大和銀行株主代表起訴判決について
大阪地裁は、9月20日に、大和銀行の2つの株主代表訴訟に関して、旧経営陣11名に対して、総額で7億7500万ドル(約830億円)を同行に賠償することを命じる判決を行なった。この判決を契機に、与党3党は、「商法に関するプロジェクトチーム」を発足させ、株主代表訴訟制度の見直し作業を開始した。特に自民党では、すでに昨年4月に「企業統治に関する商法等の改正案要綱」を取りまとめており、この案を軸に今後検討が進められるものと思われる。
ここでは、大和銀行事件判決を概観するとともに、代表訴訟制度見直しの課題について整理したい。
大和銀行事件判決の概要
この代表訴訟は、大和銀行ニューヨーク支店の元行員が過去11年間にわたって無断取引を約3万回繰り返し、11億ドルの損失を同行に発生させた事件に関して、第一に、元行員の不正行為を防止する義務を怠ったこと(甲事件)、第二に、元行員から同行頭取に宛てた手紙で被告役員はこの事実を知ったにもかかわらず、米国の法令に違反して米国当局への通知を行なわず、米国当局から訴追を受け3億4000万ドルの罰金を支払ったこと(乙事件)、の2点について、それぞれの行為に関して生じた同行の損害を賠償することが求められていたものである。
大阪地裁の判決では、甲事件については、健全な会社経営を行なうには、その事業規模、特性に応じたリスク管理体制の整備が必要であり、その大綱については、重要な業務執行(商法260条2項)として取締役会が決定することを要するとともに、業務担当取締役はそれぞれの担当部門におけるリスク管理体制を具体的に決定する職責を負うが、リスク管理体制の内容は経営判断の問題であり、取締役の広い裁量を認めている。本件に関しては、同行取締役会のリスク管理体制の大綱の整備については賠償責任を否定し、ニューヨーク支店における具体的な管理体制の整備に関して、当時の同支店長兼取締役であった被告の責任を認めた。
乙事件については、取締役が賠償責任を負う「法令違反」(商法266条1項5号)には、海外に事業展開している場合、当該外国の法令に違反することも含まれることを明示した上で、米国連邦法典違反として被告の責任を認めた。この際、取締役の職務遂行には広い裁量が認められるとはいっても、外国の法令を含む法令に適うか否かについては裁量の余地はないとしていることに注目すべきである。
株主代表訴訟制度見直しのポイント
一方、昨年発表された自民党の改正案では、監査役制度の強化(社外を半数以上とする等)と併せて、@取締役の責任を予め定款あるいは、個々の事件ごとに株主総会の特別決議で、報酬の2年分に限定することや、A現在は6ヶ月間株式を保有すればだれでも代表訴訟を提起できるところを、問題となる取締役の行為のなされる以前の株主に限定するB監査役の考慮期間を30日から60日に延長する、等が提案されている。
これらの案の中で、原告適格の制限や監査役の考慮期間の延長は、理論的にも、また立法技術的にも、それほど大きな障害はないものと考えられる。しかし、これらの措置は、代表訴訟の濫用に対して、さしたる効果は期待できない。制度見直しのポイントは、取締役の責任が軽減できるか否かである。
今回の判決との関係では、取締役の責任の限定が焦点になるが、自民党の案では、原因行為が犯罪や悪意・重過失に基づく場合には軽減ができないこととなっている。つまり、今回の乙事件については、この案では、巨額の賠償責任は免れないこととなる。しかし、会社という巨大組織の活動の結果として生じた損害を一個人に補填させるという本制度には不合理な点があり、取締役が私腹を肥やしたような場合はともかく、それ以外の場合には株主の多数が認めるのであれば、責任の軽減を行なうべきである。もちろんそのような場合には、その結果を不満とする株主には投下資本回収の道を開くべきであり、反対株主の株式買取請求権を認める必要があろう。]
〈Y.O〉
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