,財団法人「財務会計基準機構」(仮称)の設立準備が進められており,私どもも全面協力の形で支援しているが,設立されたからと言ってそれで終りということにはならない。むしろ,それ以後充実した活動が継続的に行われるよう協力していくことが肝要である。設立後も十分な支援を行っていきたい。

 6 公認会計士法の改正提案

 公認会計士法は,昭和23年に制定されて以来,昭和40年に大改正されたが,それ以降試験制度についての改正を除いて,まったく改正されていない。

 監督法人における社員の無限責任制を始めとして現在の状況には適さない条文が公認会計士法には数多く存在する。私どもは組織を挙げてこの改正問題に取り組み,提案していかなければならない,と考えている。

 7 多数の優秀な人材の確保

 公認会計士数がまったく不足している現在の状況を,法律改正提案を含めて打破したい。

 8 会計士協会の透明性の確保

 新聞等で問題とされた個別企業の監査問題において協会はどのように対応しているかを明確にするために個々の事案について公表することを検討したい。

 9 公会計への貢献

 公認会計士の専門性を生かして公会計基準の設定等公会計分野に積極的に貢献していきたい。