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二元的所得税の議論をめぐって

 

  

 平成15年度税制改正において、諸控除の縮減をはじめとする個人所得課税の抜本改革が一つの重要な論点となるものと見られるが、これに関連して、所得課税のあり方について、「二元的所得税」の議論が最近注目されている。
 政府税制調査会が6月に発表した「あるべき税制の構築に向けた基本方針」で取り上げられた他、金融庁の研究会が取りまとめた報告書では、まさに「二元的所得税」を中心的課題として、それをめぐる諸論点の整理がなされている。


 二元的所得税とは
 「二元的所得税」とは、勤労所得と資本所得を分けて、勤労所得については累進税率を適用する一方、資本所得については低率(累進税率の最低税率あるいは法人税率)で課税するという所得課税の手法である。ノルウェー、フィンランド、スウェーデン、デンマークなど北欧諸国において、1990年前後に相次いで二元的所得課税が導入されている。
 一方、わが国の個人所得課税は、シャウプ勧告以来、ある年にその人の経済力の増加に寄与したすべての所得を把握して、そこに担税力を求めるという包括的所得課税を基本的考え方として、給与所得や、事業所得などの勤労性所得に加え、利子・配当や譲渡益などの資産性所得を合算して、累進税率で課税する総合課税を原則としてきた。しかし、実際には、株式譲渡益や利子・配当などのように、総合課税の原則から離れ、勤労所得などと分離して課税される所得も多いことも事実である。
 こうした現状からすれば、わが国の所得課税のあり方として「二元的所得税」を検討することも、実質的には、それほど違和感のあるものとはいえないのではないか。


 二元的所得税の利点
 「二元的所得税」の利点の第一は、多様な金融商品を一括りにすることにより、税制の簡素化を図るとともに金融商品間の中立性を確保することができることである。
 現状では、金融商品間で、所得区分、課税方法(申告分離、源泉分離、総合課税)、税率がばらばらである。たとえば、株式で運用した場合には、譲渡益は譲渡所得(申告分離課税、税率20%)、配当は配当所得(総合課税、最高50%)、株式投資信託で運用した場合には、分配金・解約差益が配当所得(源泉分離課税、20%)、株式先物で運用した場合には決済差益が雑所得(総合課税、最高50%)となっている。これを一括りにすれば、多様な金融商品間で税制の中立性が向上するというものである。
 さらに、金融工学という最新の技術によって新しい金融商品が次々と生まれてくる中で、現状の複雑かつ中立的でない税制が商品開発上のネックになっていることから、「二元的所得税」の導入により、金融商品開発上の税制上の弊害が軽減されるメリットも考えられる。
 また、異なる種類の金融商品から得られる損益を通算することができるようになれば、投資リスクを分散することが可能になり、積極的なリスクテイクを促進する効果も得られよう。
 金融所得を一括して課税するにあたっては、「名寄せ」が必要であり、納税者番号制度の導入をはじめ資料情報収集制度の整備が不可欠である。簡素で中立的な二元的所得税の導入のためであれば納税者番号制度の導入についても、国民の理解が得られるのではないだろうか。


〈Y.O〉